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黒龍の娘  作者: レクフル


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怒られる


 倒した奴等を兵達に任せて、俺は先に帝城に戻ることにした。


 空間移動でリュカの元へやって来ると、現れた俺を見てリュカは嬉しそうな顔をして、それからすぐに目に涙をいっぱいためて俺の所まで走ってくる。

 両手を広げてリュカを迎えると、リュカも両手を広げて勢いよく俺の胸に飛び込んできた。


 やべぇ……可愛い過ぎる……!



「エリアス!エリアスっ!こ、怖かったぁーっ!!」


「リュカ、よく我慢したな。凄いぞ。リュカは俺の自慢の娘だ。」


「ずっと!ずっとエリアスが来てくれるの、待ってた!私、頑張ったの!」


「うん。すげぇ頑張ったな。よくやった。」


「うん……!」


 

 リュカは泣きながら、思いの丈を俺にぶつけてくる。優しく何度も頭を撫でてリュカを抱き上げる。そのまま待機していたゾランの元まで行って、ひとまず報告をする。



「エリアスさん、お疲れ様です。ありがとうございました。」


「いや、それは俺が言うことだ。すぐに兵達を動かしてくれてありがとな。」


「いえ。裏組織を壊滅するのは願ってもないことですからね。リュカの勇気にも感謝します。」


「そうだな。倒そうと思えばリュカなら倒せたんだ。けれど、リュカはよっぽどの事がねぇかぎり人に危害を加えねぇ。すげぇ我慢してくれた。」


「そうですね。リュカは凄いです。ですが、エリアスさんも助けに行きたい気持ちを抑えて、よく耐えてくれましたね。ありがとうございます。」


「まぁ、それが一番精神的にキツかったな。で、現状はどんな感じだ?」


「はい。子供は全員で三十八人。女性は十五人でした。かなり長くアジトに捕らえられていた者もいたようですね。怪我等は回復させましたが、精神を病んでしまった人も多いようです。女性の近くには基本的に女性を付けるようにしているのですが、それでも男の存在を近くに感じると体を震わせています。この事から、凄く酷い事をされたと予測できます。恐怖で口の聞けなくなった者も数人程おります。」


「そっか……じゃあ捕らえられていた間の記憶を消すか。それから思考を辿って出身地を探る。」


「お願いします。」



 リュカをゾランに託して子供達の元へ行く。恐怖で涙が止まらない子供の目をしっかり見て、優しく微笑む。感情を手繰っていき、捕らえられていた記憶のみを消していく。

 すると、さっきまで泣いていた子供が、何故ここに自分がいるのか分からない、と言った感じになって辺りをキョロキョロ見渡す。

 そばにいる兵に、子供の出身地を告げて引き渡す。それを繰り返していき、子供達から恐怖の記憶を消していった。


 次に女性のいる場所まで行く。


 俺が近づくと途端に体を強張らせ、震えて悲鳴を上げる。恐怖からか、自分の身を守るようにその場に(うずくま)る。記憶を消すには目をしっかり見る必要があって、こうしてそれを遮断されてしまうと忘却の魔眼は使えねぇ。


 仕方なく右手の能力を解放させる。顔を上げるように言うと、難なく俺の方を見る。しっかり目を見て恐怖を手繰っていくと、その人が受けた恐怖の映像が頭に流れ込んでくる。その恐怖が強すぎて飲まれそうになっちまうのを何とか耐えて、その記憶を消していく。

 しかし、こんだけ酷い記憶を手繰っていくのは俺にも結構な負担が掛かる。とは言え、これを止める訳にはいかねぇ。この恐怖の記憶はこのままだと一生消える事はない。それはあまりにも酷な事だからな。


 記憶を消して出身地を手繰って、それから元に戻るように言うと、操られた人は元通りになっていく。そうやって女性達も、身も心も回復させていった。

 被害者に炊き出された食事を摂らせると、笑うようにもなった。良かった。これでひとまず安心だ。

 リュカにも炊き出しを渡して俺も一緒に食べる。温かい食べ物は心も温かくしてくれるからな。


 調べたところによると、アジトがあった場所はインタラス国だった。アイツ等が使っていた転送陣も見つけて、帝都にある建物の中にある転送陣も確認した。この転送陣はオルギアン帝国の専売特許だ。属国である国には決められた場所に設置してあり、容易く使用できないようにしている。だから、今回のように勝手に設置されて使われている、という事は大きな問題となる。

 どうやって設置出来たか、今後これを徹底的に調べねぇといけねぇな。


 リュカと医療テント前の簡易テーブルで炊き出しを食って、「こうして外で温かいのを食べるのも楽しいね」って言いながら、リュカが無事だったことに安堵していると、ゾランが俺の元へとやって来た。



