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深夜水溶液14

 文芸賞の祝賀会は私が普段参加するパーティとはまるで違った。その様相はパーティというよりも式典の色が強いと思う。卒業式や成人式。そういった儀式めいた意味合いが強いように感じる。私が普段参加するパーティはこんなにお上品ではないのだ。浴びるように酒を飲み、終始誰かの高笑いが聞こえる。そんなパーティだ。よく言えばフランク。悪く言えばとち狂ったパーティ。

 会場を見渡す。なるほど上品そうな来賓ばかりのようだ。中にはちらほらとち狂ってそうな人もいたけれど彼らも私の普段居る業界の人間に比べれば大人しいと思う。文章と音楽でこれほど変わるのかと改めて実感する。

「ハハハ、もう栞ちゃんなんて呼べないねー。これからは川村先生だ」

 私が会場をウロウロしていると男性の大きな笑い声が聞こえた。

「いえいえ……。私なんかまだまだ若輩です」

 それに続いて栞の声も聞こえた。どうやら栞が作家の先輩に絡まれているらしい。

「おーい栞ー!」

「あ! 月子ちゃん! すいません。朝田先生、ちょっと失礼します」

 そう言うと栞は先輩作家に頭を下げて私の方や来てくれた。

「すまんすまん。話し中やったのに……」

「ん? 大丈夫! それより来てくれてありがとうね! 立派なお花まで貰っちゃって……」

 栞はそう言うと壇上横の花に目を遣った。

「いやいや。これぐらいせんとあかんやん? 栞のハレの日なんやから」

 今回、私は事務所名義で花を贈っていた。手前味噌だけれどかなり立派な花だと思う。栞の一生に一度の晴れ舞台。だから見栄えと花言葉で最高の花を選んだつもりだ。白百合、ガーベラ、アネモネ……。可愛らしさと知性を兼ね備えたフラワースタンドだ。色味も栞に合っていると思う。

「今から持ち帰って家に飾るのが楽しみだよー」

「ハハハ、そうゆーて貰えたら本望やで」

 ああ、贈って良かった。心からそう思う。

 大切な親友の門出ぐらい祝える甲斐性があって良かった。そんな風にも。

「ねぇ? ちょこっと抜け出さない? 少し疲れちゃってさ……」

 栞は小声で言うと「ね?」と悪戯っぽく笑った。

「ええけど……。大丈夫か?」

「ちょこっとだけだし大丈夫だよ。先生方みんなデキアガッテルみたいだしね」

「じゃあ……行くか」

 これじゃ中学時代と変わらないな……。そう思うと急におかしな気持ちになった。まぁ、変わらないだろうな。私も栞も。そんな風に思った――。

「あーあ、疲れたー」

「お疲れさん。えらい気ぃ張っとったんやな」

「うん! だってあんなに先生方に囲まれることなんて普段無いもん!」

 栞はホテル前のベンチに腰掛けると大きく背伸びした。

「ハハハ。ま、栞はそうやろな。人多いの嫌いやもんなぁ」

「そだよー。黙々と机に向かってる方が気が楽だって! 早く終わらないかなぁ」

「もうええ歳なんやからあんまワガママ言うなや。気持ちは分からんでもないけど……」

 二三歳。まだまだ若いと言ってもそろそろ大人にならなければいけないだろう。自戒も込めて。

「うーん……。そうだけどさー。やっぱり私は大人の集まりって苦手だなぁ」

 栞はそう言うと大きなため息を吐いた。


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