ワタリガラス13
レイが死んだ。もうすでにただの肉と羽根の塊になってしまった。祖父はしばらくレイの亡骸を眺めていたけれど、やがて拾い上げてどこかへ持って行った。どこに持っていたかはわからない。おそらくは冷たい土の中だとは思うけれど。
レイが居なくなっても私たち家族に変化はなかった。相変わらず両親の帰りは遅かったし、兄との会話も皆無……。下手したらレイが死んだことを家族は知らないのかもしれない。そう思うぐらいだ。
ただ……。私はレイの死によって割と深刻な状況に立たされることになった。
レイが死んでみて分かったのだけれど、私は彼の泣き声でバイオリズムを整えていたらしい。例えば朝はレイの鳴き声で眠りから覚めていたし、夜は彼の羽ばたきを聞きながら眠りについた。
簡単に言えば彼は私の睡眠タイマーだったのだ。寝て起きる。そんな当たり前のことの中心にはいつもレイがいたのだ。
だからなのだろう。レイが死んでから私は酷い不眠症と寝起きの悪さに悩まされることになった。
夜はただただ長く、私を延々と暗闇に閉じ込めた。
朝は私を眠りの世界から無理矢理私を引き上げた。
不安定な睡眠と覚醒は私の精神を確実にすり減らしていった。カンナがけされた角材みたいに。長旅で底の擦れたスニーカーみたいに。確実に。善意や悪意もなくすり減っていった――。
それからの私は本当に散々だった。体調は最悪だし、生理不順で顔色も悪かった。手の甲を見ると血が通っていないみたいに白かった。死人のような手。形容詞通りの白い手だ。
残りわずかな高校生活を私はそんな調子で過ごした。幸い……。というか不幸というか、両親は私の進路について特に興味がないようだ。兄がデキが良ければそれでいい。それだけなのだろう。
だから私はとりあえずで憂子と同じ大学に進学することにした。一応試験はあるけれど落ちたりはしないだろう……。その程度の大学だ。
憂子がその大学を志望した理由はあまりにもお粗末なものだった。彼氏がいるから。それだけの理由。完全に脳内がお花畑の発想だと思う。
『もし別れたらどうするの?』と突っ込みたくなるくらいにはお花畑だ。(余談だがこのお花畑は今も枯れることなく咲き続けている。世の中って不思議なものだ)
ともかく、私はそんな理由で自身の進路を決めた。そして決めてから気づいた。
『ああ、忍野さんと同じ大学か……』と。
まぁいいだろう。とりあえず決めた道だ。気に入らなければ選び直せば良いだけだ。
そんな虚無とも楽観とも言えないような感情が私を支配していた――。




