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ワタリガラス6

 デスクの横には茶色い段ボール箱が二つ置いてある。二つとも私の荷物だ。これだけなのだ。仕事してきた年数を考えると少ないかもしれない。

「西浦さん!」

 デスクを拭いていると声を掛けられた。

「あら、どうも」

 そこには私の天敵がいた。広瀬営業部部長。

「まさか本当に異動願い出したのか?」

 広瀬部長はこの世の終わりみたいな顔をしている。

「ええ。社内報に書いてあった通りですよ」

「なんで? なんかやらかしたのか?」

「うーん……。ここじゃアレなんでちょっと出ましょう」

 私は右手でタバコを吸うようなジャスチャーをした。広瀬部長は「ああ」とだけ返す。

 喫煙所は社屋の中で最も陰湿な場所にあった。屋外非常階段の下。ドブくさくて気分が悪くなる場所だ。

「広瀬くん一本貰える?」

「なんだ? 持ってこなかったのか?」

「人のタバコ吸いたい気分なの! たしかハイライトだったよね?」

 広瀬部長は「わかったよ」と言うとハイライトの胸ポケットから取り出して私に差し出した。空色のパッケージ。祖父が吸っていたのと同じ銘柄。

「ありがとう……。広瀬くんもセッタ吸う?」

「……。じゃあ貰うよ」

 今度は私がセブンスターを一本差し出した。

「ふぅ……。やっぱりハイライトは癖が強いね……」

 ハイライトの味は濃くて渋かった。専売公社時代から引き継がれる味はあまりにも時代遅れに感じる。

「それがいいんだよ。たしかにセッタは旨いけど、俺はやっぱハイライトがいいね」

 生産性の欠片もない喫煙談義。でも悪い気はしない。

「ああ……。別に左遷じゃないよ。私から異動したいって社長にお願いしたんだ」

「だろうな……。でもなんでだよ? あんた本社勤務のほうが都合良いんだろ?」

「まぁね……。でもちょっとやりたいことできたからさ。後任は高野くんにお願いするよ」

「そうか……」

 広瀬部長はさらに難しい顔をした。眉間の皺が一層濃くなる。

「広瀬くんにも世話になったね。今までありがとう」

「いや……。いいよ。こっちこそ世話になった」

 広瀬部長はそれだけ言うとタバコの煙を空に吐き出した。


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