遺跡
ゾランにピンクの石で連絡を取る。
ひとまず依頼を受ける事を告げ、そのまま調査に行く事を伝えておく。
因みにあの王の傍に一体、ゴーレムを仕込んでおいた。勿論誰もが知り合いと分かるように術をかけておいた。王の周りには頃合いを見計らって王を殺害しようと企んでいる奴等がわんさかいたからな。
俺が提言したから、余計に危うくなったようだ。だから守る事ぐれぇしてやんねぇと。
アイツに味方はいんのか?イェスベルはまだまともだ。だけどアイツの周りは身なりはあんなでも、下衆な考えをする奴等が王をガッチリ固めてる。アイツ、息苦しいだろうな。
同情してても仕方ねぇ。
今は遺跡の調査に目を向けよう。
っと、その前に近隣の村を確認すっか。
昨日、黒くなった人がいた村へ入っていく。あちこちで声が聞こえる。呻き声や泣き声や助けを求める声。その声のする方へ行くと、一つの建物の前で人だかりが見えた。
そこは薬屋で、薬を求めて集まった人達の殆どが体が黒くなっていて、動くのも困難な状態だった。
「おい、アンタら大丈夫か?!」
「た、助け、てくれ、たの、む!」
見ず知らずの男相手に助けを求めてるって、よっぽど切羽詰まった状態なんだろうな。男にすぐに回復魔法を放つ。けれど、何も変わりはしなかった。回復しないって事は、これは呪いか? 呪いなら術式を解読しなきゃなんねぇ。
男の黒くなった腕に触れ、その術式を探っていく。体の中に巣食う呪術を読み取ろうとするけど、それは複雑に絡み合っているような感じでなかなか読み取れねぇ。
触れている手から、ゾワゾワした感触が体の中に入り込もうとするのが分かった。けど、入り込む前に弾き返すように、そのゾワゾワしたヤツは元へ戻って行った。
もしかして今のが呪いか? それが俺をも侵食しようとしたけど、何かに弾かれて戻ったって感じか? 俺には耐性があるのか?
とにかく苦しむ男に巣食う呪いを解明しようと試みるも、上手くいかねぇ。そうこうしている間に、男の呼吸は絶え絶えになっていく。黒くなった皮膚は首元へその範囲を広げていったからだ。
何とかしてやりてぇ。けど解読出来なきゃ助けらんねぇ。
そのうち男は力尽きたように崩れ落ち、その場に倒れこんだ。
俺の足元には、真っ黒になった男がピクリとも動かずに横たわっていた。
辺りを見渡すと、同じようにして倒れている人達がいる。さっきまで聞こえていた呻き声は聞こえなくなって、母親が我が子を思って泣く声や恋人を呼ぶ声だけが響いている。
その人達も体のどこかが黒くなっていて、そのうち呪いで同じように生き絶えていくんだろうと簡単に予測できてしまう。
どうすりゃいい……?
どうしてやればいいんだ?
回復魔法が効かねぇんなら、薬なんかも効くわけがねぇ。けど、それ以外に治す方法を知らない人達は、また薬を求めてここまでやって来る。
そうしてここは黒くなった人ばかりになっていく。
なんだこれ……地獄絵図かよ……
その後も術式を探るけれど、探っている途中で生き絶えていく者ばかりで、そうなるとその術式を知ることは出来なくなってしまう。体の中に蠢く術式は、血液やら脈やらで動きを活発にして身体中に広がっていく。心臓の動きがなくなると、血流も滞るから術式もその場で消えてしまう。
残ったのは体に現れた呪いの結果だけってわけか……
やっぱ呪いの発現場所まで行かなきゃなんねぇな。行ってそこで術式を確認しなくちゃなんねぇ。じゃねぇと、このままじゃただ見ている事しかできねぇ。
俺は何もできねぇ……
気づくと涙が溢れていた。
こんなに無力さを感じるってのはいつぶりか……
強くなった、不老不死になった、とは言っても、俺にはまだ出来ねぇ事ばっかりだ。
こんな時に自分の無力さを思い知る。
どこの国とか関係ねぇ。目の前で為す術なく生き絶えていく人達を、ただ見てるだけって事が許せねぇ。
元凶を突き止めに行かねぇと……
俺のカンだが、この呪いは遺跡に関係していると思う。
今俺がここにいてもどうしようもねぇ。だから遺跡の調査に向かう。それが一番早く終息させられる筈だ。
後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去る。
