深夜水溶液6
栞が来るまでの間、私は駅の近くを散策した。雑貨屋や本屋を見て回るくらいの散策。軽い暇つぶしみたいなものだ。雑貨屋の化粧品コーナーでピンクのマニキュアを。書店で推理小説を買った。本は夜の暇つぶし用。ただそれだけ。
本屋での買い物を終えてから少しだけ店内を見て回った。特に何かを探しているわけではない。単なる暇つぶしだ。
店内を物色しながら、ふと「か行」に目を遣る。そこには当たり前のように「川村栞」の文庫本が並んでいた。まぁ、地元だし当然かもしれない。でも友達の本が本屋に並んでいるのを見るのは嬉しいと思う。
「一角獣と私」
「銀狼の夜」
「カーバンクルナギの冒険」
そんなファンタジーなタイトルな本が並ぶ中、一冊だけ異質なタイトルの本が紛れ込んでいた。
『みっつめの狂気』
今回、栞が直木賞を貰う予定の作品だ。その本だけは他のファンタジーな本たちとはまるで違ってみえた。
私は栞の出した本は全部読んだけれど『みっつめの狂気』だけはかなり異質な作品だと思う。異質を通り越して異様と言ってもいいかもしれない。
いつもの栞の作品は良くも悪くもパターンが決まっているのだ。ワンパターンというわけではないけれど形式が決まっている。そんな感じの作品群……。
それが川村栞の持ち味であり、同時に弱点……。なのだと思う。まぁ、私は文芸作家でもないし、あまり評論家みたいなことを言っても仕方ないけれど。
だから。そんな読み慣れた栞の文章だからこそ『みっつめの狂気』はかなり衝撃的だった。どうやったらこんな話が書けるのだろう? 本気それが知りたくなるぐらいにはとち狂っていた。クレイジーでルナティック。ロックの世界での褒め言葉を投げかけたくなる。そんな作品だった。
そんなことを考えていると携帯から着信音が鳴った。
「もしもし?」
『もしもーし! 三茶着いたよ』
「ん? ああ、ごめんごめん。駅前の本屋で暇つぶししとった」
『あ! じゃあそこに居て! 今から行くから』
栞は明るく言うと電話を切った――。




