表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒龍の娘  作者: レクフル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/116

幸福


 ニレの木があって、そのそばには木造の一軒家がある。その前には小さな畑があって、色とりどりの花が咲いている。


 けれどその家は外部からは見えないようにしてあって、小高い丘にあるこの場所は遠くからでもその容貌は確認できるが、その家を臨めることはない。


 ここにリュカと住むことになって、もう一年間近くになるか。

 帝城で暮らしていた頃よりもリュカが生き生きしているように感じられる。と言うのは、リュカの能力が覚醒してから、その感情や思考が手繰れなくなったからだ。


 しかし、元々リュカは素直な性格だ。隠し事等はあるかも知んねぇけど、全く思ってもいない事を言ったり、計算して人間関係を構築させていく、なんてことは出来ない性分だ。と、今まで思考を読んできて分かった事だ。


 とは言え、日々成長するリュカを、今までの尺度で考えねぇようにはしないといけない。特に女の子は分からない事が多い。急に不機嫌になったり、かと思えば機嫌が直ってニコニコしだしたり、こればっかりはマジで予測がつかねぇ。女の子を相手にするくれぇなら、魔物と戦っている方が何倍も楽だ。

 まぁ今は、リュカ以外であれば感情は読めるから、何考えてるか分からなくて困るってことは無いんだけどな。その代わり裏の顔ってのが見えて、ゲンナリすることが多くなったな。


 そんな感じで、俺とリュカの生活は穏やかで楽しくて、この生活がいつまでも続けば良いと思っている。

 

 覚醒したリュカの能力は素晴らしく、全ての属性の魔法が使えるし、龍の姿になるのも容易くできる。翼だけを出して飛ぶことも可能だし、何よりその能力を全て制御出来ているのが凄い。


 この魔力を制御する、と言うのは本当に難しくて、魔力が少ない場合はそこまで制御する必要はねぇけど、リュカ程の魔力量であればその扱いが凄く難しい。


 例えば、コップにいっぱいの水を溢さずに走るような状況に似ていて、能力に目覚めたばかりの頃は、走っている途中で水を溢してしまった状態と言えば分かるだろうか。いかに溢さないように維持させるか、と言うのも大変だが、そのいっぱいの水から適度に魔力を掬い出して、自分が使いたい魔法に変えていく、という事がまた大変なんだ。

 その魔力量の調整、それに見合った魔法の構築にはセンスが必要で、小さな頃から魔法を何となく使えていたリュカだから、大きすぎる魔力でも使いこなす事ができたんだろう。


 アタナシアが俺に宿り、フリースヴェルグから能力を奪った俺は、前よりも大きな力を持ったと思う。思うと言うのは、その力を試そうとも思わないし、あれからリュカのこと以外でこの力を使う機会もなかったからだ。俺だけが強くなったところで、世の中は何にも変わらない。筈だ。いや、変わらない様にしねぇといけないんだ。

 だから、なるべくなら力を使わないようにした方が良いし、使わない世の中であることが一番良いことだ。


 最近は魔物の驚異も少なくなっていて、俺がそれに駆り出される事も無くなってきた。逆に冒険者としてやっていけない者が出てきたりして、世界が平和になるのは良いことなんだけど、失業してしまう奴等がいるのも事実だ。

 まぁ、この業種に関しては、需要と供給のバランスが崩れてきている、って感じだな。


 そんな事もあって、今冒険者達はダンジョン攻略に躍起になっている。あまりダンジョンの数は多くなく、新たに発見されることも少ないから、数少ないダンジョンへ冒険者が集まっている状態だ。お陰でその界隈にある村や街が繁盛して、ダンジョンが近くにあるインタラス国にあるイルナミの街も、余所者の冒険者が多く出入りする状況へと化している。まぁ、ダンジョンバブル、とでも言うのか?そんな感じで、今冒険者の間ではダンジョンがブームになっているみたいだ。


 そんな訳で、現在各国でダンジョンを見つける調査隊が編成されていて、俺もそれに駆り出される事が多くなった。魔物の驚異がなくなったら、自ら魔物を探し求めるってのも変な話だな、と思いつつ、今日は俺はベリナリス国でダンジョン探しをしている。

 これは同盟国であるベリナリス国からの依頼で、俺が探すとダンジョンが見つかりやすい、との情報が上層部で出回ってしまったからだ。 

 魔物の気配を鋭く探って行くと、地中や遺跡でその気配を感じる事がある。その近辺をくまなく調べると、ダンジョンが見つかる事がある。

 今まで見つけたのはオルギアン帝国内で、実は既に三ヶ所程ダンジョンを見つけている。

 それをゾランに報告すると、一度に三ヶ所全て解放するのは他国とのバランスが悪くなるから、頃合いを見て解放しましょう、と言うことになった。


 で、そのダンジョンの様子を確認するのも俺の役目で、どのレベルの魔物がいるのか、何階層まであるのか、毒や罠はあるのか、等を確認し、マッピングしていく。未知の生物がいる可能性もあるってことで、かなりの注意が必要だ。

 けど、「エリアスさんは不死身だから気にせず行けるでしょ!」って笑いながらゾランは言いやがった。マジで殴ってやろうかと思った瞬間だった。


 とは言え、この地図をいきなり全て解放したりもしない。これは国が管理し、情報操作をするらしい。戦略とかは分かんねぇから、それは全てゾランに任せて、俺は言われた仕事に没頭する。難しい事はアイツに任せりゃちゃんとするからな。


 リュカは毎日、帝城でリオと一緒に勉強をしている。勉強だけじゃなくて、魔法の使い方なんかも練習するらしい。リオは去年の誕生日に俺が渡したニレの木の枝で、魔力制御の練習を毎日のようにしているみたいで、もういつ能力を覚醒させても問題ないくらいに操れているそうだ。


 で、リュカの能力が覚醒して、その能力の高さから黒龍から奪った力を使い続け、それにより命が削られることになっていたリュカに、俺は毎日体力と生命力を補っている。


 夜寝る前に、リュカの目をしっかり見て、俺の力を与えていく。体の魔力や体力とかを自分の中で凝縮させるようにして、リュカの思考を探っていた時のように体の中の能力を探り、頭の中の思いをリュカに届けるような感じで自分の力を入れるようにしていく。

 これによって、リュカは思い存分魔力を使えるし、命の危険もなくなった。


 朝は一緒に料理をする。で、夜早く帰れそうな時は一緒に晩飯を作る。けど、遅くなりそうな時は、リュカには帝城で晩飯を済ますようにしてもらっている。この時間までに帰ってこなければって感じで、それは決めている。

 けど、リュカはなるべくなら俺と一緒に飯を食いたいらしくって、その時間がくるといつもピンクの石が光りだす。そうやって俺の帰りを確認するのが日課になってきてるかな。


 いつまでもこんなふうに、リュカとの穏やかな日々が続けばいい。


 こんなひとときを、俺は噛み締めるように過ごしている。


 幸せだと思う時間があればあるほど、別れはきっと辛くなる。分かっているけど、だからと言ってリュカとの時間を無下にはできねぇ。


 先の事は考えないで、今はこの時間を楽しむことにしている。


 なぜなら、俺は今幸せなんだから。

 

 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