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文藝くらぶ10

「それでさぁー。めっちゃ千ちゃん笑ったんだよー」

 祐希はお泊まり会が余程嬉しいらしくずっと笑っていた。いつも以上にテンションが高い。

「だってアレは祐希が悪いよ。普通カレーにタマネギ丸々入れないでしょ?」

「えー!! だって教科書にはタマネギを入れるって書いてあったんだもん」

 祐希と千波さんの話を要約すると「カレーを作るのにタマネギをそのまま鍋に突っ込んだ」ということらしい。一切包丁を使わずに。なんの躊躇もなくだ。

「ゆきちゃん……。書いて無くたって普通野菜は切るよ」

「フミちゃんまで! ひどーい!」

 酷いのはどちらやら……。正直、千波さんの苦労が目に浮かぶ。

 なぜ千波さんは祐希と仲が良いのだろう? これは入学当初から私が不思議に思っていることだ。たしかに二人とも調理部の同級生だけれどまるでタイプが違うと思う。はっきり言って千波さんは大人っぽいしかなりクールなのだ。

 それから祐希は「はぁあ」と欠伸をした。眠気のサイン。確実におねむの時間だ。

「今夜は寝かせないよぉ」

 そう言う祐希の声は今にも落ちそうだ。……。そしてそれを言ってからまもなく彼女は眠りに落ちた。

「あーあ……。気持ちよさそうに寝やがって……」

 千波さんは首を横に振りながら苦笑いを浮かべる。その表情は本物の姉のように見える。

「本当にね。この子昔っからこうなんだよ……。マイペースで地味に自分勝手でさ」

「そうそう! まったく……。」

 同時にため息が零れる。そして私たちは顔を見合わせて笑った。

「祐希、本当に今日のお泊まり会楽しみにしてたんだよ。ほら、川村さんって部活違うじゃん? だからすごく話したかったみたいでね。まぁ……。当の本人は完全に落ちちゃったけど」

「そっかぁ」

 と返しながら心の中では「だろうね」と思った。この子のことは大体分かる。小島祐希検定があればきっと一級を取れるだろう。

「うん。祐希はもっと川村さんと遊びたいみたいよ」

 そう話す千波さんの言葉には責めるだとか懇願するといった響きはなかった。事実を新聞のように伝える。嘘はないけれど真実ではない。そんな響きがする。

「うん。『ネット活動』落ち着いたらゆきちゃんとどっか遊び行くよ」

 私はあえて『ネット活動』という曖昧な言葉を吐いた。

「そうね。私も『ネット活動』してるから分かるよ」

 千波さんの返しを聞いて私は妙に安心した。やはりこの子はこういう子なのだ。空気や感情の機微を読むのが上手い。

 部屋の電気を消して布団に入る。真ん中に祐希、右に千波さん、左に私。

「ねぇ千波さん? 聞いても良いかな?」

「いいよ」

「千波さんはどんな作品書いてるの?」

[私はねぇ……。あのサイトではちょっと特殊なんだよね」

 ちょっと特殊……。ということは異世界転生系ではない。

「へー。そうなんだ」

 それだけ返す。無理には聞かない。

「恥ずかしいけど……。一応、純文学なんだよね。昔からずっと好きでさ」

「いいじゃん! 私も純文学よく読むよ」

 意外な返答だ。てっきりボーイズラブだとかそういう類いかと思った。

「ありがとう……。川村さんは? やっぱり異世界転生モノ?」

「そうだよー」

 そこで返答を区切る。決して『妖精達の平行世界戦争』とは言わない。

「だよねー。私も文くら系はよく読むよ。ベタだけど冬木紫苑さんの異世界奇譚シリーズとかが多いかな」

「冬木先生の作品いいよね! 私も更新楽しみにしてるんだ」

「うんうん! あとはねぇ……。やっぱり妖パラかな? 地獄編に入ってからすごい人気だよねー」

 妖パラ……。妖精達の平行世界戦争。残念ながら私の作品だ。

「そうだねー。そこらへんがみんな多いよね」

 と適当に返す。謙遜も感謝も伝えない。心の中では「うっそ! マジ! 嬉しいありがとう」だけれど。

「冬木先生も半井先生もすごいなぁ。私なんかまだまだだよ……」

「本当に冬木先生すごいよね……」

 中途半端な本心。冬木紫苑と同列に評価してくれる千波さんには申し訳ないけれど、私と彼とでは格が違う。

「ねー。あ! 半井先生更新してるみたいだよ!」

 千波さんはスマホを取り出して私の作品を読み始めた。私は「うん」とだけ返して布団を被った――。


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