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「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」


「ツレが先に来てる筈だ」


 店員に断りを入れて店内へと入る。目的のテーブルはすぐに分かった。


 相変わらずうっとおしい髪とボロボロの服。目を引くのか周囲からもチラチラと見られている。何も頼んでいないからか店員からもだ。


「よう。来てくれたか」


「……ど、どうも」


「おい、適当に何品か持ってきてくれ」


 近くに居た店員に注文し席に座る。女ーーフリューゲルはギルドで見かける時のように俯いていた。


「済まないな。昼時で」


「いえ……その……」


「とりあえずコレを渡す」


 懐から袋を取り出しテーブルに置く。重さで木が軋む音が聞こえた。


「それは……?」


「?アーマードベアの討伐金だよ。アイツは本来なら討伐指定、それも銀等級の仕事だ。これくらいは報酬として妥当だ。ほら」


「えっ、えっ、何で私にっ?」


「何でって、言ったろ。アーマードベア討伐が俺がやった事になっちまったんだから、金は俺が受け取って後で渡すって」


 あの後、近場に居た冒険者に頼みギルドに連絡、状況説明をしたがフリューゲルが討伐したとは全くもって信じられずに俺がやった事になってしまった。コイツの経歴的にも信じられない理由は分かるが。


「本来は名誉だってお前のモノなんだ。そんなに不思議か?」


「……後で渡すなんて嘘だと思ってました。それにっ、私がアレを倒したなんて、私が一番信じられないというか……」


「確かにアレを倒したのはお前だよ。胸張って受け取れ。……お、来たか」


 いつまでも遠慮して手を伸ばそうしない為、袋をフリューゲルに押しやる。空いた机に店員が持ってきた料理が並んでいく。


 まずはスープに手を付けようとしたところで、何故かモジモジとし始めたフリューゲルが目に入る。


「食わないのか?」


「え?」


「えっ、って……ああ、俺の奢りだ。好きなように食え」


「……?……!?」


「何警戒してんだよ……冷めるぞ」





 ☆





「で、考えてくれたか?俺の話は」


 飯も大体食い終わったところで本題を繰り出す。ちなみにフリューゲルは俺より食う量が多かった。


「あの、そもそも言っていた事がよく分からなくて……」


「俺がお前を英雄にする。具体的に言えば白金等級だな」


「はっきん?」


「……お前、本当によくそれで今まで冒険者やってこれたな。金等級の上、普通の手順じゃ絶対になれない特別な等級だ」


「……私がそれに?」


「ああ。現役の白金は今は一人だけ。お前がなれば二人目だ」


「む、無理無ーー」


「無理じゃない、お前なら絶対になれる!」


「ひい!」


「……すまん、熱くなった」


 冷静になる為にコップの中に残っていた水を全て飲み干した。まずはコイツの事を知るところから始めるべきか。


「お前、何で冒険者やってんだ?確かあの時は無理矢理やらされてたとか言ってたよな」


「……わっ、私、兄妹がいっぱい居て、生活費が足りないから働けって言われて、稼げる仕事はし、娼館か冒険者しかないって言われて、その」


「冒険者になったと。まあ、お使い程度のクエストでも数こなせば酒場の手伝いよか稼げるか」


「……嫌だったんです、嫌なんですぅ!モンスターと戦うなんて、私には絶対無理なのにぃ……」


 貧困を理由に仕方無く冒険者になるようなヤツは腐る程居る。だが大抵はクエストの中で割り切るようになる。それか早々に死ぬ。


 コイツは結局、今に至るまでこの仕事に染まれなかったようだ。


 しかし、それも今日までの話だ。


「安心しろ。そこも含めて俺が何とかしてやる。無理とは言わせない。お前には冒険者として才能、それも特大の才能がある」


「いや……その……」


「実利的な話をしよう。お前の才能はキチンと整えれば金になる。そんな袋に収まらない、膨大な金だ。お前にも何か夢はあるだろ?生きるにも夢を叶えるにも、金は有った方が良い。それはお前が一番分かってる筈だ」


「う……」


「俺を信じてみないか。お前の行く末……未来を、俺に預けてくれ」


 いつの間にかフリューゲルは前を向き、俺と向かい合っていた。髪が邪魔であまり見えないが、その奥にある目に語りかけるように俺は自分の真剣さを伝えた。


 少しの間の後、やけに小さな声でフリューゲルは返事をした。


「は、はひ」

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