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黒龍の娘  作者: レクフル


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68/116

闇の精霊


 いよいよだ。


 エリアスさんからピンクの石で、帝城にいる僕に連絡が入った。


 すぐに兵達を簡易転送陣から現場である、シアレパス国カータレット侯爵領、ルテフィエの街へ送り出す。


 今回はアジトを撲滅するのではなく、取引の現場を抑え、裏組織とこの取引に関わっている者達をまとめて摘発し捕らえるのが目的だ。

 もちろん拐われた人達の救出も大事で、誰一人亡くす事なく無事に助け出す事を前提としている。

 

 今回はエリアスさんがいてくれるから、その辺は大丈夫だろう。


 フレースヴェルグと言う魔物に襲われてからというもの、エリアスさんの能力は格段に向上した。元よりエリアスさんの能力は素晴らしく、僕が知る限り現在この人に勝てる人物等いないだろうという程だ。


 しかし、心配の種はある。


 それはエリアスさんの愛する者に危害が与えられた時だ。


 エリアスさんは愛するアシュリーさんを失ってからずっと一人で、日常的に孤児院で子供達には囲まれているんだろうけど、エリアスさんの心を満たす人はこれまでアシュリーさん以外にいなかった。

 そのエリアスさんに子供がいたことが分かり、やっとの思いで一緒に過ごせるようになったリュカの事を、今は誰よりも何よりも大切にしている。


 その存在を奪おうものなら、途端にエリアスさんは冷静ではいられなくなる。あんな凄い力を持っているのに、その力を制御する事なく使われでもしたら、それはもう大惨事になってしまうのではないか……?

 そんな不安はあったけれど、前に話した時にエリアスさんは感情のままに行動した事を反省してくれた。だからきっともう大丈夫だ。今日はリュカもミーシャと一緒にいてるし、あとはエリアスさんに任せていたら問題なかった。


 筈だった。



「ゾラン様っ!大変です!エリアス様がっ!」


「なんだ?!エリアスさんがどうした?!」


「何故かいきなり、エリアスさんのお嬢様が現れまして!戦闘真っ只中のその場で突然現れたので、お嬢様は負傷されました!」


「なに?!それでリュカは?!」


「すぐにエリアス様が回復魔法で治癒させられましたのでお嬢様は無事でしたが、その事にお怒りになったエリアス様が歯止めが効かずに暴走されていらっしゃいます!」


「分かった!すぐに向かう!」


「お願い致しますっ!」



 簡易転送陣から報告にきた兵士は、慌てた感じで現状を報告し、急いでまた現場へと戻って行った。僕もすぐに転送陣で現場まで向かう。

 しかし、何故リュカがそんな所に?!今日はリオと一緒に勉強していた筈なのに!

 

 いや、そんな事は今はどうでもいい。とにかく現場に行ってエリアスさんを止めないと……!


 転送陣から抜け出ると、そこは至る所から火の手が上がっていた。裏組織の組員と思われる者は逃げ出すことも出来ない程に怯えていて、勿論捕らえられていた人達も何処に逃げ出せば良いのか分からずに、ただその場で身を守る様に集まって震えていた。

 部下の兵達で水魔法が使えるものは消火に奔走していたが、炎の勢いが強すぎて、全く効果が得られない状態だった。それでも何もしないよりは良いとばかりに、その魔力が尽きそうになるまで、兵達はその炎に抗っていた。


 エリアスさんの姿を探す。けれどそこにいたのは、いつもの姿ではなかった。


 真っ黒な瞳と髪は真っ赤に変わっていて、身に纏っている胸当て等の装備類も全てが赤く染まっていた。


 なぜそうなっているのか、なにが起こったのかは分からないけれど、とにかく何とか冷静になってもらわないと!

 同じようにエリアスさんを見るリュカが兵達に下がるように言われて、でもどうにかしたいと思っているのか、エリアスさんの側に行こうとして止められている状態でいた。



「リュカっ!」


「あ、ゾランっ!エリアスがっ!」


「何故君がこんなところにいるんだ?!」


「精霊のディナと契約してっ!エリアスの事考えてたら何故かここに来ちゃっててっ!」


「ディナ……リドディルク様についていた精霊か?!それがリュカに……いや、今はそんな事より、エリアスさんのあの状態を止めないと、ここにいる人達に被害が及ぶ!いや、ここだけじゃなく、街中に飛び火するかも知れないっ!」


「そんなの!絶対ダメだよ!」


「もちろんだ!リュカ、エリアスさんに止めるように言ってくれないか?!」


「うん……!」



 リュカは少しだけエリアスさんに近づいて、ありったけの声を出してエリアスさんに訴えかける。



「エリアスっ!もうやめてっ!エリアスっ!!」


「エリアスさん!落ち着いてください!お願いします!」



 僕もエリアスさんに声を張り上げて何度も訴えるように言うけれど、その声はエリアスさんには届かない。


 エリアスさんは男二人を甚振(いたぶ)るようにして、生かさず殺さずのような状態を繰り返す。その惨い状態に、僕たち以外は誰も何も言い出す事が出来なくて、ただ遠巻きにその様子を見ることしか出来なかったのだ。