村から西へ行った所に遺跡がある。その近くにも村がある。ここに調査隊は寝泊まりしていると聞いている。まずはその村の様子を見る。
村に入ると、昼頃だと言うのに何の音も聞こえない。自然に起こる風の音だけで、人々の生活で出る筈の音が何も聞こえてこねぇ。
辺りを見渡すと、そこにも黒くなった人達が横たわっていた。家の中も確認していくが、そこには生きている人の気配は一切なく、黒くなって生き絶えている人達ばかりが目についた。
ここもやっぱりそうか……
歩き回っていると、足元からザワザワした感触が入り込もうとするのが分かる。けど、またそれは弾かれるように俺の体は拒否したようで、そのザワザワした呪いは何処かへ行った。
ここに生き残っている人はいなさそうだ。
仕方なくその場を離れ、遺跡に向かう。
そこは山が近くにある森の奥。幻術がかかっているのか、容易にたどり着けないようになっている。その幻術が解明されて遺跡にたどり着く事が出来たみてぇだけど、初めての奴はこれに惑わされるな。
解明できるくらいの幻術だから、そんなに大した術じゃねぇ。だから俺もすぐに遺跡にたどり着く事が出来た。
そして、この場所に近づく程にリアルに感じる。
ここが呪いの発現場所なのだと。
ずっとゾワゾワした感じが体に纏わりつく。体の中にまでは侵食してこねぇ。けど、それでもこの感じが気持ち悪くてしょうがねぇ。
そして、周りには至るところに黒くなった人が倒れていた。近寄って確認するが、皆すでに事切れていた。黒く固くなって、苦しそうな顔をして、誰かに助けを求めるような表情ばかりだった。
森の奥の遺跡。古びて朽ちた石造りの建物がそこにある。
聞いたところによると、この辺りは昔栄えていたらしく、この遺跡はその時の城だったそうだ。
その文明は魔物の大群に襲われて滅亡してしまったらしいが、城が魔物に襲われる前に高名な魔術師が宝を隠したのだと言われている。
その宝も発掘対象になっていたが、それよりも考古学者達は、この時代の文明の文献が手に入る事の方に躍起になっていたらしい。
ここまでハッキリ分かっている遺跡は今まで無かったそうで、他国にもこの遺跡の解明に注目されているらしい。
まぁ、俺は知らなかったけど。
しかし長年調査していても、思うように進められなかった。それは、今や休火山となっているこの山だが、その昔噴火したとかでこの遺跡が火山灰に半分近く埋もれてしまったからだ。
加えて、この辺りには魔物も多く出没するって事で、もしやダンジョンとなるのでは?との見解も示されていたそうだ。
宝を隠しているのだとすれば、それを守らせる為に魔物を召喚していたとしても不思議ではないって事らしい。
今、この遺跡の全体は目に見えて分かる程になっている。が、中身はまだ全て掘り起こせていないそうだ。
で、今回予算が多くなった事で、今まで手付かずの状態であった場所にも人員を割くことが出来て、そんな最中起きたのが今回の調査隊行方不明事件だったってわけだ。
至るところにある黒い物体。
それは人だけじゃなく、魔物やこの界隈に住むであろう動物なんかのモノもあった。
とにかくここに呪いの元があるのは間違いねぇ。
重々しい雰囲気のある遺跡へと足を踏み入れる。嫌な感じがさっきからずっとする。これは呪いによるものなのか、元からそうなのか。
元からそうなら、よくこんな所を調査しようと思ったもんだな。
入口に入った所で、微かに声が聞こえた。
すぐにその声のする方を確認すると、奥の方からヨロヨロとフラつく足取りで、一人の男がこっちに向かって歩いてきた。
急いでそこまで行って、今にも倒れそうなその男を支える。
その男は何処にも黒くなった所はなかった。
「おい、大丈夫か?!」
「あ、あ……私は……助か、たのか……」
「そうだ!助かったぞ!安心しろ!」
すぐに回復魔法を施し、水魔法で水を出して持っていた水筒に入れ、そいつに飲ませてやる。
体は何処にも黒くなってなさそうだ。呪いのゾワゾワした感じもない。なんでコイツだけ無事だったか分かんねぇけど、とにかくこの場所を離れた方が良さそうだ。
何があったのか、コイツからしっかり聞き出すことにしよう。




