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黒龍の娘  作者: レクフル


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69/116

その責任


 帝城の自室に戻ってきた。


 リュカをソファーに下ろそうとするけど、俺にしがみついて離れない。ずっと胸に顔を埋めたままだ。

 仕方なくリュカを抱いたままソファーに座る。膝上にリュカを乗せた感じで、優しく頭を撫で続ける。



「リュカ……もう今は誰もいない。俺とリュカの二人だけだから。帝城の部屋に帰って来たから安心しろ?」


「うん……」



 そう言うとやっとリュカは顔を上げて俺を見た。その瞳からは涙が溢れ出ていて、俺の胸元はぐっしょり濡れていた。



「すっげぇ泣いてるじゃねぇか……」


「だって……エリアスがーー」


「あ、うん、分かったから、もう泣くな?ほら、鼻水もすげぇから。ハハ……どっからそんなに水分出てくるんだ?」


「エリアスも水いっぱい出すくせにーー」


「あぁ……水魔法な。そうだな、どっから出てんのかな。あれは魔力が変換していってるんだろうけどな。」



 そばにあった布でリュカの顔を拭う。それでもあとからあとから、リュカの目からはボロボロと涙が溢れてくる。なんか、こうやって泣いてる顔も可愛く思えちまうな。

 

 しかし、さっきリュカは闇の精霊の力をその身に宿していた。リュカの中には今、生死を司る精霊セームルグと闇の精霊テネブレがいる。けれどまだその力を思うように使えていない筈だ。それはまだリュカの力が覚醒していないからで、もし力が覚醒したなら、呼び出さずともその大きな力は自然と使えるようになる。


 まぁ、セームルグはともかく、テネブレがその力を覚醒させれば、リュカは常にあんな感じで辺りに魅了を振り撒き、大きな力を持て余す事になるんだろう。それには光魔法の力で抑制する必要がある。そうやって常に自身の力を抑える必要があり、それには大変な労力と魔力が必要となる筈だ。


 けれど、リュカの体の事を分かっているテネブレであれば、そこは上手く調整してくれそうな気もする。とは言え、これは精霊に丸投げ出来ない状況であることに代わりはないんだけどな。



「エリアス、ごめんなさい……私、勝手にどこにも行かないって言ったのに……」


「そうだ、どうやってあの場所まで行けたんだ?あそこはリュカの知らない場所だったんじゃないのか?」


「あそこが何処なのかは分からない……あのね、私エリアスの事を考えてたの。早く帰ってきて欲しいなって。そうしたら突然目の前が歪みだして……」


「思った人の元まで行けるのか?!それはディルクも出来なかった事だぞ?!ディルクよりも適正があったって事なのか?!」


「それは分からないけど……」


「そうか……それは俺も気づかなかった。俺の考えが足らなかった。その可能性も踏まえて、もっと俺がしっかりリュカにこの力の事を伝えていれば……」


「ううん!違う!私が悪いんだよ!だって、歪みを見ても、私がそこから抜けて行かなければ良かったんだから!」


「目の前がそうなったらリュカならそうしてしまうよな。好奇心旺盛だもんな。だからこんな事も考えておかなくちゃいけなかったんだ。考えが甘かった。すまなかった。」


「違うよ……!私が悪いのに謝らないで……!」


「あぁ、分かったから!もう泣くな?」


「だってぇー……」


「俺が暴走しちまって、リュカはそれを止めてくれたろ?その時にテネブレに力を借りたじゃねぇか。それも、本当ならしない方が良かったのかも知んねぇんだ。俺はリュカにすげぇ負担をかけたんだ。だから……」


「でもその原因は私があの場所へ行ったからで……!」


「分かった、もう止めよう。お互い悪いって事で、これ以上自分を責め続けても、な?とにかく、俺はリュカが無事でいてくれて良かったと思ってる。今日はもう遅いからな。そろそろ寝ないとダメだろ?」


「そう、だけど……」


「風呂に入る時間はねぇから、浄化すっから一緒に寝よう。な?」


「うん……」


 

 光魔法で体を浄化して、リュカとベッドに入る。胸に抱き寄せると、リュカはまたしがみつくようにして身を寄せてくる。俺のあの姿を見て、リュカはすっげぇ戸惑ったみたいだった。

 静かに寝息を立てだしたリュカの抱きしめて、グッスリ眠ったのを確認してから、ゆっくりベッドから出て寝室を後にする。


 それからすぐにゾランの部屋に移動すると、そこには既にゾランがいた。俺が来るのを待っていたようだ。



「もう戻って来ていたんだな。」


「えぇ。僕は指示をするだけですからね。後は兵達が動いてくれますから。」


「それでも大変だったんじゃねぇか?あの場を収めるのは。」


「まぁ、それが僕の仕事ですから。リュカは眠りましたか?」


「あぁ。その、今日の事は……その、すまなかった。」


「はい。そうですね。」


「怒ってる……よな?」


「怒ってると言うよりは……心配です。こんな事が次もあったらどうしようかと……貴方はオルギアン帝国が誇る英雄なんです。我が国の戦力の象徴として、その存在を不動のモノとしてきたんです。それを揺るがす事は、例えそれが本人であろうと僕は許せません。」


