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黒龍の娘  作者: レクフル


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反省


 エリアスが帰ってきた!元気な様子で怪我とかも無いみたいで、その事に安心した。良かった!


 炊き出しをエリアスと一緒に食べる。昼食を摂ってなかったから凄くお腹が空いてたんだ。外で食べるのやっぱり美味しいし、エリアスと一緒なのも嬉しい。無事に帰って来れて良かった。


 けど、さっきエリアスが被害者の記憶を消している時、討伐に行ってた兵達がエリアスを見て怖がっていた。感情を手繰ると、エリアスの戦い方とか、悪い男達へした事に驚愕していたみたいだった。


 エリアスは私たちを助けてくれたんだよ?悪い奴等を成敗してくれたんだよ?なのになんで怖がるの?


 凄くエリアスを怖がってる人の元へ行く。その兵士は私を見て、「どうしたんだい?」って優しく聞いてくれる。不安そうな顔をして両手を広げると、その兵士は微笑んで私をギュッて抱きしめてくれた。その時に感情を深く辿っていく。


 エリアスが男達と対峙している。攻撃を受けるけれど、エリアスは難なく捌いていく。強い……エリアスは凄く強い。前よりももっと強くなってる気がする。エリアスが攻撃すると、すぐに男達は降参するように後退る。けど、エリアスはそれを許さない。相手の目をしっかり見て、そうしたら男は悲鳴を上げて恐怖に顔を歪ませて逃げようとする。けれど、どんなに怯えていようとも、泣いて助けて欲しいと懇願しても、エリアスは男達を許さなかった。その様子を兵達は何も言えずにただ見ていることしか出来なかったみたい……


 そんな映像が頭に流れ込んできて、私は暫く何も言えずにその場で立ち竦んでしまった……

 兵士の男は、微笑んで私の頭をナデナデしてから去って行った。


 エリアスは優しい。私には凄く優しい。それに心配性だ。だけどあの記憶の中のエリアスは、私の知っているエリアスじゃない。あんなエリアスは知らない。いつもこうなの?どうなんだろう?


 私と炊き出しを食べてる時のエリアスは、いつもと一緒で優しくて、私と目が合うと微笑んでくれる。何も変わらない。それは私の知ってるエリアスだった。


 ゾランがエリアスに話しがあるって言うから、ミーシャと一緒に帝城へ戻る。気になるけど、今回の事で色々話があるんだろうな。それは仕事だから仕方がない。そばに居たかったけどワガママ言っちゃダメだ。


 ミーシャの部屋に行くとリオが私を心配していたようで、すぐに駆け付けてきた。



「リュカ!良かった!心配してたんだよ!?」


「うん、ありがとう。もう大丈夫だよ。」


「凄いね、リュカは!僕なら怖くてすぐに助けて欲しいって思っちゃうよ!」


「私も怖かったよ。けど、私よりも小さな子がいっぱいいたんだよ。だから頑張らなくちゃって……」


「すごいよ!尊敬する!僕の自慢の友達だ!」


「そんなこと……エリアスにもそう言って貰えたんだけど……」


「そりゃそうさ!ねぇ、どんな事があったの?リュカの武勇伝を聞かせてよ!」


「え……それは……」


「リオ、リュカちゃんは疲れてるのよ?無理を言ってはいけないわ。」


「あ、そうですね……ごめん、リュカ……」


「ううん……」



 どんな事があったのか……それをリオに言うことなんて出来ないよ……

 人が動物のように扱われていて、平気で殴る蹴るをしている男達がいて、誰もそれを助ける事が出来なくて、なんだったらそれが自分に降りかからない事に安堵してたりするんだよ。

 助けたいのに助けられない。怖くて足が動かない。逃げ出したくて仕方がなくて、自分でここまで来たのにその事を後悔して、ずっとエリアスの助けを待つことしか出来なかったんだよ。


 何も出来なかった自分が情けなくて、私はエリアスが来てくれるって分かってたからまだ心に余裕があった筈で、誰の助けもないって思っている人達は恐怖と絶望しか無かった筈で……


 あの時の情景が頭に浮かんでくると、またその感情に支配されそうになってしまう……

 私は何も凄くない。だって何も出来なかったんだもん……

 

 気づくとポロポロ涙が溢れ落ちていた。ゾランもエリアスもリオも私を誉めてくれたけど、思い出すと怖くて、あの時もただその恐怖に耐える事しか出来なかったんだもん……



「リュカちゃん!ごめんなさいね!怖い事を思い出しちゃったのね?!」


「ごめん、リュカ!僕が軽率だった!」


「ううん……」


「今日はもうゆっくりしましょうね?」


「うん……」



 ミーシャとリオが私を優しく抱き包んでくれる。泣いてもどうにもならない。分かっているのに涙が止まらない。泣いちゃダメだ。泣いたらミーシャもリオも心配する。けれどやっぱり涙は止まらなかった。


