知っておく必要
家でリュカと過ごす。
リュカは俺に会うと泣き出した。今は俺の腕の中で眠っている。
こんなふうになる程、俺は追い詰めたって事だよな? 女の子って繊細なんだな……
ベッドにリュカを寝かせて、一応回復魔法を施しておく。
キッチンに向かって、体に優しい食べ物を用意する。起きたらリュカに食べさせてやろう。
仕込みが終わってソファーに座り、今日の報告をする為にピンクの石を握る。ゾランに交渉したことを話し、明日も行く事を告げて話しを終える。
それから意識を共有するように集中する。
実はさっき、ゲルヴァイン王国の村や街を巡っている時ゴーレムを忍ばせてきていたのだ。勿論、人間に見えるようにしているし、知り合いと思わせるような術もかけておいた。
途中で帰って来たから、そんなに多くは置いてこれなかったけど、八体程忍ばせている。って事は、八つの村や街にいるって事だ。
まずは王都から近い場所にある街を見てみる。そこは王都とは違って、木で出来た建物が殆どで、よくある感じの街並みだった。人々も笑顔が多く、ゴーレムにも気さくに話しかけてくる。
けど、奴隷の扱いが酷い。獣人と呼ばれる奴隷が多くいて、皆痩せてボロボロの服を着ていて、事ある毎に足蹴にされたり、鞭で殴られたりしている。見ているこっちが苛立ちを覚える程だ。
他のゴーレムに意識を飛ばす。ここは王都から離れた場所にある村だ。ってか、なんだここ……家とかの建物もボロボロな状態だし、家畜も痩せ細ってる。村人も皆が痩せてボロボロの服だし、土が痩せているからか、作物も育ちそうにねぇ……行き交う人々は覇気がなく、下を向いてヨロヨロと歩いている者ばかりだ。
酷ぇな……こんなんでどうやって生きていってんだ?
王都から離れた場所を確認すると、大体がこういった感じの村が多かった。それは離れれば離れる程、だ。華やかなのは王都の近隣だけか? 大丈夫なのか? この国は……
次に調査に行く場所の方面にある村へ意識を飛ばす。
……人の姿が見えねぇな……なんだ? 誰もいねぇのか?
辺りを見渡すように歩かせる。所々、黒い何かがある。その黒いモノに近づくようにし、それが何かをじっくり見る……
……っ! なんだ?! 人か?!
じゃあ、そこら辺にある黒いモノは全部人なのか?!
誘導して黒い人と思われる場所まで行く。
そこに横たわっていたのも人だった。
辺りを見渡す。声が聞こえる……
その声のする方へとゴーレムを誘導していく。そこには動けなくなって、体の殆どが黒くなっている男の人が泣きながらゴーレムに向かって助けを乞う。ゴーレムを通して話をしてみる。
「あ、あんた、助けて、くれ!た、頼む、助けて……」
「どうした? 何があった? 」
「わ、からな、い、一人が、体調が、悪くなって黒く、なったら……段々み、みんなが、黒くなって……!」
「伝染病か?!」
ゴーレムを通して魔法が使えるのか試してみる。ゴーレムは魔法で動かしているから、土魔法と同調させるように意識を飛ばして回復魔法を放ってみる。すると、手のひらから淡い緑の光が出た。どうやら魔法が転送できた様だ。しかし、その力は弱く、俺が使う程の威力はないようだった。仕方ねぇか……
黒い皮膚に回復魔法を放つけれど、皮膚は黒いままで何も変わらなかった。回復魔法が弱かったのか? それとも、これは病気じゃねぇのか?
何度か回復魔法を施すが、一向に回復する傾向は見られなかった。
何度も「助けてくれ」と涙ながらに訴える男は、そのうち喋る事も出来なくなっていく。黒い皮膚は全身に広がっていき、男の呼吸は途絶えていった。
そうして全身黒くなった人がまた一人増えたのだ。
何も出来なかった。それは俺がそこにいなかったからか? それとも、俺がいても何も出来なかったのか?
回復魔法が効かないとなると、可能性としちゃ呪いかも知んねぇ。
呪いであれば、呪術が使える俺であれば何とか出来るかも知んねぇ。
だけどそれがどういうモノなのか、しっかり把握する必要がある。
もしかして、遺跡に行った奴らはあれが原因で帰って来れなくなったのか?
それが村や街にも広がっていってるのか?
もしそうなら、早く対処しないといけねぇ。じゃないと、更に被害は広がっていくかも知れないからな。
けどとにかく、明日王に会えるかどうかで調査を受けるかどうかを決めるつもりでいる。この国がどういう国か、どう考えているのかを知ってから、今後の付き合いとかを考えてぇからな。
もし相容れなかったら調査は断るつもりでいた。
けどあの状態を放っておいて良いわけがない。
じゃあどうすんだ? 勝手に原因を探りに行くか?
いや、とにかく明日になってからだ。それからどうするか決める事にしよう。今こうやって一人で考えててもどうにもなんねぇからな。
他の街や村にも意識を飛ばす。黒くなった人がいたのは、一つの村だけだった。
良かったのか悪かったのかは分からねぇ。もっと調べてみねぇとなんとも言えねぇな。
そんな事を考えていると、リュカが寝室から出てきた。
「エリアス……」
「リュカ、目が覚めたか? もう良いのか?」
「うん、大丈夫。」
「そっか。あ、飯食うか?アッサリしたスープ作ったんだ。」
「うん。食べる。」
作っていたスープを温めて、そこに小麦粉で作った麺を入れて火をさっと通してから火を止める。
リュカにそれを渡して、二人でテーブルについて食べる。食欲はあるみたいだ。良かった。
「リュカ……その……すまなかった。」
「え? 何が?」
「その、リオとの事、な? リュカが誰かを思う気持ちってのは、あっていい感情なんだ。それを俺がとやかく言うなんてのは間違ってた。だから……その……ごめん……」
「うん、分かった。もう気にしてないよ?」
「そうか? でも、その……あんまり一人で悩んだりしないでくれな?」
「え……うん……」
「その、リオの事とかじゃなくても、何かあったら俺に言ってくれな?」
「うん……」
「あ、俺に言いにくかったら、他の誰でも良いんだ。リュカが言いやすい相手に言えばいい。だから、一人で抱え込んだりしないで欲しい。」
「分かった。」
リュカがニッコリ笑う。その笑顔にホッと胸を撫で下ろす。
食事が終わると、リュカは俺に抱きついてきた。まだなんか不安なのか? けど、リュカが何かを言ってくれるまで、何も聞かないでおこう。親に反抗したい時期とかあるだろうし、何でも親が知っておくって事は違うかも知んねぇからな。
けど、俺はこの時にしっかり聞いておけば良かったんだ。
リュカが何でこうなっていたのか、しっかり知っておく必要があったんだ。
俺は知っておく必要があったんだ