「そうだよな……」


「リュカにされた事を思えば頭に血が上るのは分かります。同じことが自分に降りかかれば、僕だって我を失うかも知れません。ですが、貴方には力がある。どうとでも出来てしまう程の、とてつもなく大きな能力がある。それをご自分の感情だけで動かすなんて、言語道断です!」


「そうだな……」


「大きな力には責任が伴います!だから僕は貴族になり権力を持っても、自分の感情だけで物事を決めないように努力をしています!それは僕の敬愛するリドディルク様が一番嫌う事だったからです!」


「あぁ、そうだったな……」


「人の上に立つという事はそういう事ですよね?!分かっている筈ですよ?!エリアスさん程の方であれば!」


「あぁ、分かっている。すまなかった。俺が悪かった。だから……泣くなよ……」

 

「悔しいんです!貴方は誰からも尊敬され、敬われ、憧れられる存在である筈なのに!貴方に恐怖する者達がいる事が僕には許せないんです!貴方はそんなふうに恐れられる存在であってはいけないんです!誰よりも優しくて、誰よりも強くって涙脆くって!そんな貴方を恐怖に感じるなんて事、僕が嫌なんです!絶対に嫌なんです!」


「ゾラン……」


「……すみません、僕も感情的になってしまいました……ですが、こうして貴方に意見を言えるのは、身内以外では僕だけだと思うので言わせて頂きました。……我が国が誇るSランク冒険者のリーダーにこんな風に言ってしまい、申し訳ありませんでした……!」



 そう言って頭を下げるゾランを見て、俺はすっげぇ申し訳ない気持ちになった……


 一番にこの国を思い、人々の生活を思い、常に最善を尽くし実行し、その為の労力は厭わない。それでいてゾランは人情的で冷酷にはなれない。誰よりも器用で多彩で、誰よりも真っ直ぐで不器用なこの男を、俺は守っていかなきゃいけないのに。それはこの国を守る、と言う事と等しいからだ。こんな風にこんな事で頭を下げさせちゃいけないんだ。


 そっと歩みより、頭を下げるゾランにハグをして「悪かった。すまなかった。」って何度も謝る。ゾランは下を向いてまだ止まらない涙を堪えていた。


 

「ゾラン様、お帰りになられてたん、です、ね……」


「え……」



 不意にやって来たミーシャが、俺たちを見てその場で固まってしまった。傍から見たら、俺がゾランを抱きしめて、ゾランは涙に濡れている、といった感じだ。



「あ、ミーシャ、これは……」


「ゾラン様と……エリアスさんが……」


「違うんだ、ミーシャ!僕は……!」


「あ、その、すみません、私そういう世界を知らなくて……」


「あ、いや、これはその、俺がヤラカシてしまって、それで怒られてたんだ。ゾランに。」


「え?何をされたんですか……?ゾラン様に何をしてしまったんですか……?」


「そうじゃなくて、エリアスさんが暴走してしまったから!僕じゃないとエリアスさんを諌める事が出来ないと思ったから!」


「暴走したエリアスさんをゾラン様が諌めた……それがそうやって抱き合う事で……それは……え、それ以上の事ももしかして……」


「な、なにを考えてるんだ!ミーシャ!違うからね!」


「そうだ。俺はゾランが言って(・・・)くれねぇとダメなんだ。俺にはゾランが必要なんだ。」


「エリアスさんはゾラン様がいて(・・)くれないとダメなんですか……?必要なんですか……?」


「エリアスさん、なんかミーシャが変に勘ぐってます!僕を離して下さい!」


「あ、忘れてた。」


「エリアスさんが男の人も大丈夫だったなんて……そんな……」


「え?いや、それは違っ……」


「私っ!ちょっと頭を冷やしてきますっ!」


「あ、ミーシャっ!」



 凄い勢いでミーシャが部屋から出て行った。そう言えばミーシャはすぐにこうやって勘違いする子だった。ってか、俺は純粋に女しか無理なんだけど?


 俺に一礼して、ゾランは走ってミーシャを追いかけて行った。誤解が解けてくれたらいいんだけどな。


 とは言え、今日の事は完全に俺が悪い。こんな風に自分の意見を堂々と言ってくれる事が有難い。しかも、それは全部俺を思っての事だ。本当にゾランには頭が上がらねぇ。

 それに、ゾランが言った事は最もな事だ。この力を自分の感情のままに使ってしまったなら、俺の周りには誰もいなくなってしまうだろう。だからこの能力に飲まれちゃいけねぇんだ。分かってた筈なのにな……


 もっと自分の感情をコントロールしねぇとな。まだまだだよな、俺も。


 俺の為に泣いてくれる友の為にも、俺は自分を律する術を持たないといけねぇよな。






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