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黒龍の娘  作者: レクフル


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左手の能力


 エリアスが心配してる。


 エリアスは私の調子が悪いのは、昨日エリアスが我を忘れて力を暴走させてしまったからだと思っている。


 本当はそうじゃないけど、勝手に他国へ行って見た事を言うわけにはいかなかった。


 優しく私を労ってくれるエリアスに申し訳ない気持ちになって、何度か言ってしまおうかと悩んだけれど、やっぱり言い出す事はできなくて、何度も何度も言葉を飲み込んだ。


 翌朝、私の様子を気にするエリアスは、今日はどうするかを聞いてくる。

 体は大丈夫。だけど、気持ちがなんかくすぶってる感じがして、まだリオやミーシャに普通に接する事が出来なさそうだった。だから、今日は家でゆっくりしたいと告げる。


 「俺も休もうか?」

って気にしてエリアスは言うけれど、私の事で何回も休ませるわけにはいかない。

 だって、エリアスの仕事は誰にでもできる仕事じゃないから。魔物から人を救ったり街を救ったり、国を救ったりもする大きな仕事なんだ。だから簡単に休ませちゃいけない。


 「大丈夫だよ!」

って笑顔で言うと、

「なんかあったら、すぐに連絡しろな?」

って言ってくれて、エリアスは仕事へと向かった。


 一人で家にいると、やっぱり昨日の事を考えてしまう。

 あの村にいた人たちは、もう皆あんなふうに黒くなって亡くなってしまったのかな……

 他の場所でもそうなのかな……

 凄く気になる。やっぱりエリアスに言った方が良かったのかな……

 

 でも、エリアスがその場所へ行って、エリアスも同じようになってしまったら?

 何故か私は大丈夫だった。セームルグが耐性があるって言ってた……と記憶している。

 でもエリアスもそうだとは限らない。だからあの場所には迂闊には行って欲しくない。やっぱりこの事は言わない方が良いんだ。


 部屋の片付けをして、庭に出て畑の種蒔きをする。

 ニレの木を背にしてその場に座って、よく晴れた青空を見上げる。

 ここにいると清々しい空気に触れられて、気持ちも洗われるようで、澱んでいたモノが吐き出されていく感じがする。


 この場所が好き。

 

 この空気が好き。


 ここにいられるのが幸せだと思う。


 清々しい気持ちになれる。


 大きく息を吸うと、凄くスッキリした。


 うん、大丈夫。


 もうウジウジしない。


 私はここに帰って来れたら、それだけで元気を取り戻せる。エリアスがそばにいてくれたら、きっともっと大丈夫。だから行ってみよう。もう一度あの場所へ。


 空間移動で昨日の村へやって来た。


 辺りを見渡す。黒くなった人達は、至るところにいる。昨日は助けを求めるような声や嘆く声が聞こえてきていた。けど今日は何も声が聞こえない。

 村中を探すけれど、黒くなった人達ばっかりだった。それは、家の中にもそうだったみたいだけれど、外で横たわって亡くなっている人も多かった。


 生きている人が見られない。この状況に言いようもない悲しみが襲ってくるけれど、何とか堪えて翼を出して飛び上がる。空から村や街を探すと、さっきの村の近くに小さな村があったので、そこに降り立つ。


 入口には誰もいなくて、入るのは簡単だった。普通は門番らしき人がいるのに、もしかしたらここも黒くなる呪いに侵されているのかな……って思いながら村の中へと進んでいく。


 ここも昨日のさっきの村みたいに、苦しそうに(うめ)く声が聞こえてきた。

 声のする方に行くと、ある建物の前で行列ができていた。

 子供を抱いた母親が泣きながら子供に呼び掛けていて、

「この子を先に診て下さい!お願いします!」

と、建物へ向かって叫んでいた。

 並んでいる人たちは皆、皮膚が黒くなっている人達ばかりで、恐らくここは診療所か何かなんだろう。

 並んでいるおじさんに話しかけてみる。そのおじさんも手の甲が黒くなっていた。



「大丈夫? ここでちゃんと治して貰えるの?」


「え? あぁ、ここは診療所にはなっているけど診てもらえる人は少ないから、俺は薬だけ貰いに来たんだ。最近変な病気が広がってきていてな。」


「そうなの? みんな皮膚が黒くなっていっちゃってるの?」


「あぁ。なんの病気かは分からんが、熱が出てな、暫くすると皮膚が黒く固くなってくる。とにかくその熱を下げたら治るんじゃないか、とは思うんだが……で、お前はどこの子だ? 見掛けない顔だな。」


