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14/59

大丈夫

 ブルームの森。外壁付近にある森林であり、その巨大さからモンスターの侵入例、生息例が多く、クエストの対象区域となる事が多い。


「はっ!」


 犬のような頭と胴体を持つ人型モンスター、コボルトが小さな断末魔と共に倒れた。


「……ううっ!」


 もう一体のコボルトが倒れた仲間を見向きもせず、剣を振った直後のフリューゲルに殴りかかる。


「っ!はあっ!」


 胴体を殴られつつも怯む事なくフリューゲルが剣を振った。地面に落ちたコボルトの頭の表情には驚愕が浮かんでいるようにも見えた。


「はあ、はあっ、倒した……。だ、大丈夫、全然痛くない」


 フリューゲルの言葉は虚勢ではなかった。

 ここ数日で学んだマナの扱い。その中には防御の為の技術も含まれている。


「相手を見て、マナを意識して攻撃する。攻撃されそうになった時も、マナを意識する」


 相手の攻撃の瞬間、全身もしくは攻撃される箇所にマナを集中させる事でダメージを軽減する。


 フリューゲルの場合は全身に、それもフリューゲルが持つ多量のマナが原因でコボルト程度ではダメージを受けない。


「……もう居ない。次。あと一つ……」


 木に埋め込まれた石に反応が無い事を確認し、フリューゲルは次の目的区域へと向かう。


「ふう……ふう……」


 ダメージは無い。しかし疲労は残る。まともな睡眠が取れていない。昨日以降何も食べていない。戦闘にはまだ慣れきっていない。モンスターを殺す感覚にもまだ慣れていない。後ろにオーウィンが居ない。

 限界が、近かった。


「次……近くて良かったぁ」


 モンスターが住み着く場所はクエスト管理の都合とモンスターの定着本能から区域で分けられている。

 三つ目のクエストが指定する区域は二つ目のすぐ側だった。


「……居た」


 多少の移動の後、フリューゲルは次の討伐対象を発見した。


 犬のような姿だが、その大きさと顔つきは明確に異なる。鋭い牙と薄い緑色の体毛。

 フォレストウルフ。


「大丈夫。内容通り一匹。気づかれてない。今の内に――っ」


 無防備に寝そべっていたフォレストウルフを木々の間から観察するフリューゲルに、急なめまいが発生した。疲労によるものだった。


「……大丈夫、大丈夫。――あれ?」


 めまいから回復し、再び先程と同じ場所を見るもそこには何も居ない。

 その事実はフリューゲルの焦りを生み。


「どっ、どこに――っ!」


 フリューゲルの存在に既に勘付いていたフォレストウルフの先手を生み出した。


「あっ、っ!」


 フリューゲルが目を離した隙に、横から回り込んだフォレストウルフが飛びついたのはフリューゲルの左腕だった。


 噛み付かれ、勢いのままにフリューゲルは地面へと倒れ込む。


「はあっ、はあっ!……っ!」


 共に倒れ込んだ状態のまま、フリューゲルはウルフの首元に剣を突き入れた。血が噴き出す共に噛みつく力も弱まっていき、小さな断末魔を上げてウルフは動かなくなった。


「大丈夫、大丈夫……」


 フリューゲルの左腕には傷一つ無い。咄嗟のマナによる防御が間に合っていた。


「全部、全部ちゃんと出来た。……ふふ、オーウィンさん、褒めて――」


 フリューゲルの朦朧とした頭の中で、先程のフェリエラの言葉が繰り返される。


『オーウィンさんは遊んでるんだよ。君みたいな見込みの無いクズを適当に騙してその気にさせてね』


 そんな筈は無い。オーウィンがそんな事をする筈が無い。フリューゲルはそう信じている。


 しかし、精神と身体が共に劣悪な状態である今のフリューゲルにとって、フェリエラが示した最悪の可能性は何よりも強力な毒になっていた。


「大丈、夫――」


 フリューゲルは自身の身体の力が抜けるのを感じていた。疲労感のままそれに従う。

 そのまま膝から崩れ落ち、地面に倒れ込む。とはならなかった。


「――フリューゲルっ!」


「ぁ……」


「……事情は後で聞く。今は、休め」


 ウルフの返り血を気にもせず、突如現れ自分を支え始めたオーウィンの声を聞きながら――。


(ほら、大丈夫だった……)


 フリューゲルは小さく笑みを浮かべて、意識を手放した。

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