誤解
ゾランがゲルヴァイン王国に書状を送ってから二日後、面会の許可がおりた。
朝、家を出るときに昨日の事を思い出して、ついリオとの事を注意してしまう。
こんなことを言ってしまう自分にも苛立つが、昨日我を失ってしまったことには、俺は自分が許せない状態だった。
リュカがリオを好きになった。
こんなことはよくあることだ。小さくても誰かを好きになる、なんて事は誰にでもあることだし、俺もそうだった。
なのに、そんな普通に芽生える感情に腹をたてるなんて事、親としてどうなんだ?ってか、人としてどうなんだ?って感じだよな。
もっと余裕を持って構えとかなきゃいけねぇよな。
昨日からずっと反省しっぱなしだ。なのに、リュカを見ると、またつい注意してしまう。こんなことじゃいけねぇのに。分かっているけど、思うようにできねぇ。なんだこれ?俺はいつからこうなった?
ったく、リュカは俺の所有物じゃねぇってのに!
帰ったら謝ろう。リュカは何も悪くない。もちろんリオも悪くない。俺の心が狭いだけだ。もっと心にゆとりを持たないとな。
気を取り直して、ゲルヴァイン王国の王都ヘルヴァダに行く。空間移動でシアレパス国の首都ワルナバスまで来て、そこから姿を消して飛行してヘルヴァダまでやって来た。
王都は賑やかで、行き交う人々の身なりは良く、露店等はなくて全て店舗で物が売られていた。
建物も石造りでしっかりしているし、高級感漂う造りの建物ばかりだ。
ここは貴族が主に暮らしているのか?と思う程に、人も建造物も、ベンチやゴミ箱一つにしても、目につく物が何もかも高級な物で溢れていた。
けど、なんか違和感がある。ここはなんか落ち着かねぇ。なんだろうな……
随分前にマルティノア教国へ行った時みたいな感じだ。あの国は今やオルギアン帝国の属国となっているが、その前は酷いもんだった。教皇を神の様に崇め、信者以外を人扱いもしなかった。
俺はそこの孤児院で育ったが、まるで奴隷のように働かされていたな。その後逃げ出して本当の奴隷にされちまったけど。
王都を歩いて様子を見ながら王城まで行き、門番にオルギアン帝国から来たエリアスだと伝え書状を見せる。
門番が案内した、門の外側にある待合室みてぇな所で待たされて、それから次は別の部屋に案内され待たされる。
そこから担当が変わって、また別の部屋へと通されて待たされて、そんな事が何回かあってから、漸く担当者らしき奴と会う事が出来た。
書状を見せてギルドカードも見せて、持っていた武器も全て装備から外し控えていた従者に預けるように言われそうして、身体検査もされた。
これが助けを借りる国相手にする事か?全く信用してねぇな。
騎士が六人程と従者が三人。
って、ビビりすぎじゃねぇか?
「随分警戒するんだな。」
「周りは敵だらけなのでな。警戒するに越したことはない。しかし、従者もつけず一人で来るとは思いもしなかったが……」
「今日は話をしに来ただけだ。それに喧嘩をしに来た訳じゃねぇしな。」
「おい、お前!パトリク様になんて口の聞き方だ!改めよ!」
「あ?」
「よい。下がりなさい。礼儀の知らぬ者を正すのは我が国がする事ではない。彼の国はそういう国なのだ。」
「その国に助けてほしいって依頼を出してきたのはそっちじゃねぇのか?」
「だから私は反対だったのだ……他国に救援要請する等と……」
「話になんねぇな。俺は別に構わないんだぜ?この国がどうなろうとな。」
「貴様っ!我が国への暴言、許さぬぞ!!」
「許さないってなら、どうするってんだよ?」
なんだ? コイツ等、人を見下したくて仕方ねぇって感じだな。自分たちが一番だと思ってやがる。他の国の奴等は、例え王でも対等じゃねぇってか?
騎士達は剣に手を掛け、一歩前へと出る。俺が何も持ってねぇから意気がってんのか?
マジでうぜぇ……なんだこの国は……!まともに話が出来る奴はいねぇのか?
