良かったんだ
アシュリー
俺はこの世に未練なんてねぇんだよ
リュカのこと以外
俺がここに生きてる意味なんかねぇんだよ
いつだって会いにいきたいって思ってる
いつだって共にありたいって思ってる
アシュリーがいる場所であれば
どこであっても飛んでいきたい
俺が求める愛は
アシュリーとリュカの元にしか
ただそこにしかねぇんだよ
「エリアス殿っ!」
「あ……れ……?なん、だ?」
「気が付かれたか!良かった!!」
「……ムスティス……公爵……」
「どこか痛む所はないか?!大丈夫か?!」
「あぁ……大丈夫だ……俺は……どうしてた?」
「フレースヴェルグが倒れたのを確認してからその場で崩れ落ちるように倒れたと、オルギアン帝国の兵士が言っておってな。いやはや、あの大きな魔物を一人で討伐してしまうとは……感心を通り越して驚きでしかないぞ?!」
「そうか……倒してしまったか……」
「他に被害は出ておらん。安心してくれ。しかし、大きな怪我をした訳でもなさそうなのに、何故倒れてしまったのだ?」
「あぁ……なんでだろうな……」
「身体中に掠り傷は見られるが……とにかく無事で良かった!ここは戦闘のあった場所に近い村だ。ここで一旦様子を見ていたのだが、今日はこのままゆっくりした方が良いだろう。」
「いや、報告もあるから今から帰る。っと、後始末とかは必要か?」
「いや、それは大丈夫だ。激しく燃えてしまったのでな、ほぼ骨と化したのだ。その処理位はこちらで受け持とう。ここまで連れてきた兵達に仕事をさせなければならんしな!」
「すまねぇ。」
体を起こすと、まだ心臓が大きな音を立てて脈打っている。けどさっきよりは落ち着いてきてるかな。ふと見ると、手には幻夢境刀をしっかり握り締めたままだった。聞くと、俺は何をしてもこの刀剣を離さなかったそうだ。剥き出しのままの刀剣を鞘に戻し体を起こす。
フレースヴェルグから奪った力は、少しずつ体に馴染もうとしているのが感じられる。けどまだザワザワした感じがするな。
しかしどうなってんだ?俺の体は?
オルギアン帝国の兵達が側に寄ってきて、俺の戦闘を見て「凄かったです!」「攻撃が早くて見えなかったくらいです!」「魔法かどうかも分からない攻撃が続いて凄いとしか言えません!」「師匠と呼ばせて下さい!」等と口々に興奮しながら言ってくる。
「ハハ、そうか」って、愛想笑いをする感じで兵達に答え、また後日挨拶に来るとムスティス公爵に告げて、俺は一人で空間移動でオルギアン帝国へ戻ってきた。
部屋に着いて、まずリュカの様子を見に行く。
リュカはまだ眠っていて、静かに寝息を立てていた。
リュカの頬を撫でて、それから背中を優しく撫でる。
リュカの様子を見れたら安心できた。ゾランに報告でも行くか……って思って、立ち上がって部屋を出ようとしたところで記憶が途絶える……
目に入った光が眩しくて目覚める。
ゆっくり目を開けて辺りを見渡す。隣のベッドにはリュカが眠っていて、俺のそばにはメイド頭のマドリーネがいた。
「あ、エリアス様!お目覚めになられたんですね!お体の調子はいかがですか?!」
「そう、だな……問題ねぇ。」
「それは良かったです!ゾラン様も心配されていらっしゃったんですよ!あ、食事をお持ちしますね!」
「あぁ。頼む。あ、リュカの様子はどうだった?」
「ずっと眠ったままです……時々様子を見に来ていたんですが……」
「そうか……」
マドリーネは一礼して部屋を出て行った。
体を起こして、自分の状態を確認する。
とくに変わった感じはなさそうだ。
横のベッドに行って、リュカを優しく撫でる。まだ起きねぇのか?もうすぐ起きるよな?起きてくれるよな?
