友達
ゲルヴァイン王国の王城にいるイェスベルと会う。
偵察に行く官僚共を説き伏せる事ができてるのかを確認する。
どうなっているのか聞くと、何とか説得できたみたいで、案内された部屋には数人、そうと思われる奴等が集まっていた。
俺を見ると、敵意剥き出しで睨んで来る奴等ばかりで、そんな態度にも辟易するけど、こんなことで事を荒立ててる場合じゃねぇ。
そして、そこにはやっぱり王はいなかった。
「やっぱいねぇか……」
「誰のことなのか?」
「王だよ。えっと、シグリッドっつったか?」
「貴様っ! 我が主君を呼び捨てとはっ!」
「あ、もういいから、そういうの」
「なっ!」
「サイルス伯爵、今はそういうことを言っている場合ではないのだ。エリアス殿、王は本日は体調が悪く……」
「なら俺が治療してやるよ。案内してくれ」
「治療するとはどういう事なのか……?」
「だから治してやるって言ってんだろ?」
「何を言っているのか。貴殿は曲なりにも男であろう。」
「ったく……そっからかよ! マジでめんどくせぇ! とにかく! まずはここにいる奴等で先に現場に行ってくれ! 案内はそこにいるオルギアン帝国の兵士にさせっから!」
俺に対してまだ悪態をついている官僚共をイェスベルとオルギアンの兵達に任せて、俺は王の元へ空間移動で飛んでいく。
回復魔法は以前は女しか使えないとされていた。けれど、それも十年程前から適正があれば男でも使用することができて、訓練でその精度を上げる事もできる。
これはオルギアン帝国の専売特許とし、その方法は秘匿し同盟国となった国にのみにその情報を渡す。それは魔法陣も同様だ。
だから簡易転送陣をここで使うことを、ゾランは嫌がったのだ。
シグリッドの前に姿を現すと、やはりすげぇ驚く。まぁ、転送陣も知らなかった訳だから、これは仕方のねぇ事なんだろうけどな。
俺を見たシグリッドは飛び退き、ガタガタと震え出す。
「な、な、なん、なんでっ! いきなりっ!」
「あれ? 元気そうじゃねぇか?」
「き、貴殿はっ! オルギアン帝国のエリアス殿か?! 余を殺しに来たかっ!」
「いやいや、お前なんて殺しても何の特もしねぇって。迎えにきた。これから現場に行くぞ」
「何処に連れ去るつもりなのかっ! 余は何をされてもお前等に従わぬぞっ!」
「ったく、大声出せば誰か来てくれるって思ってるのか? ここら辺にいる奴等は皆今眠って貰ってるよ。これから今この国で何が起きてるのか見て貰う。お前はどこまで知っている?」
「何の事だ?! 皆がお前は戦争を仕掛けにきたのだと、この国を潰しに来たのだと言っておった! だから余を殺すのであろう?!」
「あーはいはい、分かったから。とりあえず一緒に行こうぜ」
シグリッドの手首を掴んで黒の石がついた腕輪をつけてやってから、空間移動で遺跡近くの村へ飛んでいく。
「その腕輪外すなよ?」って言う俺を目に涙を浮かべて睨み付ける様子を見て、ちょっとは見込みありそうだと胸を撫で下ろす。
いきなり目の前の景色が変わったことに、シグリッドはまた大声を上げた。
しかし、すぐにこの村の現状を知ることができたようだ。
あちらこちらにある黒いモノ を見て、恐る恐る近寄って行き、それを確認してから驚愕の表情を浮かべたあと悲鳴を上げるように叫び、走って俺の元へ来て後ろに隠れ、俺の服を掴んでガタガタ震えていた。
今の今まで俺を敵だと思っていたはずなのに、他に誰もいないこの状況では生きている俺を頼る他なかったんだろう。
「な、なんなのだ! あれはっ! なぜあんなモノがあちこち至るところにあるのだ!」
「あれはこの村の住人だ。ここは遺跡の近くにある村だ。ここで遺跡の調査に来ていた調査隊も寝泊まりしていた。その調査隊も……全滅だ」
「あの黒いのが全て人だったと言うのか?!」
「やっぱり知らされてなったか。遺跡の事は知ってたか?」
「その調査に人員を割き、予算も大幅に上げた事は知っておる! この調査は何も問題ないと聞いておるぞ!」
「問題は大アリだ。これは呪いで、遺跡にあった封印された水晶から発しているらしい。封印が破られたからな。この呪いで調査隊はほぼ全滅だ。で、呪いは遺跡に止まらず、近隣の村や街へ広がって行ったんだ。他の街でも肌が黒くなっていって苦しんでいる人達が溢れだしてるよ。これを俺は止めにきた」
「こんな……こんな事になっていた……のか……いや、しかしこれは本当に我が国の出来事なのか……?」
「あそこに遺跡が見えんだろ? 遺跡は見たことがあったか?」
「いや……絵師に描かせた物を見せられた事があるだけだ……」
「じゃあ分かるか? ここがゲルヴァイン王国だってこと、分かんねぇか? 他国へ連れて来られたと思ってるのか?」
「俄には信じがたい……まだ貴殿を信じる事は出来ぬ……」
初めてこんなふうに空間移動で瞬時に違う場所に連れて来られたらそう思うよな。シグリッドにすりゃ、俺は他国の奴で、なんだったら戦争を仕掛けに来た奴らしいからな。
もう一度空間移動で、今度は遺跡の真ん前まで来てやった。これで分かるか?