「やめなさい。パトリク、お前も失礼だぞ。」
「イ、イェスベル様……!そ、れは、こいつが我らを愚弄したからで……!」
「こちらが要請した国の使者なのだぞ?!控えよ!!」
「……はっ!」
いきなり入ってきた初老の男に、パトリクと呼ばれた奴はいきなり態度を正しだす。
騎士達もすぐに元の立ち位置に戻り、整列した。
「なんだ。依頼主はパトリクって奴じゃなかったんだな?」
「失礼したな。私はイェスベル・ビューストレムと申す。宰相をしておる。」
「俺はオルギアン帝国Sランク冒険者のエリアスだ。」
「貴方がそうだったのか!まさか本人が交渉に来られるとは思ってもいなかった!」
「依頼を受けるのは俺だからな。」
「貴様また!イェスベル侯爵様にまでその様な口を聞きおって!」
「やめろと言っておる!剣に手を掛けたということは、こちらに攻撃の意思があると見なされるのだぞ?!この方にかかればお前達が敵う事等ない!控えよ!」
「しかしっ!」
「パトリク!お前はもうよい!そこの頭の悪い騎士達を連れて出て行くがよい!」
「……っ!」
悔しそうな顔をし、俺を睨み付けながらパトリクと呼ばれた男は騎士共と出て行った。
これでやっとまともに話ができそうだ。
「申し訳なかった。此方から赴かなくてはならぬところをご足労頂いたのに、無礼であった。」
「アンタはまともそうだな。俺は普通に話ができればそれで良いんだ。で、調査って、何の調査なんだよ?」
「うむ。今各国でもダンジョンで魔物を狩るのが流行っておるようだな。我が国にも勿論ダンジョンはあるが、どうやら使い勝手が悪いというか、人気が無くてな。」
「使い勝手が悪い?」
「出現する魔物のレベルがまちまちなのだ。同じ階でもBランクとFランクが出る等もあるし、どの階にどんな魔物がいるのか、定まっていない状態でな。だから他国へと冒険者は流れて行く。しかし、冒険者の仕事は魔物を狩るだけではない。資源の調達もそうだが、商人の護衛、村の警護等もある。だから冒険者が少なくなるのは、国としても困ってしまうのだ。」
「まぁそうだな。」
「そこで、我が国でもダンジョン捜索に力を入れたのだ。以前からも細々と調査をしていたのだが、大幅に予算を上げ、本腰を入れて捜索に乗り出したわけだ。」
「そこで何かあった、と?」
「うむ。ここから北西へ行った場所にある遺跡に向かった者達が帰って来ない。この場所は以前から調査の対象となっていて、調査隊は近隣の村に泊まり込み、日々調査をしていたのだが……」
「その調査隊から連絡が途絶えたんだな?」
「そうなのだ。調査予算が増えた事により、今まで出来なかった調査が出来るようになったと喜んでいたのだが……勿論人員を増やし、新たに調査隊を派遣した。しかし、それもまた帰っては来なかった……」
「アンタの息子が……陣頭指揮を執った……か?」
「な、何故分かる?!」
「そんな事だろうと思ってカマかけただけだ。図星だったようだな。」
「く……確かに、息子のオルヴァーが陣頭指揮を執ったと言うのは事実だ……」
「さっきからアンタからは騙そうとか裏をかこうって感じがしねぇ。どうにかして息子を助け出したい、との考えが感じられるな。で?どうするよ?」
「どうする、とは?」
「俺が手を貸すことは出来る。それなりの結果は出すつもりでいるが、俺は金には興味がねぇんでな。」
「では何を引き換えに考えておるのだ?」
「そうだな。王に会いてぇかな。会って話がしてみたい。どうだ?」
「王に……」
「まだ俺が信用できねぇか?」
「いや……そうではない……が……」
「考える猶予くれぇは与えるよ。アンタは俺の事調べたのか、色々知ってくれてるみてぇだしな。あ、さっき言ってたダンジョンを最適化させるのもサービスでつけとくぜ?」
「そんな事ができるのか?!それは非常に助かる事だが……」
「まずは王に会わせて欲しい。いきなり攻撃とかはしねぇよ。俺がその気になればこんな城くれぇすぐに崩壊できるの、アンタも分かってんだろ?俺はこの国と友好な関係が築ければ良いと考えているだけだ。信じるかどうかはアンタに任せる。じゃ、明日にでもまた来るな。」
「う、うむ……」
城を出て王都を出る。それから姿を消して飛び、この国の村や街を見ていく。取り敢えずそうやって街やらを探していく。後で空間移動で来れるようにする為だ。
ついでに魔物の気配も感知するようにしていく。そうしただけで、結構魔物の気配が感じられた。ここはもしかしたらダンジョンが多いのかも知んねぇ。
そうやって飛んで様子を見ていた時に、ピンクの石が光りだす。ゾランからリュカの調子が悪いと連絡が入った。
急いで帝城へ戻る。
今朝は大丈夫だった。元気だった。……と思う。
もしかしたら昨日の事が原因か?俺の事を気にして平気なふりをしていたのか?
なにやってんだ!?俺は!
娘に気を使わせて体調悪くなるまで追い詰めて!
ごめん!リュカ!
ごめん!
いつもお読み下さってありがとうございます!
ブックマークに登録して下さった方、本当にありがとうございます!
評価して下さった方、感謝しまくりです!
コロナで大変な時期ですが、お互い頑張りましょう!
物語はラストに向けて進めております。
エリアスとリュカの様子を飽きずに見守って頂けると嬉しいです(*^_^*)
これからも、どうぞよろしくお願い致します!
<(_ _*)>




