東門
ギルド長から情報を得る。やっぱり、コイツは何でも知ってるんだな。さっき来ていた客は、ゲルヴァイン王国の使者で、「今日入荷する奴隷を受け取りに来た」と、ギルド長が言っていた。
ってか、入荷するって言い方!人の事を物みてぇに言うんじゃねぇよ!それに、連れて来られる人達は奴隷じゃねぇんだぞ?!
そんな言葉一つに苛立ちを覚える。人の事を何だと思ってるんだ!
けどそんな気持ちを隠して、俺もそれが当然の事の様に振るまう。マジで精神的にヤラれるな。落ち着け、俺!
そうやって得た情報は、取引場所が何処かと言うことだ。
ルテフィエの街の東側にある東門。
そこは普段使われる事がないらしいが、有事の際に使われるんだそうだ。普段は人がほぼ寄り付かない場所で、一般の人が使うとすれば葬儀の時のみで、供物とする遺体を運び出すのがこの東側にある東門だった。
東門からは駐屯所の建物へと続いている。こんな小さな街だが駐屯所がちゃんとあって、そこに兵達が多く常駐している。いや、こんな小さな街なのに、かなり多くの兵達が意味もなく常駐しているってのがおかしいだろ?
ゾランが調査したところによると、この街では喧嘩、強盗や強奪、殺傷事件は殆ど起きていないらしく、とても穏やかな街らしい。なのに、こんなに兵達が駐屯している事がおかしい。これはやっぱり、街ぐるみ、と言うか領ぐるみでこの犯罪を助成していたって事になる。
朝からこの街を見て回ってたけど、特産物が有るわけでもなく、街が賑わっているわけでもないが、そこに住む人達は皆が比較的裕福な感じだ。それは葬儀屋だった男もそうだが、各家庭に一人はもれなく奴隷がいる程だ。普通はある程度裕福な家庭じゃねぇと奴隷なんて囲えねぇから、この街が他と違うって事はこの事一つ取っても分かる。
無自覚ながらも住人が犯罪に加担している街だから、領主が多目に見てるのかも知んねぇな。
駐屯所へ行って、そこにいる兵達と話しをすると、やっぱりここが取引場所となる事が分かった。建物の横に馬舎があり、訓練ができるような広さの広場もある。けど、それより気になったのは駐屯所とは別にある、もう一つの建物だ。ここはもしかして……
「あそこに転送陣があるのか……?」
「おいエリアス、あまり大きな声で言うな。住人さえも知らない事だぞ?」
「あ、あぁ、そうだな。すまねぇ。」
「護衛としてついて貰った様だが、なぜギルド長は今回に限ってエリアスを寄越したんだ……?」
「それだけ大事な取引だからじゃねぇか?そんな邪険に扱うなよ!俺とお前の仲じゃねぇか!」
「まぁ……そうだな。」
「で、ここの転送陣は何処と繋がってるんだったっけ?」
「ここはグリオルド国とだ。なんだ、忘れたのか?」
「あ、そういやそうだったな。あまりここには来ねぇからな。そうか、グリオルド国の……どの辺だったかな……?」
「北側だ。ランズベリー侯爵領だろう?案外忘れっぽいんだな。」
「ハハ、そうなんだ。俺、なんでもすぐに忘れちまうんだよ。そうだそうだ。ランズベリー侯爵のな。北側のな。」
「あそこはオルギアン帝国と縁があるらしいんだが、何やら恨みってのがあるらしいぜ?だからこうやってオルギアン帝国の独自の技術を漏洩させたんだろうよ。」
「恨み……」
「まぁ、それでこうやって稼げるんだから、こっちは万々歳だけどな!」
「そう、だな……」
ピンクの石を握って、すぐにゾランに連絡する。こうやって伝えておけば、あとはゾランが即座に動いてくれるからな。
しかし、そうか。そうだったんだな。オルギアン帝国に恨みを持つ者の仕業か。けど、転送陣の技術を知るってのは、かなり高位の貴族になる筈だ。ランズベリー侯爵と繋がりのある貴族……まぁ、それは今俺が考えなくても良いことだ。
その転送陣でグリオルド国からここまでやって来るんだな。で、東門を抜けて、そこから北側にあるゲルヴァイン王国に奴隷を輸出するのか?もしくは他にも転送陣があるかも知んねぇな。管理されてない転送陣があるだけで、こんだけ犯罪は蔓延っていくんだな。盗品なんかも運び出しやすかったんだろう。
今日は現場を押さえる必要があるからな。領主に仕える兵達が犯罪者と取引してるとなれば一大事だ。それに今日は副リーダーに重要な話があるって言わせておいたから、いつもはいない兵隊長もやって来ている。これで現行犯で捕らえられるって訳だな。
考えられるのは、俺達が乗り込んだ時に兵達が「自分達は裏組織の連中を討伐しに来た」と、手のひらを返す事だ。そう言われても転送陣があるのは間違いないし、俺が証言させるようにしたら問題はないけどな。あらゆる可能性を考えて潰していかなきゃな。
これを取っ掛かりにして今までの事も追求し、捕らえられた人達を解放するように動いていかなきゃなんねぇ。理不尽に奴隷にされた人達をそのままにはしておく事はできないからな。
兵達は特に緊張するでもなく、いつもの事をこなしてる感じでいる。慣れてんだろうな。
そうこうしてると陽が暮れてきた。さっきギルド長の客として来ていたゲルヴァイン王国の奴等もギルド長と共にやって来た。
俺はさっき、こっそりオルギアン帝国へ戻って、数人兵達を連れて戻って来ていた。兵達は駐屯所の裏手にある茂みに簡易転送陣を設置した。その後兵達は転送陣で一旦オルギアン帝国へ戻り、ゾラン経由で俺からの連絡を待っている。
いよいよだ。
失敗はしないし、させねぇ。
けど油断は禁物だ。
気を引き締めて、俺はその時を待った。




