ワタリガラス1
私がまだ国立に居た頃、実家で変わったペットを飼っていた。ワタリガラスという大型のカラスで一般的なハシブトガラス(日本ではこの種類をカラスと呼ぶ)より一回り以上大きかった。
どういう成り行きでそのカラスを飼うことになったかは覚えていない。気がついたら居た感じだ。まぁこれは私が幼かったからそう思うだけなのだけれど。
そのカラスにはレイという名前が付けられていた。ワタリガラスの英語名がコモンレイヴンなのでレイにと付けたらしい。適当なネーミングセンスだと思う。それこそ犬にポチ、猫にタマと付けるくらいには適当なのではないだろうか。
レイは私には懐かないカラスだった。というよりも祖父以外には決して懐かなかった。両親も祖母も兄もレイにはあまり関わらなかったし、餌やりや小屋の掃除といった手間の掛かる作業の全ては祖父一人でやっていた。そう考えると世話してくれる相手にだけ懐いただけなのかもしれない。真相はレイにしか分からないけれど。
そんなレイは私が一八になる頃まで生きていた。高校三年の秋まで――。
「西浦部長はどうお考えですか?」
会議中、営業部長から急に話を振られた。どう考えても私に振る話でもない。
「ええ……。今期は興業自体少なかったのでこの数字で問題ないと思います。企画部としてはもう少し予算を掛けてプロモしたいですが」
当たり障りのない回答。面白くもなんともない。
「そうですか……。しかし、ウチとしても新しい弾は欲しいですね。現状あまり良い商材がないので……」
どうやら営業部長は私に喧嘩を売りたいらしい。良い商材がない……。つまり私が企画したアーティストは売れないと言いたいのだろう。
「まぁまぁ、広瀬部長……。今はウチも新しい子たちを育てる時期なんだから」
私の表情を読み取ったのか社長が口を挟んだ。この人はいつもそうだ。争いの種を摘み取ってなかったことにしたがる……。
それから会議はすこぶる険悪な雰囲気で進行した。やはり営業部長は私が気に入らないらしく、私の発言のたびに上げ足取りをした。この男はこういう男なのだ。卑劣で利己的で人を道具程度にしか思っていない。正直、営業部の他の社員たちが気の毒になる。
「では……。来月の定例会議は月初の三日に行います。お疲れ様でした」
総務部長のその言葉を聞いて私は心底気が抜けた。私は昔から会議は嫌いなのだ。まぁ、企画を通すためには通らなければいけない道なのだけれど。
「西浦部長! お疲れ様です。この後時間空いてますか?」
会議の終わり。社長に呼び止められた。
「ええ。大丈夫です……。二一時からミーティング入ってますがそれまでなら」
「よかった! じゃあちょっと出ましょう!」
社長はそう言うと無邪気な子供のように笑った。この人は昔から変わらない――。