 

「どうしようっ!どうしたらいいの?!エリアスがあんな風になっちゃったのは、全部私が悪いんだよ!だから私が止めないといけないの!」


「でも……どうすれば……!あ……!」


「なに?!何か思い付いたの?!」


「いや、それがどうなるかは分からないけど、リュカには闇の精霊がついているでしょう?!それはとても強力な精霊だと聞いているんだ!その精霊に力を貸して貰ってはどうだろうか?!」


「闇の精霊?!……えっと、名前は……!」


「テネブレ……!」



 僕がそう言うと、リュカの体から黒い光がいくつも出てきて、それが一つとなって闇の精霊テネブレが姿を現した。

 その異様な雰囲気に身震いしてしまう程、威圧感が全身を襲う……!



「脆弱な人間が我を呼び出すとは、何事ぞ?!事と次第によっては許さぬぞ?!」


「待って!貴方がテネブレなの?!」


「リュカ……幼きお前はまだ我を操れぬ。まだ覚醒せぬ体に負荷はかけてはその体が持たぬぞ?」


「でも!私に力を貸してほしいの!エリアスを止めたいのっ!」


「奴は……炎の化身にでもなったか……?あのインフェルノが良いように飼い慣らされておるではないか。」


「私のせいなの!このままじゃ被害がもっと広くなっていく……ううん、そんな事より!エリアスを元に戻したいっ!だからお願いっ!テネブレっ!」


「……それがお前の望みなのだな?ならばそれを叶えよう。我はお前を愛する精霊だ。その望みは我の望みとなろう。」



 テネブレがそう言うと、リュカの体に重なるように入っていく。リュカの周りに影の様なモノが纏わり付くようにして身体中を這い、その影が消えて無くなると、そこには成長したリュカの姿があった。


 その姿はまるで、アシュリーさんのようだった。


 僕は驚いて何も言えず、ただその姿を見つめ続けるしかできなかった。そんな僕をリュカはチラリと見て、クスリと微笑む。

 一瞬にして心を鷲掴みにされたようになって、僕はリュカから目が離せなくなった。


 生前リドディルク様が、闇の精霊を宿し、その力を制御出来ないアシュリーさんの事を言っていた。

「魅了が効かない俺でもそれに飲まれてしまいそうになる程、闇の精霊を宿したアシュリーは魅力的で妖艶で、それに抗う事が難しくなる」と……

 なんの耐性もない僕が、それに抗うなんて出来る訳もなく……けれど違う、これは幼いリュカなんだ、だからしっかりしろ!って、見続けたいと願う自分の意思を強引にねじ曲げるようにして、何とかリュカから目をそらす。


 エリアスさんに魅了は効かない。けれどあの姿を見たらきっと……!


 思ったとおり、エリアスさんはアシュリーさんが現れたと思ったようで、一気に冷静さを取り戻した。凄い。やっぱりアシュリーさんには敵わない……!


 リュカをアシュリーさんと思ったエリアスさんが落ち着きを取り戻し、辺りを燃やし尽くしていた炎は全て、エリアスさんが差し出した手のひらの中へと収まっていく。

 それからエリアスさんは回復魔法を広範囲に放ち、怪我人も燃えて朽ちた建物や木々なんかも、全てを元通りにしていった。


 けれど、人々の感情は元通りにはならなかった。


 皆がエリアスさんを見る目は、恐怖に満ちていた。


 その現状を感じたのか、エリアスさんは元に戻ったリュカを抱き上げて、辺りを見渡しながらその場で佇んでいた。きっと、自分でもどうして良いか分からずに、そうする事しか出来なかったんだろう。



「エリアスさん、後は僕たちがなんとかします。大丈夫です。ここまでエリアスさんがして下さったんです。ですからもう充分なので、エリアスさんはリュカと先に帝城へ戻って下さい。」


「分かった。……すまなかったな……」


「とにかく体を休めてください。リュカも、もう寝る時間ですから。」


「そう、だな……」



 リュカと一緒に、エリアスさんはその場から姿を消した。それと同時に、安堵の声があちこちで聞こえてくる。皆、エリアスさんが怖くて何も言えずにいたんだ。あんな状態の姿を見てしまったのだから、それは仕方がないかも知れない。

 けれど、ここまで出来たのは全てエリアスさんのお陰だ。

 裏組織の組員やゲルヴァイン王国の使者、それに捕らえられていた人達がその様になるのは仕方がないと思う。けれど、自国の兵達でさえそんな風にエリアスさんを見る事に、僕は苛立ちを隠せなかった。


 だけど今は言わずに、すぐに事後処理をしていく事にする。

 この騒ぎを遠巻きに見ている住人達もいて、一刻も早くこれを終息させなければいけないからだ。


 称える事はあれど、奇異な目で見られるなんてあってはならない事だ。


 エリアスさんの名誉は僕が必ず守る。


 それはこの現場にエリアスさんを派遣した僕の責任なんだ。




 


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