「エリアスさん少しお話ししたいのですが……リュカ、ミーシャと部屋へ戻って貰って良いかな?」


「……うん……分かった。」


「すぐに戻るからな。」


「うん。じゃあ後でね。」



 名残惜しそうにしながらリュカはミーシャに連れられて帝城へと戻って行った。

 それを見送ってると、ゾランが今後について話してくる。



「今回の組織ですが、思ったより大きな組織みたいですね。」


「そうだな。けど、取引先とか他のアジトとかも大体分かってるから大丈夫だろ?」


「凄いですね……」


「え?何がだ?」


「先程報告を受けました。エリアスさんは圧勝だったと、戦闘の様子を見た者がそう言っていました。驚異的な強さだったと……」


「そうか?奪った光が能力アップに貢献してくれたみたいでな。ちょっと位の魔法攻撃なら簡単に()なせたな。まぁ、アイツ等そんなに強くなかったしな。」


「そんな筈はありませんよ……リーダーの男は指名手配されていて、何人もの冒険者がその男の犠牲になってるんです。ギルドの依頼を受けないエリアスさんはご存知無かったかも知れませんが……」


「そうなのか?」


「それに……捕らえた者達全員が、その……」


「あぁ、俺が幻術で恐怖を見せてる状態だ。爆薬を見つけさせるのに必要だったから操ったしな。」


「エリアスさん……」


「どうした?ゾラン?」


「あ、その……調べれば悪事は暴かれていくので、捕らえた者には相当の罰を受ける事になるんでしょうが……」


「やり過ぎたか?」


「エリアスさんがそこまでするとは思ってなくて……」


「そう、か……」


「エリアスさん、大丈夫なんですか?勿論今回の事はエリアスさんのお力でこちら側は負傷者も出ずに短時間で撲滅できましたし、それには凄く感謝はしているんですが……その、いつものエリアスさんならここまで無慈悲にはされないと思いまして……」


「そう、だな……」


「今回はリュカが絡んでるという事もあってだと思いますが、それでもここまでは……」


「…………」


「あ、あの、すみません、その、責めている訳では無いんです!お気持ちも分からなくはありませんし!ただ……」


「……ただ?」


「フレースヴェルグの力を得て、エリアスさんが変わってしまったように思えてしまって……」


「そう、かもな……」


「エリアスさん?!」


「いや、俺も自分に違和感を感じてたんだ。自分でも驚く位に冷静に、そして冷酷になれた事にな。勿論アイツ等の感情を読んで、今までの悪行を確認した上でそれ相当の罰を与えたつもりでいるけど、それでもいつもならここまでしなかったかもな……」


「悪いのはあの者達で、エリアスさんのした事は僕もそれ相当の罰だと思います。ですが……」


「分かってる。ゾランの言いたい事は。俺の心配をしてくれてんだな?」


「はい……その力に飲まれてしまうのではないかと……」


「そうだな。そうならねぇようにしねぇとな。」


「ですが、エリアスさんのお陰で助かった人達がいるのは事実です!僕はエリアスさんの栄誉を讃えたいです!」


「んなの、いらねぇよ。」


「いえ!そういう訳には……!」


「それより、被害者になんかあったら保証してやって欲しいんだ。記憶は消したから今後の日常生活に支障はないと思うけどな。」


「ありがとうございます。今後も様子を見るようにします。」


「他のアジトにはいつ乗り込むつもりでいる?早い方が良いだろ?」


「そうですね。出来ればニ、三日中には……」


「明日で良いんじゃねぇか?俺が行くし。」


「大丈夫ですか?」


「俺は問題ねぇ。魔力も殆ど使ってねぇしな。兵達はどうだ?」


「こちらも問題ありません。今回は戦闘に加わっておりませんので。」


「兵達は俺にビビってねぇか?」


「それは……」


「やっぱそうか。無理なら来れる者だけで良い。そう伝えてくれるか?」


「大丈夫です!こんな事で怯んでいる等、兵士として成り立ちません!」


「それはゾランに任せる。後でアジトの場所と規模を伝える。その前に、もう一度捕らえた奴等の思考を読んで確認したいからな。」


「分かりました!ありがとうございます!」



 ゾランと別れて、帝城へと戻る。


 そうだな。今回、俺はいつもよりも非情になれた。操る事も何とも思わなかった。あれだけ嫌だった操る力を自分から使うとか……ダメだ、こうやって人としての感情を失っていったら、俺はマジで人間じゃ無くなっちまう……!


 力に溺れちゃいけねぇ。


 力を持つ者には、その責任を背負う必要がある。


 自制しなくちゃな。自分を律しねぇと。言ってくれる人がいて良かった。ビビって誰にも何も言われなくなるって事もあるからな。そうなったら終わりだ。だからゾランには感謝しなきゃいけねぇな。


 リュカにも怒られとくか?


 俺はそうやってちゃんと怒られねぇとダメなんだろうな。


 そうだな。リュカに怒って貰おう。


 そうしよう。




 

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