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黒龍の娘  作者: レクフル


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一人の夜


 暖かな陽射しで、風は優しく吹いている。


 その風に煽られてニレの葉が擦れあって、サワサワとした音が心地よく耳に入ってくる。


 その優しい音に起こされるようにして、ゆっくりと目を覚ます。


 

「あ……そっか……ここで寝ちゃったんだ……」



 両手を上にあげて伸びをして、大きく息を吸って、ゆっくりと吐いていく。

 うん、さっきまであったクラクラした感じもなくなっている。

 立ち上がってみても、フラフラした感じもなかった。

 うん、もう大丈夫だ。


 そっと肩を見てみる。

 そこにはさっきよりも小さくなった黒く固くなった皮膚がある。

 でもきっとすぐに無くなる。

 すこし肩がザワザワするけれど、きっと大丈夫だ。


 今はもうお昼を過ぎたあたりかな?

 朝エリアスと作った残りのおかずをパンに挟んでそれを昼食にして、外で食べることにする。

 外で食べといつもより美味しく感じる。だけど、一人で食べるのはやっぱり寂しい。

 

 明日は帝城へ行こう。


 昨日私はあの村であった事を誰にも言えずにいて、でも何もなかったように振る舞う事が出来なかった。

 きっと、リオもミーシャも心配していると思う。

 だから明日は元気な姿を見せよう。


 そうだ、これから街へ買い物へ行こう。野菜は畑で採れるし肉はまだある。けど、お魚がなくなったのと、調味料が少なくなってきている。

 いつもマドリーネに連れて行って貰った場所なら、もう一人で行ける筈だもん。こうやって少しずつ出来ることを増やしていかなきゃだよね?


 空間に歪みを作って、帝都までやってきた。


 鮮魚を取り扱っている店は少なくて、いつもマドリーネが行くのは食材の買い出しではなく雑貨や茶葉の店ばかりだったけど、それでも店の情報はよく知っていて、前を通る店の事を全て私に教えてくれていた。

 だから、買ったこともないお店であっても、何処で買うのが良いか等は分かっていた。

 お魚を買うならここ、調味料の種類が豊富ならここ、といった具合で、聞いて知ったお店に行って、買い物をする。


 お金はエリアスに貰っているお小遣いで充分足りた。あまり使うことがないから、今までの分を貯めていたら結構な額になっていて、特に欲しいものとか思い付かないから、こんな時にこそ使うのが良いんだと思う。


 それに、エリアスはいつも私に欲しいものはないか、行きたいところはないかって聞いてくる。

 一度靴が欲しいって言ったら、凄い量の靴を持って帰ってきた事がある。

 それからは、あまり簡単に口に出しちゃいけないなって思ったんだ。

 

 色んな種類のお魚があって、どんな料理に使えるのか、どんな味がするのか、なんかを聞いて、いくつか購入した。

 その後調味料を買って、露店でパイナポーを買ってベンチに座って一人で食べる。

 けど、やっぱり前にマドリーネと一緒に食べた時の方が美味しく感じた。


 買い物を済ませて、家に帰ってきた。


 今日は一人で料理を作ってみよう。今まで作ったことのある料理なら作れる。はず!

 

 それからお風呂も沸かそう。あれからエリアスに何度も見て貰いながらお風呂のお湯を、良い湯加減になるように調整していて、もうかなり上手に出来るようになっているから一人でも大丈夫だ。

 エリアスが帰ってきたら、きっと喜んでくれる。


 今日はお魚のムニエルにしよう。付け合わせの野菜はお芋とブロックリンとニンジーで、それからエリアスの好きなスープも作ろう。スープはアッサリした野菜のスープに、牛鴨を入れて少しコクを出そう。

 そうと決まったら、早速取り掛からなきゃ!


 風魔法で食材を切っていって、スープを煮込んでいく。買ってきた調味料を使ってみようと思って入れたら、思ったよりも多く入って味が濃くなった。

 仕方なく水を足して味を薄めて、それから他の調味料も入れて味を整える。けど、何度も味見していたら、段々感覚が可笑しくなってきて、この味で良いのかどうなのかが分からなくなってくる。

 うん……多分大丈夫……多分……


 次に野菜を切って茹でておく。付け合わせの野菜はこれだけで大丈夫。だよね? 他に味付けとかいらないよね? 味が足らなかったら、何かソースでもつけて食べたらいいかな?