「ま、またいきなり! キチンと告げてからにして貰えぬか?! 余にも心の準備と言うものが……」
「あぁ、すまねぇ。で、分かるか? この遺跡の事」
「……この城門にある紋章は……違いない、ボタメミアの城……だ……」
「分かって貰えたみたいだな。この周りにも黒い人の亡骸があんだろ? 酷ぇことになってんだよ」
「そうだったのだな……」
「実際に見ないと実感わかねぇだろ? じゃ、次に今救助隊がいる場所に連れてくから」
「……頼もう」
今度はちゃんと言って移動したから、漸くシグリッドは落ち着いて現状を把握できたようだ。
救助隊がいる街では、今半分位の人達が呪いに侵されている。かなり広範囲に広がってたんだな。これじゃ黒の石が全然足らねぇ。
重度の状態の呪いにかかっている人に優先的に黒の石を身に付けさせる。それに納得しない者も多かったが、今は仕方のねぇ事だ。
救助隊に援助を求めに来た人達で、簡易テントの周りは人で溢れかえっていた。
皆、涙を流したり、苦しみを訴えたり、その場で倒れ出す者も多くいた。
俺は倒れた人を風魔法で浮かせて、簡易テントの空いている場所へ移動させた。
それを見て、シグリッドはまた驚きの表情で俺を凝視する。
「貴殿は……すごい力の持ち主なのだな……」
「え? あぁ、まぁな。で、分かってくれたか? 今ここがどんな状態か。このままにしていたら、この呪いが更に広がって、もっと苦しむ人達が増えんだよ。この人達はお前の国の大切な国民なんだよ。助けてやって欲しいんだ」
「それはそうだ! ……しかしどうすれば……」
「俺はこれから遺跡に入って元凶である呪いの元をどうにかする。じゃねぇと広がるばかりだからな。アンタは黒の石の確保と、救助隊の増員を指揮してくれ。あと、救援物資も必要だな。これは災害だ。国が動かなきゃなんねぇ事なんだ。分かるよな?」
「……あぁ……分かる……」
「アンタは幼い。けど、それでもこの国で一番偉いんだろ? 良いように官僚に言いくるめられてる場合じゃねぇぞ? 自分でしっかり考えて、自分の目で見て感じて、それからどうするかを決めていかなきゃなんねぇ。もちろん助言は必要だ。けど、なんでも言いなりってのはダメだ。この国を思っての事なのか、自分の利益を優先したいが為の事なのか、それをしっかり見抜かねぇといけねぇぞ?」
「貴殿の言う通りだな……」
「また俺が暇な時は来てやるよ。で、この国の現状を知るのに、色んな場所へ連れてってやる。知るって事は大事な事なんだ。アンタはもっと多くを知る必要がある」
「そうだ。余はもっと知る必要がある……!」
「お? いい顔になってきたぞ? じゃ、頼むな。あ、俺もゴーレムを出して手伝いさせっから、アンタはとにかく救援物資と黒の石の確保を優先的に動いてくれ。」
「ゴーレム?」
土魔法を放つと、地面の土がボコボコと盛り上がり、そこから何体もの土人形が生まれでる。それらに幻術を施し、人間に見えるようにしていく。
長く動かしたい場合は、俺が定期的に魔力を補充するか、核になる魔石に魔力を込めて埋め込むかするんだけど、今はそこまでしなくても大丈夫だな。
その様子を見て、またシグリッドはビックリしていた。その表情はまだ子供で呆気なくて、思わず笑って見てしまう。
つい頭を撫で撫でしてしまった。
「あっ! なにをする!」
「ハハハ……すまねぇ、やっぱまだ子供だなって思ってな。俺は孤児院を経営してっから子供に慣れててよ、ついやっちまったな。けど、そうやって子供らしいところがあっても良いと思うぜ? それが本来の姿だからな。友達でも作んな? たまには愚痴も言いてぇだろ?」
「余に友達など……」
「んー……じゃあ、俺と友達になるか?」
「貴殿とか?!」
「なんだ? 俺じゃ役不足か?」
「そういうわけでは……だが貴殿はオルギアン帝国の冒険者で……大人で……凄い力を持っていて……」
「友達になるのに、んなことは関係ねぇだろ? 立場とかは関係ねぇよ。一人の人としてだ。どうだ?」
「良いのか……? 余で……」
「ハハハ! 嫌なら最初から言ってねぇって!じゃ、決まりな! これからもよろしくな! シグリッド!」
「あ、あぁ、エリアス殿……」
「殿とかいらねぇから!」
ニッコリ笑って強引に握手をする。そうすると、シグリッドはやっと俺を見て微笑んでくれた。それはやっぱり子供の笑顔で、俺は嬉しくなったんだ。
そうしていると、イェスベル率いる官僚共が簡易転送陣でやってきた。
急に景色が変わったことに驚いていたが、俺がシグリッドと共にいるのを見て、焦った感じで俺に詰め寄ろうとしてきた。
ソイツの目をしっかり見て、俺に反抗心を持たないように、俺への闘争心を奪っておく。
ついでに官僚全員の目を見て、転送陣の術式の記憶を無くしておく。これは事前に救助隊にもしておいた。
大人しくなった官僚達を見て、シグリッドは不思議そうな顔をしていたが、俺は何も言わずにシグリッドに微笑んで、頭をポンポンして腰を屈めてしっかり顔を見る。
「じゃ、俺は友達の国を助ける為に働いてくる。後は頼むぞ?」
「相分かった!」
何か言いたげなイェスベルを後に、俺は遺跡へと向かった。
呪いの元凶、俺がまた封じ込めてやっからな!