「あ、うん、親戚の家に遊びに来たんだよ!」



 まだこの村は亡くなった人はいないみたい。回復魔法じゃ治らない。けど、試してみたいことがある。

 さっきの子供を抱えた母親の元へ行って、様子を伺う。



「ねぇ、この子、大丈夫?」


「段々……皮膚が黒くなっていってるの……苦しそうにしていて熱もなかなか下がらないのよ……」



 涙ながらに母親は子供の頭を撫でながら言う。

その子の黒くなった腕にそっと左手で触れて、巣食った呪いを左手で奪っていく。左手から何かが入ってくる感じがする。なんか凄く嫌な感覚……でもそれを続けていると、その子から黒い部分が無くなっていった。


 その様子を見た母親は驚いて私を見る。熱に侵されていた子供は呼吸も普通に戻り、目を覚まして何事かと辺りを見渡す。

 子供の熱は下がり、元の元気な状態に変わったのを確認してから、母親は私の手を握る。

 


「な、何をしたの?! この子の熱も黒くなった皮膚も無くなったわ!」


「あ、うん、良かった。もう大丈夫だと思うよ!」


「なんだ?! 何かしたのか?!」


「えっと、ちょっと回復させただけだよ……」


「私もしてみて! お願い! 足が黒くなって動かしづらくなっているのよ!」


「お、俺も頼む! 目の周りが黒ずんで、片目が見えなくなったんだ!」



 診療所に並んでいた人達が私の元へ集まってくる。 

 さっきみたいに、左手で呪いを奪っていくと、途端に皆症状が良くなっていく。


 良かった……私でも助けることが出来た……!


 その場にいる人達の呪いを全て奪っていくと、回復した人達からは感謝され、お礼にと何かを渡そうとしてくる。


「いらないよ!大丈夫だよ!」

って断って、でもなかなか私を離そうとしない人達から逃げ出すように、翼を出して飛び上がる。

 それを見た人達は凄く驚いて、呆然として私を見た。逃れる為につい翼を出してしまったけれど、知らない人達ばかりだから大丈夫だよね……?


 村を飛び立って、それから空間移動で家に戻ってきた。

 呪いを沢山奪ったから、流石に疲れちゃった……


 右手から呪いを出すようにしてみると、ゾワゾワした紫の濃い色した不穏な動きをする煙の様なものが這い出てきて、地面にゆっくり浸透していく。

 浸透した紫の煙みたいなのは、徐々に範囲を広げていくけれど、ニレの木の近くまで伸びると、それは何かに欠き消されていくようにして無くなっていった。


 さっきまで紫に侵食されていた地面が、徐々に元通りになっていく。

 やっぱり凄い!この場所は凄い!ここなら呪いを祓う事が出来るんだ!

 

 良かった……って安心したところでフラついてしまう……


 あれ?どうしたのかな……呪い、まだ全部出しきれて無いのかな……


 肩がなんか皮膚が突っ張ってる感じがするから見てみると、五センチ程の大きさの黒く固くなっている部分があった。

 もう一度右手から呪いを出すようにしてみると、それは少し小さくなった。


 大丈夫かな……大丈夫だよね……?


 ここにいてたら多分、呪いは浄化されると思う。だからきっと大丈夫。


 ニレの木を背にして、そこで少し休むことにした。

 少し頭がクラクラするけれど、もう少ししたら無くなるはず。


 でも良かった。

 私でも助けることができた。


 あの村はもう大丈夫かな。

 他の村や街は大丈夫かな?


 また明日行ってみよう。


 今日は疲れたから少しの間、ここで眠ろう。


 起きたらきっと良くなるから。


 ここは私を癒してくれる場所だから。


 



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