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白い灯台4

 それから社長は館内を案内してくれた。予想はしていたけれど設備はほぼ全て最新鋭のものだった。アンプや録音機器、撮影の機材に至るまで完全にプロ仕様だ。

「すごいですね」

 思わず私はそんな小学生並みに貧弱な感想を口にした。我ながら語彙力が壊滅的にダメだと思う。

「ありがとう。ここはねぇ。僕にとって特別な場所なんだ。まだ僕と有栖ちゃんが駆け出しだった頃にどうにか借りた建物でね」

 社長は懐かしそうに言うと照れ笑いを浮かべた。その笑顔は歳に似合わず少年のように見える。

「ずいぶんと前から使ってたんですね」

「うん。僕らがまだ二十歳かそこらの頃だねぇ。たしか有栖ちゃんはまだ高校生ぐらいだったかな? もう半世紀前になるけど……」

 半世紀。信じられないくらい昔だ。私には学がないので当時の社会情勢は分からないけれど、今とは全く違う世界だったのだとは思う。

「あの……。大叔母とはどこで知り合ったんですか?」

 すっかり空気になっていた竹井くんが不意に社長に聞いた。

「ん? ああ、彼女とは僕の大学の学祭で知り合ったんだ。たしか彼女の友達が有栖ちゃんを連れて遊びに来てたんだと思う。今思うと不思議な縁だけど、それから頻繁に会うようになってね。僕も有栖ちゃんも音楽が好きだったからあの頃は一緒によく演奏してたんだよ」

 かなり興味深い話だ。というか信じがたい話だと思う。たしかに西浦さんは楽器の演奏が一通りできるはずだけれど、彼女が弾き語りしている姿は全く想像できない。

「なんか……。すごく意外です!」

「ハハハ、今の彼女を見たらそう思うだろうね……。いつからかなぁ……。あの子があんなにも必死に心を殺すようになったのは……」

 社長は遠くを見つめた。おそらくは半世紀前の西浦有栖を思い出しているのだ。アコースティックギター片手に笑い合った当時の彼女を――。

 館内を一通り案内して貰った後、私たちは社長の前で自分たちの曲を演奏した。竹井くんは普段通りの安定したリズムを刻む。演奏している間も社長はニコニコしていた。決してプロの顔にはならない。

「はい、ありがとう。なかなか良かったよ。もう少し個性が出れば良いドラマーになると思う」

 竹井くんの演奏が終わると社長は簡潔な感想を言って立ち上がった。

「ありがとうございます」

「竹井くんの演奏はいいね。正確で思いやりのある演奏だと思う。あとはサボらず練習を続けなさい」

 褒められた竹井くんは珍しく照れていた。まぁ、会社の社長に褒めらたのだから当然だけれど。

「京極さんは? 腕の調子はどうかな?」

「今リハビリ中なんです。来年辺りには復帰したいですね」

「無理はしないほうがいい。まぁ、ゆっくりとリハビリしなさい。君はまだ若いんだからね」

 社長はそんな感じで終始穏やかだった。穏やかすぎて裏があると感じるほどに。

「じゃあ、そろそろ帰ります」

「ああ、分かったよ。気をつけて帰りなさい。今日は来てくれてありがとう」

 社長はそう言うと名残惜しそうに「また来なさい」と言った。

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