 お魚も塩胡椒をつけて、小麦粉をまぶしてから、タップリのバターで焼いていく。

 

 そうやって焼いている途中でエリアスが帰ってきた。

 今日は思ったより早くに帰ってきた。多分、私が家に一人でいるから、気にして早くに帰ってきてくれたんだろうな。

 エリアスのこういうところが好き。いつもこうやってエリアスの優しさを感じる。


 私が一人で料理を作ったのを聞いて、エリアスは凄く喜んでくれた。また一人で勝手にしたとか言って怒られたらどうしようかと少し気にしてたんだけど、嬉しそうにしてくれてホッと一安心した。


 エリアスは私が作った料理を嬉しそうに食べてくれる。正直あまり上手く出来てないと思う。けど、こうやって喜んでくれるのが凄く嬉しい。また次も作ろうって思える。


 お風呂に入る時間になって、ふと気づく。

 私の肩にはまだ黒くなった皮膚の状態でそこにある。もしこれを見ると、エリアスは何があったのか、すごく聞いてくる筈だ。だから知られる訳にはいかなかった。


 一人で お風呂に入るって言った私を、凄くショックを受けたような顔をして見ていた。

 なんかいたたまれなくなって、すぐにお風呂に着替えを持って入りにいく。

 お湯を魔法で入れて湯加減を確認すると、丁度良いくらいの温度になっていた。

 凄い、私!やっと魔力調整がちゃんと出来た!たかだかお湯の温度を調整するだけだったけど、この微妙な温度調整が凄く難しかった。

 あとでエリアスに誉めて貰おう!


 服を脱いで肩を見る。

 肩にはまだ二センチ程の黒く固くなった状態だった。それがゾワゾワしてる感じがして、なんか気持ち悪い。

 頭と体を洗って、それから湯船に浸かる。

 うん、良い感じ!


 この皮膚のゾワゾワした感じ、もしかしたらエリアスなら触れたら気づくかも知れない。そうしたら何があったのか追及される。

 これが治るまで、エリアスにくっつくのはやめといた方が良いかな……

 じゃあ、一緒に寝ない方が良いよね……


 って事は一人で寝るって事だ。この家には、私の部屋とエリアスの部屋もあって、その部屋にはベッドも置いてある。けど、私とエリアスは別にある寝室の大きなベッドにいつも一緒に寝ている。


 なぜ各部屋にベッドを置いたのか、ここに引っ越してきてから聞いた事がある。

 その時エリアスは、

「何か作業する時に夜通しする時があるから、その時用の部屋とベッドだ」

って言ってて、

「じゃあ私の部屋のベッドは?」

って聞いたら、

「一人になりたい時とかあるかも知れないし、成長して俺と寝るのが嫌になったりした時用だ」

って少し悲しそうに言ってた。その時私は

「絶対にそんな事にならない! ずっとエリアスと一緒に寝る!」

って言った。


 もちろん、今もあの時と同じ気持ちで、本当にエリアスと一緒に寝たいって思ってる。

 けど、この事をエリアスに知られる訳にはいかないから、少しの間寝るのを別にするのは仕方ないよね……

 きっとすぐに治る。だから少しの辛抱だ。


 一人で寝る事を伝えると、エリアスはさっきと同じように、ううん、それ以上に凄く悲しそうな顔をして私を見た。

 そんなエリアスを見て、すごい罪悪感が胸を締め付けるけれど、今は仕方がないって言い聞かせて、自分の部屋へ向かった。

 

 私の部屋には、クローゼットがあって、そこには色んな服が沢山掛けられてある。

 横には靴を収納する所もあって、様々なデザインの靴が置いてある。これは前にエリアスが買ってきた物で、まだ一度も履けていない物もある。

 鞄も幾つもあって、どれもとても可愛らしいデザインだ。鞄は何も言ってないのに時々エリアスが買ってくる。

 なんか、私に何かしてあげたいけど何をしたら良いのか分からなくて、立ち寄った店で店員に言われるがまま買ってくるんだそうだ。

 エリアスはその店で上客になっているんだろうな。


 他にドレッサーがあって、その横に姿見も置いてある。

 本棚もあって色んな種類の本も置いてあるし、その横に勉強机もあってソファーもテーブルも置いてある。

 ここは私には充分過ぎるくらいの部屋だ。


 窓を開けると月が見えて、そこから少しひんやりした空気が入ってくる。

 エリアスは、

「本当なら友達とかが遊びに来たりするんだろうけど、ここは人が立ち寄れねぇから、もしそういう場所が良かったら他にも家を用意する」

って言ってくれた。でも私にはここで充分だし、この家が凄く気に入ってるからそれを断った。

 本当にエリアスは私に甘いし優しい。それが凄く嬉しいけど、私はそれを返せていないような気がして、時々申し訳なく思うこともある。


 そんなエリアスに悲しい顔をさせた事に、更に申し訳ない気持ちになりながらベッドに入る。


 一人はやっぱり寂しい……


 いつもの温かさがなくて、そんなに寒い季節じゃないのに凄く寒さを感じてしまう。

 

 布団を抱き締めて心細い気持ちを拭うようにして、私は一人眠りについていった……

 


 


 

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