 扉がノックされて、エリアスが入ってくる。泣いてる私を見て、すぐに駆け寄って来てくれた。



「あの、僕が余計なこと聞いちゃって、だからリュカが……」


「ごめんなさい、私の配慮が足らなかったんです!」


「ミーシャもリオも気にしないで良いから。リュカも気にして欲しくねぇって思ってる筈だから。な?」


「でも……」


「大丈夫だって。あとは俺が引き受ける。すまなかったな。」



 エリアスに抱き上げられて、空間移動でエリアスの部屋まで帰ってきた。ソファーに腰かけて私を膝の上に乗せると、まだ流れ落ちる涙を優しく拭ってくれる。やっぱりエリアスのそばが一番安心できる。気持ちが落ち着いてくる……



「怖いの、思い出しちゃったか?」


「うん……」


「あんな所を見たらな……リュカには刺激が強かっただろうな。」


「なんであんな事をするの?泣いて止めてって言ってたのに、男達は平気で女の人に酷い事をするんだよ……!」


「何でだろうな。自分が強いって思いたいんだろうな。そういう奴は本当は弱いんだ。だから自分より弱い者を見て優越感に浸りたいんだよ。」


「同じ人間なのに!魔物はそんな事はしない!同じ種族であれば雌を奪い合う事はあっても、嫌がってるのにあんなふうに(なぶ)ったりしない!」


「そう、だな。人間は知能がある分、酷い事も出来るかも知んねぇな。」


「エリアスは?」


「え?」


「エリアスはどうしてあの男達に恐怖を与えたの?」


「なんで知って……」


「許せなかったの?」


「そう、だったんだろうな……俺はあの時、許せなかったんだな。思考を手繰るとな?今までやって来た悪事や悪い考えが分かったんだよ。リュカにした事も許せなかったけど、ソイツの犠牲になった人達が多くてな。我慢出来なかった。」


「エリアス……」


「さっきゾランに言われたよ。俺が変わってしまったかも知れないって。魔物の力を得てから能力も上がって、だから俺はその力に飲まれてしまうんじゃないかって。」


「違うよ!エリアスは変わってなんかないよ!」


「リュカ?」


「感情を読めるようになったから、今まで感じなかった事が分かるようになったから許せなかったんでしょ?!悲しい思いをした人がいっぱいいたの、見えたからでしょ?!」


「そうだけど……」


「その人達の悲痛な思いを、エリアスが受け止めて実行しちゃっただけなんだよ!だからエリアスは何も変わってない!エリアスは悪くないし、怖くなんてない!」


「リュカ……」

 

 

 エリアスがギュッって私を抱きしめる。エリアスも……泣いてるの?



「俺がリュカに慰められてるよな……俺、リュカに怒って貰おうと思ってたのに。」


「なんで?なんで私が怒るの?」


「いや、アイツ等に恐怖を与えたりしたの、やり過ぎだったかなって思ってな。俺が手を下す必要は無かったんだよ。なのに我慢出来なくてそうしてしまったからな。」


「そうかも知れないけど……じゃあ、エリアスがこの事を気にするなら私が怒る。だって、してしまった事を今さら言っても仕方ないでしょ?」


「ハハハ、そうだな!反省するくらいなら最初からすんなって事だよな!」


「うん!でも、そうやって反省してるところとか、エリアスらしいって思う。」


「そうか?」


「うん。なんかそんな感じ。」


「分かんねぇけど、ま、いっか。じゃあ……怒ってくれ!」


「ふふ……えっと……悩むくらいなら最初からしちゃダメでしょー!」



 そう言ってエリアスの頭にチョップした。エリアスは「いてっ!」って言いながら、私の顔を見て笑ってくれる。二人で見つめ合って、ふふふって笑った。

 さっきまで感じてた恐い思いとかが無くなっていって、私はエリアスと笑い合う事ができた。こうやって出来るって良いな。気持ちを共有し合うのって、大切なことなんだろうな。そんなふうに感じる。


 

「あ!そうだ!」


「ん?どうした?」


「あ、ううん、えっと……何でもない。」


「なんだそれ?」



 そうだった。今日はエリアスの全快祝いをする予定だったんだ。なのに、こんな事があったから出来なくなっちゃった。


 明日は必ず全快祝いをしよう。ミーシャとリオにも手伝って貰おう。マドリーネも協力してくれるし、楽しくお祝い出来るようにしなくっちゃ!

 少し落ち込んでいるエリアスに元気になって貰おう。うん、そうしたら私ももっと元気になれる筈だもん!

 

 明日はみんなで楽しくしよう。


 そうしよう。

 


 

 

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