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黒龍の娘  作者: レクフル


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あの魔物は


 能力が覚醒したって、テネブレとセームルグに言われた。


 それをエリアスに言うと、すごく悲しそうな顔をした。なんでだろう?さっき部屋を水浸しにしちゃったからかな?魔法の制御が出来てないから困ったって思ったのかな?


 水魔法を使ってから、すごく疲れちゃった。だから知らずに寝てしまったみたいで、気づくと私はエリアスに抱えられていた。そこはニレの木の元で、魔力を補っていたんだってエリアスは優しく笑って言っていた。


 帝城に戻って朝食を摂る。なんだかスッゴくお腹がすくし、食べても食べてもまだ足りなくて、エリアスも給仕の人もビックリしてたけど、自分でもこんなに食べられる事にビックリした。


 そんな私をエリアスが心配そうに見る。けど、今日は昨日の事とかもあるから、仕事を休むわけにはいかないんだって。私もわざわざ休んで欲しいとか思ってなくて、普段通りにしていたいと思うし、右手首にも能力制御の腕輪を着けてくれたから、多分もう大丈夫と思う。

 だけど、朝みたいに何が起こるかまだ分からないから、慎重にならないといけないって思ってる。


 エリアスはミーシャとリオと、講師の先生にも私が能力に覚醒したことを報告していて、元々の魔力が高めだから注意しておいて欲しいって、何度も何度も言ってた。

 

 エリアスはそうやって私を凄く心配する。けど、今回に関しては何も言えない。朝、水魔法を暴発させちゃった事もそうだけど、自分の魔力が身体中を駆け巡っていて、それが外に出れなくてウズウズしてるような感じがしてるのが分かるんだもん。これをそのまま外に出しちゃったらまた朝みたいになっちゃいそうで、それを押し込めるのに力を込める感じにしてるから、何だかすごく疲れちゃう。


 リオは「能力が覚醒したって、どんな感じ?!」って、ワクワクした感じで聞いてくるし、先生も「おめでとうございます」って微笑んで言うし、一般的には能力の覚醒は喜ばしいことなんだろうな。

 でもエリアスの様子からも分かるけど、自分の身に起こってる変化も考えると、この事は私に関しては喜んで良いことじゃないって思える。


 

「リュカ君!」


「えっ?!はいっ!」


「何度も呼んだんですよ。何を考えてたんです?能力の事でも考えていたんですか?」


「あ、うん……」


「魔法を使ってみたい気持ちは分かりますよ。私もそうでしたから。しかしーー」


「ねぇ、先生!僕もリュカの魔法に興味があります!リュカの能力を見せて貰う事にしませんか?!」


「え!それはダメだよ!」


「なんで?!リュカも気になるんだろ?!ねぇ、先生良いでしょう?!参考の為に!」


「まぁ、リュカ君が良いのであれば……」


「リュカ、良いよね!」


「それは……!私は……あの……まだ魔法は使いたく……ない……」


「え?!どうして?!いいじゃないか!そんな勿体ぶらないでよ!」


「そう言う訳じゃないよ!」


「なぜなんだ?!見せたくない理由でもあるのかい?!」


「リオ君、無理を言ってはいけません。まだ上手く使えないでしょうし、ちゃんと練習してからの方が良いかも知れませんからね。先程エリアス殿も魔力が高めだから気をつけてと言っておられたしね。」


「うん、そう!エリアスが魔法の使い方を教えてくれるから!だからそれからにしたいの!」


「なんだよ……少しくらい良いじゃないか……」


「リュカ君の言うとおり、ある程度ちゃんと魔法が使えるようになってからの方が、リュカ君もエリアス殿も安心でしょうね。では今日は魔物の生息地について勉強しましょう。」



 良かった。何とか魔法を見せるのを回避できた。けれどリオは少し不貞腐れた感じだった。

 能力制御の腕輪をしたから朝よりは大丈夫だとは思うけど、やっぱり今魔法を使うのは怖い。


 って、魔物の生息地の勉強?そんな事も習うんだ……でもそうか。どの国の何処にどんな魔物がいるのかを知っていれば、冒険者は勿論、旅や行商に行くにも役立つし、こういう事こそ知っておかなければならないんだろうな。


 先生はこの界隈にいる魔物の種類や特性、どのような攻撃が効果的なのかを説明していく。先生の持っている本には魔物の絵が描いてあり、その絵を見せながら説明してくれていた。知っている魔物が多くいて、でもそんな名前だったって知らなかったりして、私は興味津々で聞き入ってしまう。

