永遠に
フレースヴェルグの額に幻夢境刀を突き刺したまんまで、風に吹き飛ばされねぇように鼻に乗っかって、その目から力を奪っていく。
俺の体に力が入ってくるのが分かる。その力は大きくて、身体中の血管がボコボコ浮き出てくるぐれぇに沸き立っていく。所々血管が破れて体のあちこちから血が噴き出すけれど、それでもまだ奪い尽くせてねぇから、幻夢境刀を離さなねぇようにしてしっかり目を見続ける。
すると段々、大きかった風が緩やかになっていき、やがて風はピタリとやんだ。
さっきまでゴゥゴゥと煩かった風音は無くなって、ザワついていた木々は大人しくなった。
俺の体の中はまだ力が馴染まずにいて、暴れ出しそうに身体中を駆け巡っているみてぇにザワザワしてる。もしかしてこの感覚は、今リュカが体感している感覚なのかも知んねぇな。
だけど落ち着くのを待っている訳にはいかねぇ。刀剣を突き刺したまま、フレースヴェルグの感情を探る。俺を倒そうと、喰らい尽くそうとする感情しか見えてこねぇ。強い力を持った人間を喰らうとより自分に力が得られるから、この人間を喰らいたい、喰らい尽くしたい、そんな感情だけが飛び込んでくる。
「おい、お前は俺に従うつもりはねぇのか?!」
そうやって聞くけど返答はねぇ。圧倒的な力で捩じ伏せるしかねぇのか?そうやって従わせるしかねぇのか?!
幻夢境刀を引き抜き、鼻を蹴って後ろへ大きく飛び退いて、今度は刀剣に風を纏い、その風で刃を作り出し、また駆け寄って大きく振りかぶって飛び上がる。風を足に纏い駆け上がって行くと、高く高く、体は宙を舞うように飛び上がった。そうしてその背中目掛けて大きく風の刃を振り抜いた。
真っ二つ……まではいかねぇ。が、結構な致命傷を与えられた。背中から腹にかけて大きく裂かれた内臓目掛けて、高魔力の闇魔法を放ち、腐食させていく。
のたうち回るようにバタバタと悶え苦しみ、ハエを払うかのように長い尾を振るい、俺を叩き落とそうとする。
即座にそれを避けてもう一度飛び上がり、今度はその尾を切り離してやる……!
次にバタバタとはためかせている大きな翼を勢いよく切り離していき、飛べないようにしてやった。
腐食を何度もかけ直し、再生しようとするのを防いでいく。フレースヴェルグは苦しむように喘ぎ、身悶え、のたうち回る。それでもコイツは死なねぇ。切り離した尾が近寄ってきてくっつこうとする。それを遮るように尾にも腐食させていく。
同じようにして前足を風の刃で切り裂くと、バランスを崩してその体は横にドシンッ!って大きな音を立てて倒れ込む。
腹を見せたフレースヴェルグの心臓目掛けて、刀剣に炎を纏い、風魔法で勢いよく走って近づき、その胸に炎と化した幻夢境刀を思いっきり突き刺した。
刀剣が心臓に届いたのか、刀剣を伝って鼓動がドクドクと波打つ。そのまま更に炎を最大限にして、内部を焼き付くしていく。
『……た……かっ……』
微かに刀剣を持つ手から何かが伝わってくる……
『……あい、……か……た……』
か細く、けれど優しく伝わってくるその微かな声を注意深く聞いてみる……
『……会いたかった……ずっと……』
「会いたかった?なんだ?誰だ?」
『ソムニウム……嬉しい……』
「ソム、ニウム?」
俺がそう言うと、幻夢境刀が眩しく光だした。もしかして、この剣に宿るってのがソムニウムって精霊なのか?!
じゃあ、この声は……
「アタナシア……か?」
『貴方はソムニウムを従える者……?』
「そう、だ。」
『もう離れたくない……やっとソムニウムに会えたの……』
「ずっと会えるのを待ってたのか?」
『永い年月を越えて、私はソムニウムを求めていた……』
「そうか……フレースヴェルグにアタナシアが宿ったのは何故だ?」
『私は命に宿らなければ生きてはいけない精霊……そしてソムニウムは物にしか宿る事ができない精霊……』
「命に宿る精霊……」
『この魔物は強さを求めていた……そして生き永らえる事を求めていた……』
「だからか?だから宿ったのか?」
『私を宿す者は強靭でなければならない……でなければ、その体は耐えきれずに朽ちてゆく……』
「じゃあソムニウムは?」
『英雄と呼ばれた者が持っていた……私はその体に宿っていたの……』
「じゃあ、ラミティノ国で伝説になっている英雄に、アタナシアが宿っていたって事なのか?!じゃあなんでフレースヴェルグに……」
『食べられたの……一呑みにされたの……その手から離れたソムニウムとはその場で別れてしまったの……』
「そうだったのか……」
その時、また苦しそうにフレースヴェルグがバタバタと動き出す。思わず刀剣を抜いてしまいそうになる……!
『やめて!行かないで!会えたのに!やっと会えたのに!』
「どうすれはいい?!俺はコイツを……コイツから体力や生命力を奪い続けたいんだ!じゃねぇと……俺の娘がっ!リュカが生きていけねぇんだよ!」
『なら貴方が私を宿せば良い……』
「えっ……?」
そんな声が聞こえたかと思うと、刀剣を伝わって何かが這い出してきた。それは淡く赤く染まっている霧のような感じで、俺の手を伝い、身体中に広がっていってから胸に一つに集まってきて、俺の心臓におさまっていったような感じがした。
ドクンッ!!
心臓が大きく脈打って、その衝撃に立っていられなくなりそうな程になる……!
幻夢境刀をフレースヴェルグから抜き出し、大きく後ろに飛び退いて、その場で片膝をついて屈み込むようにして心臓に手をやって、その鼓動をなんとか鎮めようとする……!
心臓が痛ぇ……っ!
息が絶え絶えになり、冷や汗が全身に吹き出して、その体制を維持するのも難しい位になる……けどダメだ!こんな所で倒れちゃいけねぇ!
フレースヴェルグが身悶えながら、段々とその力を弱めていく……もう切り離した尾も翼も動かねぇし、心臓に刺した時の炎が徐々に全身に回っていって、その姿を燃やし尽くそうとしていく……
アイツは……死ぬのか……?
じゃあ……アイツにあった不死の力は……
霞む目でフレースヴェルグの姿を見続ける……
全身が燃え盛っていくフレースヴェルグから、幾つもの白く輝くモノが飛び出していく。
あぁ……あれはきっと……アイツの供物となった命……魂だ……それが天に還っていく……
良かった……
それはアイツが……フレースヴェルグが死んだ、ということなんだろうな……
アタナシアは俺に宿った
だから俺は
生き続ける
これから永遠に
生き続けることになる