そんな事を思いながらリュカの背中を撫で続けていた。そうしているとマドリーネが朝食の用意が出来たと言ってくれたので、居間で食事を済ませる。それからゾランの仕事部屋へ行く。
「エリアスさん、おはようございます!体調はいかがですか?!」
「あぁ、ゾラン、俺は問題ねぇ。」
「あれ?なんか……少し感じが違うような……なんでしょう?んー……なんか少し……若くなった……ような?」
「そうなのか?……あ、昨日報告出来なくてすまなかったな。」
「あ、いえ、それは問題ありません。一緒に行かせていた兵達から報告を受けましたので。無事討伐できたようですね!しかし、討伐してしまって良かったんでしょうか?リュカに体力や生命力なんかを与える必要があるのなら、捕まえて従わせるって言うことが大前提でしたよね?」
「そうだな。しかし、アイツは喰らう事しか頭になかった様な魔物でな。従わせようと試みたけど無理だった。まぁ、こうなる事は想定済みだったんだけどな。」
「ではどうされるのですか?!リュカはこのままでは……!」
「大丈夫だ。」
「え?大丈夫って、それは何故なんですか?」
「フレースヴェルグが不死身なのは、アタナシアっていう精霊が宿っていたからなんだ。その精霊がフレースヴェルグからいなくなった。だからアイツは死んだ。」
「え……では……そのアタナシアという精霊は……」
「今、俺に宿っている。」
「エリアスさんに……ってことは……!」
「俺が不死身になったって事だろうな。」
「エリアスさんが?!本当ですか?!え、でもそれって……」
「覚悟はしてた。リュカを生かす為なら、どんなことでも俺はしてやるって思ってたからな。俺の為に現世に残ってくれたリュカの為になるんなら、俺がどうなろうともそれで構わねぇ……だからこうなった。仕方ねぇ。」
「そう……なんですね……」
「仕方ねぇ……」
「まぁ、その、それは悪い事ばかりではないかも知れませんよ!?ほら、昔から不老不死は憧れだったりしますし!それに、あ、いつまでも若々しくいられるって、良いじゃないですか!今も昨日より若くなった感じがしますし!」
「そう、だな……」
「あ、いや、その……すみません……」
「大丈夫だ。気は使わなくていい。これでリュカはこれからも生きていける。だからこれは喜ばしい事なんだ。」
「そうですね……」
「まぁ、こうなったらずっとオルギアン帝国の繁栄を見守ってやるさ。現皇帝のヴェンツェルがいなくなって新たな皇帝が誕生しても、ゾランがいなくなってしまっても、俺がずっと目を光らせておいてやる。どうだ?心強いだろ?」
「あ、はい!これ以上心強いことなんてありません!」
「リオの成長も見守るよ。リオの子供もそうだな。リュカも大人になって家庭をもって幸せになって、それからリュカが天寿を全うして……その後も俺は一人で……生き続ける……んだな……」
「エリアスさん……っ!」
「んな顔すんな!大丈夫だ!あ、体調は凄く良いんだぜ!フレースヴェルグから力も奪ってやったんだ!俺は更に強くなったぜ!」
「もう……!そ、そんなに強くなって、どうするんですか!あ、また感情的になって暴走しないで下さいよ!もう誰も手をつけられないんですから!」
「分かってるよ!ってことで報告は以上だ!じゃあな!」
ゾランの仕事部屋を後にして、一人ニレの木の元にやって来た。ここは誰も来ねぇから、一人になりたい時はついここに来てしまう。
朝陽が眩しい。今日は良い天気だ。ニレの葉がその陽射しを遮ってくれて、ここはやっぱり気持ちいい。魔力も俺の体に程よく馴染む。
今はリュカの事だけを考えよう。
あの笑顔がこれからもずっと見ていられるんだ。何も悲しい事なんてない。だからこれで良かったんだ。
これで良かったんだ。




