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第二章「敵は己自身?」の壱

挿絵(By みてみん)

©秋の桜子様


 「チィッ!」


 その聞えよがしの舌打ちは部屋中に轟き渡った。


 不満を抱く投降兵たちの代表三名のうち、真ん中の男がやったことだ。


 恐らくこの男が不満を抱く者たち全体の代表なのだろう。


 言わんとすることは分かる。


 「この砦の精鋭兵団『突撃隊』の侍大将を子どものサコがやっていることが気に喰わない」

 そのことを領主代理のヨク殿にもさんざん言ったようだ。


 ヨク殿も初めは「サコが最も武芸に優れている」とこんこんと説得してくれたそうだが、相手は「子どもが侍大将だなんておかしい」と言って、譲らない。


 ついには「領主殿に直談判してくれ」と言ってしまったそうだ。


 ヨク殿はすまなそうだったが、気にすることはない。こういう(やから)はどこにでもいる。


 そして、出て来た領主がまた子どもと来たもんだ。でかい舌打ちもしたくもなるもんだろう。


 あくまで相手方の立場とすれば……ということでだが。


 ◇◇◇


 「侍大将も子どもなら、領主も子ども。どうなってるんだ。この砦は」

 舌打ちした男は不快感を全く隠そうとしない。

 「よくこんなのでやってこれたな。すぐにでも交代しろっ!」


 さすがにヨク殿がたしなめる。

 「その子どもたちに戦で敗れたのでしょう。貴方がたは」


 男はさすがに少し顔色を変えるが、すぐに言い返す。

 「あっ、あれは郡府(ぐんぷ)の上の人間が無能だからだ。わしらに任されれば勝っていた」


 成程、郡府(ぐんぷ)の上層部が無能なのは本当のことだろう。しかし……


 「めんどくせえなあ」

 ヒョーゴ殿は相変わらずだ。

 「だから、サコが気に喰わないなら、一騎打ちの模擬試合をやりゃあいいんだよ。そうすりゃ、すぐにはっきりするだろうよ」


 「ま、待てっ」

 男は焦燥感を漂わせながらも、何とか言い返そうとする。

 「それでは猪武者ではないかっ! 侍大将たるもの本人一人が強ければよいというものではなかろうっ!」


 言っていることは正しい。しかし残念ながらサコは猪武者ではない。きちんと指揮が取れる人間だ。


 「だったらよお」

 ヒョーゴ殿の調子は変わらない。

 「それなら複数人数同士の模擬試合をやればいいんだろ。そうだなあ。二十対二十くらいでいいんじゃないか」


 男は沈黙した。さすがに反論のしようがなかったらしい。


 ◇◇◇


 「よし、決まりだな。善は急げだ。佐吉殿。北側の草原が良かろう。模擬試合だから槍の先の刃は外してな」

 ヒョーゴ殿は見るからに嬉しそうだ。


 さすがにわしはたしなめた。

 「いや、ヒョーゴ殿。模擬試合とは言え、真剣勝負。そう笑われたのでは」


 「おうっ。すまぬすまぬ。これは真剣勝負。真面目にやらぬとな」

 そう言いながらヒョーゴ殿は笑っている。本当に喰えないお方だ。


 ◇◇◇


 砦の者たちが見守る中、模擬試合は始まらんとしていた。


 正直、先の戦で損壊した場所の修繕を急ぎたい気持ちも強い。実際、前世のわしだったら、下らないことを言っていないで修繕を急げと一喝しただろう。


 だが、人の気持ちはそんなにきれいに割り切れるものではないと学んだ。ちゃんとした手順を踏まないと不満は鬱積して、思わぬところで爆発しかねない。


 砦の者たちでも戦慣れしていない者は困惑の表情で見つめている。もし、サコたちが負けることがあったら、あの投降兵たちが幅を利かすことになる。


 そうなったら、今まで伸びやかにやってきたこの砦はどうなってしまうのか。不安なのだろう。


 しかし、戦のことを少しでも知っている者は全く心配していない。ヨク殿が落ち着いているのは流石だが、ヒョーゴ殿はまだ笑いを噛み殺しているし、おとかに至っては欠伸をしている。


 真剣勝負だと言っておるのに。


 ◇◇◇


 模擬試合開始の合図はわしがすることにした。ヨク殿は「突撃隊」侍大将のサコの実父だし、ヒョーゴ殿は笑いをこらえきれないし、おとかでは小娘にやらせるのかと言われよう。


 わしは中空に矢を打ち上げ、その矢が着地したと同時に開始とした。


 先に動き出したのは投降兵たちの方だった。一目散に敵の大将サコに突進してくる。大将の首を取れれば、戦は勝ちだ。狙いは悪くない。しかし……


 「あーあ。何でサコがああやって、ど真ん中に目立つようにいることがおかしいと分からんのかね」


 さすがにヒョーゴ殿は見抜いていたか。そう、サコは囮だ。しかも、えらく個人的戦闘力の高い囮だ。


 「突撃隊」側はゆっくりと両翼を広げる。サコを攻撃することで頭がいっぱいの投降兵側は気が付かない。


 投降兵側の兵の最初の一撃をサコは難なく振り払う。二撃三撃も同様だ。気が付けば、一人で三人を相手にしている。


 そうこうしているうちに「突撃隊」の両翼が投降兵たちをとり囲む態勢が出来、側面から挟撃をかける。


 そこから先はあっけなかった。投降兵たちは「突撃隊」に完全に打ちのめされた。


 「勝負ありですな」

 ヒョーゴ殿は笑顔で投降兵の代表に声をかけた。


 「チィッ!」

 投降兵の代表はまたも大きな舌打ちをして言った。

 「卑怯な手を使いおって」


 「卑怯ではありますまい」

 さすがにヨク殿が否定する。

 「これが卑怯だと言われるなら、最初の一騎打ちを受け入れれば良かったのだ」


 投降兵の代表は顔を真っ赤にすると立ち上がった。

 「とにかく気に入らん。何を言われようが子どもの下風に立てん」


 「となるとだ」

 ヒョーゴ殿も言う。

 「ここの砦の者たちはその『子ども』に救われた者だ。しかも、あんた方より強い。あんた方がこの砦を出て行ってもらわんとな」






 

第二話は6/28(月)21時に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 時間作れたので、やっと読める♪ [一言] 投稿兵は、そりゃまぁそうなりますよね。 何となく、ただ出て行くだけでは終わらない予感……。
2022/01/02 01:41 退会済み
管理
[一言] 戦術を知っているか知らないかの差、あっさり出ましたね! 大人だというだけで威張っていた投降兵に、一泡吹かせましたねー。ざまぁww 完結おめでとうございます! 楽しみに読ませていただきます!…
[一言] >「卑怯な手を使いおって」 ここがいい味出してますね! 情感分かりみ易いです (*´▽`*) 表紙も素敵ですね! バックの村落の情景が好みです☆彡
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