表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/69

深夜水溶液7

 栞との思い出。それは私の核のようなものだ。幼なじみではないけれど、彼女は私のことを私以上に理解していると思う。本来の幼なじみ……。健次とは違った意味で彼女は理解者なのだ。

 同性だからとか、性格が合うとか以上に彼女とは繋がりを感じる。それはある種の運命……。だと思う。出会うべくして出会った最愛の友達。それが栞だった――。

「おまたせ」

 書店前のホールで待っているとすぐに栞がやってきた。数年ぶりに見る彼女は以前よりずっと大人っぽく見えた。中学時代には無かった色気のようなものもある。仮に私が男だったら放っておかないだろう。

「早かったなぁ。ひさしぶり!」

「うん。ひさしぶり! 元気そうで何よりだよ」

 ああ、栞だ。と私は当たり前のことを思った。目の前にいる綺麗な女性が徐々に栞に戻っていく。そんな奇妙な感覚だ。どうやら見た目とは裏腹に彼女はあまり変わっていないらしい。

「せやな。栞も元気そうで良かった」

「えへへ……。ありがとう」

 この「えへへ」だ。やはりこの子は変わらない。あの頃のままだ――。

 

「今月の平日はラジオの仕事あんねん」

「すごーい! すっかり売れっ子だね」

「まぁ……。少しはな。上の人が売り込み上手いから助かるわ」

 そんな話をしながら三軒茶屋の街を一緒に進んだ。目的地はない。ただ歩いているだけ。

「月子ちゃん本当にすごいよ! すっかりアーティストだもんね」

「いやいや。まだまだやで? それより栞のがすごいて。まさかこんな早く直木賞取るとはなぁ。今更やけどおめでとう」

「ありがとう! うん。私もビックリだよ。まさか取れるとは思ってなかったからさ」

 そう言うと栞は苦笑いした。おそらく本当に取れるとは思っていなかったのだろう。

「読ませて貰ったけど良かったで! ……ってかよくあんな話書けたなぁ」

「あ、読んでくれたんだ! ちょっと今までの話とは違うでしょ?」

「ああ、全然違うな。ファンタジーやないし、かなりエグいしな」

 栞の受賞作品『みっつめの狂気』は決して面白おかしい話ではなかった。はっきり言ってかなり癖が強く、読者を選れぶ作品だと思う。幸いなことは私は肌に合ったけれど、苦手な読者だって一定数いるはずだ。

「エグい……か。まぁ、そうだろうね。私も書いてて不安になったし」

「ハハハ、まぁ気持ちは分かるかな。ウチも作詞んときそんな感じや」

「作詞かぁ。作詞できる人ってすごいよね。私には無理だよ。あんなに短い中に全部込めるなんて」

「えー! 小説の方がすごいて。ウチは何十万文字も話書けんし」

 作詞と小説。おそらくその両方とも難しいのだ。私はたまたま作詞の適性があった。それだけに過ぎない。まぁ、単純に分量だけ考えれば小説の方が何倍も大変だとは思うけれど……。

 それから私たちは商業施設を見て回った。中学時代の延長線のようなウインドショッピング。

「なぁ? もしアレやったらウチのアパート来るか? お茶ぐらい煎れるから」

「そうだね……。じゃあお邪魔しようかな」

 そう言うと栞は少しはにかんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