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文藝くらぶ5

 結論から言うと私の返信はとても簡素でありふれたものになった。二時間ほど掛けて書いた気の利いた風の文章を幾つか削除し、ようやく返したそれは酷く凡庸になってしまったのだ。

 致し方ない。どれほど一生懸命書いたところで彼には見透かされる気がする。

 返信を終えると一気に疲れに襲われた。

 ああ、こんなことなら執筆でもしていれば良かった……。そう思うくらいには無駄な時間だった――。


 その週の週末。私はある人に会うために熱海に行った。熱海。尾崎紅葉の金色夜叉が一番最初に思い浮かぶ場所だ。

「おーい! のべるん!」

 熱海駅の改札を出るとすぐに女の人に声を掛けられた。待ち合わせの相手。私の創作仲間だ。

「モッチーさん! おひさしぶりです」

「ほんとだよー。GWの即売会以来じゃない?」

 彼女は嬉しそうに笑った。この人はどんなときでもこんな感じなのだ。明るくてノリが良い。

「本当ですよねぇ。即売会のときは色々ありがとうございました……」

「いえいえー。あん中じゃのべるんが一番年下だからねぇ。不安だったでしょ」

「ほんとに! モッチーさん居なかったら即売会出来なかったかも……」

 若干の謙遜と大部分の本心でそう思った。彼女の親切心と行動力に感謝せずにはいられない……。

 彼女との出会いは文学系の同人即売会だった。その即売会は『文藝くらぶ』が主催したもので多くの文くら作家が参加していた。(後述するがその場に冬木紫苑の姿はなかった)

 参加者の多くは同人作家だったけれど、中には商業作家もちらほら居た。オシャレな女の人も居たし、おじちゃんも居た。様々な人種の品評会のようだと思う。

 巨大なホールに並べられた会議テーブルとパイプ椅子。その上に平積みされた同人誌。その全てが新鮮だった。まぁ……。そのせいで私は自分のブースさえ見つけられなかったわけだけれど。

 そのときたまたま声を掛けてくれたのがモッチーさんだった。モッチーさん。正式な作家名・蕨モチ。文芸サークル名・黒蜜茶房。(同人即売会ではサークル名と作家名をカタログに記載するのが決まりだ)

 彼女と初めて会った日のことは昨日のことのように覚えている。彼女は……。失礼承知で言わせて貰うとすれば完全におばちゃんだった。おそらく母よりも年上だろうと思う。容姿に関しても普通の域を出ない。そんな感じの普通のおばちゃんだ。もしスーパーで会ったなら間違いなく声を掛けたりしないと思う。

 それでも彼女の持つ雰囲気とキャラクターにはとても愛嬌があった。下手に綺麗なお姉さんよりもずっと親しみを持てる。そんな温かくも力強い空気感を持っていたと思う。

 モッチーさんはとても親切にブース設営の仕方や新刊の配布方法を教えてくれた。だから即売会における私の師匠は彼女だと言ってもいいかもしれない……。

 ま、そんなわけで私とモッチーさんは普通に友達になったわけだ。仲間でありライバル……。そんな関係だと思う。

「今月はのべるんに負けたなぁ」

 駅前のロータリーを見渡しながらモッチーさんが言った。

「今月は投稿本数多かったですからねぇ。来月はテスト期間あるから負けそう……」

「なんだよぉ。中間テスト?」

「そうなんですー」

 学生の悲しいところだ。学業が最優先。

「そっかそっか。まぁ学生も大変よね」

 もっちーさんは懐かしむような顔をして笑った。


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