 他の国の魔物も机に大きな地図を広げて、先生は場所を指差しながら説明してくれる。その地図をノートに書き写し、生息する魔物を書き込んでいく。



「次にアーテノワ国ですが、ここにも魔物は多く生息しています。しかし長年、黒龍の加護があったと言われていたので、この国が魔物に襲われる事はありませんでした。」


「へぇ、そんなんですね。」


「しかし、二年程前に黒龍の加護が突然無くなり、この国は魔物の驚異に晒される事となったのです。」


「どうして黒龍の加護は無くなったんですか?」


「確認はされていませんが、黒龍が亡くなったと噂されております。」



 そんな話を先生とリオがしているのを聞いて、私は何も言えなくなってしまった。

 なぜ加護が無くなったのか。それは私が父である黒龍の命を奪ったから。下を向いて唇を噛み締めて、そんな事を考えていた時だった。



「アーテノワ国や近隣国で最強と言われている黒龍でしたが、次に驚異とされているのがヴリトラという魔物です。」


「わぁ、凄い強そうですね!もしかして、このヴリトラが黒龍を倒したとかですか?」


「それは分かりませんが……リュカ君?どうしましたか?」


「こ、れ……は……」



 そのヴリトラという魔物の絵を見た瞬間、私の脳裏にはある映像が流れてきた。


 それは黒龍である父をやっつけたあの魔物の姿……それは蛇のような竜のような姿で、お父さんはそのするどい爪で何度も何度も攻撃を受けて、強靭な鱗がボロボロになって、何処までも高く遠く羽ばたく翼がズタズタに引き裂かれて……

 それを私は何も出来なくて、ただ震えて見ていただけだった……


 あの時既にお父さんは息絶えていた。けれど、そんな状態のお父さんにあれだけ攻撃をしたあの魔物は、私は許すことが出来ない……!


 気づくとボロボロ涙が溢れていて、涙だけじゃなくて魔力も溢れだしそうなくらい身体中を駆け巡って……


 腕がゾワゾワする感覚がして、魔力が腕に表れ出てるような感じがして、どうなってるんだろう?!って思って見てみると、私の腕が黒い鱗に覆われはじめていた。

 

 え……!なんで?!私、龍になろう思っていないのに、なんで?!どうしよう!止まらない!止められない……!エリアスっ!こんなところで龍になっちゃったら、私はもうリオと友達でいられなくなる……!



「リュカ?どうしたの?!」


「リュカ君?!」



 私を呼ぶ声を聞かないようにして、すぐにその場を飛び出した。部屋を出ると、そこにはマドリーネが昼食の準備をしていた。


 マドリーネにも見られたくない!どうしよう!何処に行ったら……


 どうしたらいいの?!エリアス!助けて!エリアスっ!!


 知らずに出来ていた歪みに入っていたようで、目の前の景色がグニャリと変わったって思ったら、私の前にはエリアスの姿が現れた。

 

 ううん、そうじゃない。

 私がエリアスの目の前に突然現れたんだ。


 エリアスの後ろに兵達がいっぱいいて、皆が私を見て驚いている。もちろん、エリアスも驚いた顔をして私を見ている。



「なんだ?!……リュカ……なのか?」


「……エリアス……私……」



 涙がボロボロ流れて、ゆっくりとエリアスに近づいたその時



「うわぁぁぁっ!!魔物だぁっ!!」


「なんでいきなりこんな所にっ!!」


「突然現れたぞ!攻撃体制に入れっ!」



 兵達は剣を抜き、今にも斬りかからんばかりに私を見る。魔法が使えるものは後ろで詠唱を始める。


 違う、私、リュカだよ……!


 人間なんだよ!



「止めろ!攻撃すんじゃねぇ!」



 エリアスが兵達の方へ向いてそう言った途端、兵達の動きはピタリと止まってそのまま固まったように動かなくなった。

 

 エリアスが私に触れてすぐに空間が歪み出す。そこは朝来たばかりの、ニレの木がある場所だった。



「リュカ、どうしたんだ?!何があった?!」


「エリアスっ!……私っ!私!!」


「大丈夫だ。落ち着け?な?今は俺しかいないから。大丈夫だから。な?」


「エリアスが……小さく見えるよ……」


「リュカはすげぇ大きく見えるぞ?」


「戻りたい……人間に戻りたいよ……」


「じゃあ、強くそう思ってみろ?焦らずに、心を落ち着かせて。ゆっくりでいいから。な?」


「うん……」



 ポロポロ涙が絶えず溢れ出るけれど、エリアスが言うとおりに目を閉じて、何度も人間だった時の自分の姿を思い出して、身体中を駆け巡っている魔力を落ち着かせるように、大きくゆっくりと何度も息を吸って気持ちを鎮める。


 ようやく心が落ち着いてきた時、顔に何かが当たった感じがした。目を開けると、目の前にはエリアスの胸があって、私はエリアスに抱き寄せられていた。


 良かった……元に戻れた……!


 涙がまたポロポロ流れて止まらなくて、そんな私をエリアスは優しく背中を撫でてくれている。

 

 これから私、どうなるの……?


 またいつ龍になっちゃうか分からない……


 どうしよう エリアス


 私、自分が……自分の力が怖いよ……


 怖い……

 


 

 


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