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今、挟まれる栞2

 ワインをグラスに注ぐ。桃色のロゼワインだ。

「これ担当さんに貰ったんだー。飲みきりサイズだから開けちゃおう」

 栞はそう言うと「ふふん」と上機嫌に鼻を鳴らした。

「いいね。サラミとチーズ出すよ」

「うん。おねがーい」

 小ぶりなワイングラスとコンビニの景品で貰った白い皿。そんな食器がテーブルに並んだ。不思議と上品に見える。

「水貴くんと一緒に夜更かしするの久しぶりだねー」

「ほんとだね」

 栞とお酒を飲むのはいつぶりだろう? そもそも最近は一緒に食事を取っていなかった気がする。

「そうだよー。ま、お互い忙しかったからね。ほら、私も新作の話で忙しかったしさ」

「うん」

 一言だけ返す。別に言葉が浮かばないわけではないけれど、彼女との会話には必要ないだろう。

 僕と栞の関係は昔からこうなのだ。特別な言葉はいらない。必要なのは一緒に居る空間であり、たまに見せ合う文章。ただそれだけだ。

 思えば中学時代から僕たちは会話をするより活字でコミュニケーションを取ることが多かった。僕も彼女もそれほど口数が多いタイプでもなかったし、むしろ多くを語らないことが僕たちの絆を強くしたのだと思う。

 それは別にお互いの気持ちを恋文のように伝え合ったわけではない。互いが互いに誰に当てたわけでもない物語を書いて見せ合っただけだ。僕はありふれた純文学を、栞はハイファンタジーを。そうやって互いの作品を読み合った。

 それは僕にとって掛け替えのない時間だった。まだ将来のこともろくに考えていない子供が過ごすには贅沢すぎる時間だったとは思うけれど。

「でも……。これでようやく一段落だよ」

 栞はそう言うと「ふぅ」と気の抜けたため息を吐いた。

「栞は本当に頑張ってる思うよ。いつもお疲れ様」

「ありがとう! 水貴くんもね」

 思えば栞とはずっとこんな関係だった。いつも僕が支えてもらってばかりな気がする――。

 

 僕らが出会ったのは一四歳のときだった。当時の僕は本当に何も知らない子供で、世間や大人の世界。いや、もっと言えば子供の世界さえ知らなかったと思う。

 おそらく僕は人と人が付き合うこの世界が得意ではなかったのだ。だから物語の世界……。文章の世界に身を置くようになったのだと思う。文章の世界はいつも穏やかで優しかったのだ。仮に物語の中で殺人が起こっても本を閉じればそんなことは消えてしまう。

 当時の僕はよく『現実も同じように閉じたら消えれば良いのに』と思ったものだ。そう思うぐらいには僕の現実は冷たく無意味なものだった……。

 そんな無意味な現実に色を付けてくれたのが栞だった。彼女はとても実直でいつも前を見据えているような少女だった。そんな彼女の姿勢は少なからず僕に勇気を与えてくれた。前に進み、困難や苦しみを突破できる。栞はそんな勇気を僕に与えてくれた。

 中学二年生から高校を卒業するまでの間、僕らは互いの心を共有することが出来た。まぁ……。僕の場合は夢を挫折して新しい道を探す羽目にはなったけれど――。

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