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第二章「敵は己自身?」の弐


 「言われなくなくとも分かっておるわっ! 行くぞ」

 投降兵たち二十名はその場から立ち去って行った。


 ◇◇◇


 「あなたたちはどうするの?」

 おとかは問うた。


 前回の戦での投降兵は全部で五十名。二十名は立ち去ったが、まだ三十名が残っている。おとかは残った者のうちの一人に問うたのだ。


 「残った者全てではないですが……」

 問われた者がおずおずと答える。

 「今回の砦攻めに参加した者の中には結構な数の兵士でない官人がおりまして、わしもそうなのでござるが……」


 ! 官人か。郡府(ぐんぷ)は総動員で来たということは本来の兵士だけでなく、文官まで戦に駆りだしたということか。


 問われた者は続ける。

 「わしはもともと兵士でない故、子どもの侍大将が嫌ということはないのでござるよ。見たところこの新しい村では計数に明るい者があまりいない様子。戦よりそういうことでお役に立てれば……」


 その通りだ。これは逆にこちらが助かる。わしはおとかの問いに答えてくれた者に自ら問うた。

 「そなた。名は?」


 「シンと申す」


 「シン殿。いくつか聞きたいことがある」


 「わしに答えられるものならば……」


 「シン殿は計数に明るいのか?」


 「さようでござる」


 「今回、投降した者には他に技能を持った者はおるのか?」


 「わしが知る限り、郡府(ぐんぷ)が直接持っている畑を管理してた者、その畑で穫れたものを加工していた者、運送を担ってきた者、建築をやってきた者などがおるでござる」


 ふむ。そういった者が配下になれば、好都合だ。しかし……

 「シン殿はよいと言ってくれたが、他の者はわしのような子どもの下につくことはよいと思っておるのであろうか?」


 「わしはもはやそなた様にお仕えしたいと思っておるので、『シン』と呼んで下されば幸い」


 「分かった。シン。他の者はどうなのじゃ?」


 「わしらは文官。ろくに武器を持ったこともござらぬ。じゃが、今回は無理矢理武器を持たされ、しぶしぶ従軍いたした」


 「それは分かるが、子どもの下につくことはどうなのじゃ?」


 「わしらはもとよりこの郡におる下級官人。都から来た若い上級官人に仕えることは珍しいことではござらぬ。それに……」


 「それに?」


 「わしらもこの郡に重税をかけ、納められねば民を売る都から来た者のやり方を苦々しく思っておった者も多いのです。口に出すことは出来ませなんだが……」


 「!」

 役人にもそういった者がおったのか。これは……


 「そして、この砦に入り、驚いたのでござるよ。このようなやり方もあったのかと…… 民がみな生き生きしていて……」


 「……」

 

 「どうかどうか。わしも含め、ここに残りたいと思う者がお仕えすることをお許しくだされ」


 「…… 分かった」


 「ありがたき幸せ」


 「だがな」


 「は?」


 「そう言った事務方の者の取りまとめ役もいる。シン。そなたがやってくれるか?」

 

 「わしでよろしければ」


 ◇◇◇


 その晩、一人で部屋で寝入っていたわしは不意に後から首を掴まれた。


 更には首筋に刃物を当てられた。わしは思った。やはりこの世界にも刺客がいるのか。


 「勝手に動くな。これから先はわしの言うとおりにだけ動け」


 刺客の指示にわしは無言で頷いた。


 刺客はわしの首筋に刃物を当てたまま中庭に出るように言った。わしはその指示に従った。


 「佐吉っ! どうしたのっ?」

 さすがにおとかは迅速だ。すぐに駆けつけてきた。


 「おのれ……」

 目の色を変えるおとか。だが、わしはそれを制した。

 「大丈夫だ。おとか」


 中庭に出ると、出て行ったばかりの投降兵たち。それに青い顔をしたシン。ふうむ。


 投降兵たちにわしを捕らえたまま合流した刺客はあざけるように言った。

 「そちは馬鹿か。降ったばかりのシンを門番に使うとは。奴はわれらに逆らえん。少し脅したら、すぐ門を開け、そちのところに案内してくれたわ」


 今夜は月が明るい。わしを捕らえた刺客は思った通り出て行った投降兵たちの代表だった。


 わしは淡々とした調子で問うた。

 「何が目的なのだ?」


 刺客は大きな声で返した。

 「この砦を明け渡してもらおうかっ!」


 ◇◇◇


 ざわっ


 三々五々集まって来た砦の者たちは一斉にざわめく。


 「おっと。勘違いするな。全ての者に出て行けとは言わん。出て行くのはヨクにヒョーゴ。サコと『突撃隊』。おとかと『遊撃隊』。それだけだ。他の者はそのまま残ってよい。と言うより残れっ!」


 ざわめきは止まらない。おとかにヨク殿、それにサコも集まって来た中にいる。女衆に混じってウタもいる。


 ウタの顔色は真っ青で震えているようだ。


 そんな中、サコが片目をつぶった。合図だ。


 わしはいったんしゃがみ込んでから、大きく立ち上がった。首筋に少し傷がついたがどうということはない。


 慌てた刺客に肘打ちを喰らわせ、腕が緩んだ隙におとかとヨク殿がいる方向に走り出した。


 同時にシンも投降兵たちのところから抜け出した。


 「あっ、この野郎」

 投降兵たちはシンを捕らえようとするが、入れ違いに飛び込んで来たサコの槍に喉を突かれる。


 それと同時に周りに伏せていたサコ配下の「突撃隊員」たちが投降兵たちに襲いかかった。


 決着は半時(一時間)もかからずついた。


 投降兵の代表は「汚い手を使いやがって」と言いながら戦っていたが、サコとの一騎打ちであっさり討ち取られた。他の投降兵たちも全員が討ち死にした。


 戦が終わった頃、ヒョーゴ殿がゆっくりと姿を現した。

 「どうやら終わったようだねえ」


 これに噛みついたのはウタだ。

 「今頃来たんですか? どこに隠れてたんですか?」


 



次回第三話は6/29(火)21時に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 素敵な人材がそろいつつありますね (*´▽`*) なんだか耶律楚材を雇うジンギスカンみたい!
[一言] あ〜あ、失わずにすんだ命なのに。 しょうもないボスに従ったがために死んでいった20名ほどが……。もったいない。
[一言] 流石佐吉さん! くぐってきた修羅場の数が違うぜ!w
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