文藝くらぶ7
「うーん!! キンキンするぅー」
もっちーさんは大粒の氷を頬張ると頭を叩いた。
「あーあ、一気に食べるから」
「でも……。美味いね! やっぱり風呂上がりのかき氷は正解だったかも」
風呂上がり。そしてその後のかき氷。たしかに最高だと思う。私は苺ミルク、もっちーさんは宇治金時。お互いの好みが現れたセレクトだ。
「冬木先生と会ってどうするの?」
もっちーさんはそう言うと再びかき氷を頬張った。
「うーん。そうですね……。いや、特に目的があるわけじゃないんですよね。ただ会って話してみたい……。的な。」
我ながら煮え切らない。考えてみれば私は冬木紫苑に会って何がしたいのだろう?
「ま、いいんじゃないの? あの人、別に悪い人ではないしね。忙しいだろうから会えるかは微妙だけど」
「やっぱり冬木先生忙しいですよね……」
考えてみれば当然だ。冬木紫苑は多忙なのだ。当たり前のように商業出版しているし、彼の書いた作品は映像化もされている。忙しくないわけがない。
「うん。そうね。でも……。それ以上にアレがねぇ……」
アレ? もっちーさんは奥歯に物が挟まったような言い方をした。
「アレ? って?」
「ん? ああ、いや……。直接会ってみてからのほうがいいかな? ほら、あの人顔出ししてないじゃん? 私からは詳しく言えないけどちょっと事情があるんだよね」
さらに奥歯に物が挟まる。
「そう……。なんですね。わかりました! とりあえず連絡してみます!」
「うん、そうね。それが良いと思う……。冬木先生に会ったらよろしく伝えといてね」
そう言うともっちーさんは穏やかに笑った――。
「ただいま」
「おかえりー。遅かったね」
家に帰ると母が出迎えてくれた。
「うん、ごめんね……。あ! これもっちーさんから!」
「あらあら、ありがとう。菊川先生に後で電話しとかなきゃね」
菊川先生……。そう呼ばれると急に威厳が出るから不思議だ。
「そういえばもっちーさんもお母さんに会いたがってよ!」
「そう……。じゃあ今度フミが熱海行くときは一緒に行こうかな?」
「やったー! きっともっちーさん喜ぶよ!」
もっちーさんのことだ。本当に喜んでくれるだろう。飛び跳ねる姿が目に浮かぶ。
「しかし……。フミが菊川先生とこんなに仲良しになるなんて思わなかったよ。世間は狭いね」
「だよねー」
世間は狭い。文芸界は特にそうだと思う。もっちーさんにしても他の作家にしても意外と繋がりがあるのだ。
もっちーさん……。もとい菊川麻美先生は恋愛小説家だ。母の話だと『あーるじゅうはち文学賞』という賞で大賞を取ったのがデビューのきっかけだったらしい。あーるじゅうはち。まぁ……。意味は言う必要もないだろう。
その裏で彼女は別ペンネームを持っていた。それが蕨モチだ。新進気鋭の文くら系作家。異世界転生のトリックスター。そんな異名を持つ謎の新人……。らしい。本人曰く。(まぁ、みんな中身が菊川麻美であることは知っている)おそらくはプロ作家の悪い冗談なのだと思う。本人はノリノリで楽しんでいるけれど……。
「菊川先生はねぇ……。けっこう癖の強い文章書く人よね」
「そうなんだよー。でもそれがいいんだよ!」
「フフフ、そうよね。分かる気がする……」
母とする創作談義は楽しい。本当に次はもっちーさんと三人で話したいと思う。
「そういえばお父さんは?」
「ああ、そうそう! お父さん明日の準備で前乗りしてるのよ! 私も明日朝一で出るからね!」
「そうだったね……。うん! 分かったよ!」
すっかり忘れていた。明日から両親は出かけるのだ。
「火曜の夜には帰るからねぇ。もしご飯大変だったらピザでも頼んでね!」
母はそう言うと五千円を差し出した。
「ありがとー。じゃあ貰っとくね!」
さて……。明日どうしよう? 友達を呼んでピザパーティでもしようか? そんな子供っぽい考えが浮かんだ。




