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ある日のギルドの内にて

「そろそろ俺も銀になりてえ」


「遠方調査組はまだ戻ってこないのか?」


「金貸してくれ!頼む!」


 とある日の日中、ギルド内。ギルドが稼働していない深夜を除き、朝から晩までここでは多数の冒険者達が腰を下ろしている。


 各々がクエスト、金、武具などの猥雑な会話を交わす中、正面出入口から新たな冒険者がギルドに足を踏み入れる。


 何の変哲もない同業者。内部の冒険者は基本的にはそう思い込み、横目で少し見ただけで会話の中断すらしない。だがこの時は違った。


「……」


 見慣れない冒険者だった。少なくとも、三年間このギルドに身を置いている銅等級冒険者ジョンの記憶には無かった。


 性別は女。髪色は珍しい黒。ここまでなら冒険者最弱とウワサされている通称鉛のバンシーだと言えるのかもしれないが、何もかもが違った。


 鉛のバンシーとは違いうっとおしい前髪が無く真っ当な髪型。これまた真っ当な服装。何より、その顔立ちや立ち振る舞いが示す未熟さには妙な魅力がある。


 少なくとも、ギルド内の会話のいくつかが止まってしまったぐらいには。


「あ、あの、クエストの成功確認を」


「はい、少々お待ちください。……はい、確認出来ました。フリューゲルさんを銅等級冒険者に認定します。印が明日には出来ますので、後ほどお渡ししますね」


「は、はいっ」


 フリューゲル、銅等級。聞き覚えの無い名前と駆け出しを意味する等級を聞き、何人かの男の冒険者の中に下心が芽生える。


 その中で最初に動き出したのがジョンだった。


「よお姉ちゃん、駆け出しかい?」


「……!」


「おおう、大げさだな……」


 熱いものに触れたようにジョンの声に反応し、身を引いたフリューゲルの整った顔をより近くで見て、ジョンは更に攻勢をかける。


 女冒険者はあまり多くない。駆け出しとくれば更に貴重になり、顔が良いともなれば小さな奇跡の域。


「駆け出しなら分からん事もあるだろう。どうだい、俺も銅等級だが先輩として色々と教えてやれ――」


「おい」


「っああ?今俺が話して――」


「そいつは俺のツレだ。先輩役なら間に合ってる」


「オ、オーウィン」


 ジョンは水を差され熱くなりかけた頭が、急激に冷えていくのを感じた。


 オーウィン。自分と同じく銅等級冒険者。だがその情報は何のアテにもならないという事をジョンは知っていた。現にこの男は直近でアーマードベアをとんでもない方法で討伐している。


 ジョンの知るこの男の経歴が、目つきが、実例が、ジョン自身に埋められない差を感じさせていた。


「そ、そうか。あんたが教えるんなら確かに俺は要らねえ」


「悪いな」


 いつの間にかフリューゲルは身を隠すようにオーウィンの横へと移動していた。


「――――」


「――?――」


 そのまま二人は会話始めながら並び歩き、ギルドの外へと姿を消した。


「はぁ……」


 この時、ジョンのため息と同時に何人かの男が謎の駆け出し女冒険者を諦める決断を下していたのは、当人達だけが知る事だった。

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