戦いの準備
やっと自由に体が動かせるようになった。
フレースヴェルグから奪った力が体に馴染んでからは、力がすげぇ身体中に漲る。なんか、力を使わねぇと勿体ねぇって感じだ。
今日は久し振りに家に帰る。
孤児院に着くと、朝から皆がお祝いをしてくれた。俺を見て泣き出す子もいてたし、すげぇ皆が喜んでる感じだ。マジで心配してくれてたんだな。
一人一人にハグをしていって、変わりはないかを確認しながら話をする。皆が嬉しそうに俺に話をする。やっぱり俺はこの子達の父親代わりなんだ。離れた期間が今回は長かったから、余計にそう感じる。
ルーナに子供達の誕生日はどうしてるのかを聞くと、細やかながらお祝いをしているんだそうだ。誕生日の子だけに特別に少し豪華な食事を出したり、その日の仕事は皆が手伝う、等といった感じらしい。
ルーナの感情は素直で、子供達のことを思っているのが分かる。リュカの事……いや、アシュリーの事以外であれば、ルーナは素直な良い子なんだろう。それでも俺がルーナを女として見る事はできねぇけどな。
俺の提案で、誕生日はケーキを用意する事と、俺が一つ何でも言うことを聞く、というのを追加する事にした。それにはルーナも凄く喜んで、何度も俺に「ありがとう!」って礼を言う。自分の事じゃねぇのに、マジで子供思いなんだな。職員にもなんかプレゼントくらいしてやるか。
午前中はそこでゆっくり過ごして、昼飯も皆で楽しく食べた。
午後からは、前に魔物に襲われた街や村を巡ることにしている。まぁ俺が復元しているから、建物なんかは元通りで問題なく生活はしていける。けれど、亡くなった人や家畜が多い場合、今後の生活に困窮する事になる。何が必要で何が足りてねぇのか等を聴取するのも大事な仕事だ。
そうやって村を訪れていて、次の村へ行こうとした時に、胸元にあるピンクの石が光だす。またリュカが心配でもして、俺の声を聞きたがってるのかな?とか思ってると、全然そうじゃなかった!
リュカが連れ去られた!
けれど、リュカはまだ来なくていいって言う。自分が囮になってアジトまで行くから、そこを叩いて欲しいと願う。
なんであえて自分から危険な場所に行こうとすっかなぁ?!けど、そうじゃねぇのも分かってる。リュカは理不尽な事が許せないだけなんだ。それは俺にもすっげぇ分かる。
でも、俺がどんな気持ちになるとか全然分かってねぇ!結局俺がいつものように折れる事になっちまうんだけどな!
すぐに帝城へ戻って、ゾランにこの事を報告する。ゾランからは今マドリーネから連絡が入ったとの事で、俺に連絡をしようとしていたところだったらしい。
マドリーネもそこにはいて、泣きながら何度も俺に頭を下げて謝り続ける。今までずっと帝都中を探していたんだな。
マドリーネの目をしっかり見て「大丈夫だから」と言って、午前中の記憶を消しておく。あまりこの事を気にして欲しくはねぇからな。きっとそれはリュカも同じように思ってくれる筈だ。
ゾランに伝えると、すぐに行動に移してくれる。ゾランに任せておけば何も問題はねぇ。あとは俺はただ、リュカからの連絡を待っていたら良いだけだ。
リュカがずっと石を握ってるから、石はずっと光ったままだ。その石を俺も握ると、会話はしなくとも頭で感じた事がこちらにも伝わってくる。
リュカ、本当は怖かったんだな。けど、自分を奮い立たせるように気持ちを強く持っている。
今すぐ駆けつけたい……!その不安と恐怖を取り除いてやりてぇっ!
けど、リュカがこんだけ頑張ってんだ。それを俺が邪魔しちゃいけねぇ……!
「エリアスさん、リュカは大丈夫そうですか?」
「あぁ……すっげぇ怖がってるけどな。用意は出来たか?」
「はい。騎士舎の訓練場に医療用テントを設置しております。そこに回復魔法が使える者を数人、待機させています。今回の事をウルリーカ王妃が聞きつけ、自分も手伝うと言って、ウルリーカ王妃の母君も一緒に待機して頂いております。」
「そうか。助かる。まだどれくらいの人数が捕まってるか分かんねぇけど、多めに何か食べられる物を用意しておいてくんねぇか?」
「はい。既に手配済みです。」
「ハハハ、流石だな。それと……」
「着る物や、休めるように簡易ベッドも用意しています。簡易転送陣を用意しましたので、保護された者にすぐに対応出来るように準備しています。」
「そうだな。そこら辺は任せていて問題ねぇのは分かってる。とにかく、俺が戻ってくるまで、保護した人達をその場所に留めておいて貰えるか?」
「はい。兵は保護する者と捕らえる者、戦力は必要ではない……ですよね?」
「当然だ。俺が一人で方を付ける。人相手じゃ何人いようが負ける気はしねぇよ。」
「そうですね。でも気をつけて下さい。病み上がりなんですから!」
「病人だったみてぇに言うなよ。ま、でも気を引き締めるよ。しかし……人拐いとかの情報は得てたか?」
「ここ最近はほぼ無かったんです。魔物に襲われた街や村から拐っていたのだとすれば、いなくなっても魔物の餌食となった、という認識をするでしょうから、ここぞとばかりに犯行に及んだ可能性がありますね。」
「悪巧みを考える奴等って、バカじゃねぇんだよな。ったく、他に頭を使えよって感じだよな。」
「本当ですね。」
「……ゾラン、思ったより酷ぇ状況らしいぞ?」
「え……?」
「リュカの思考が流れ込んできてな。女性も何人も捕らえられてるみてぇだ。」
「やはりそうですか!」
「リュカがすげぇ怒ってる。同じ人間同士でこんな事をするのが理解できねぇみたいだな……」
「人間の醜い思考等はあまり知らなかったので仕方のない事でしょう。この事態も想定済みで、女性への対応も既に整っています。」
「ありがとな。そろそろ行く事になる筈だ。」
既に近くには数人の兵達を待機させている。俺が空間移動でアジトまで一緒に連れていって、そこで転送陣を設置して貰う。そうするとこことアジトの行き来が容易くできて、保護した人達もすぐに収容できる。
リュカの悲痛な叫びの様な声が頭に響いた。
待ってた!
すぐに兵達と共にアジトまで飛んでいく。
リュカがいた。けど、頭から血を流していた。それを見た瞬間、怒りが全身を駆け巡っていくように沸々と沸いてきて身体中が熱くなっていく……!
許せねぇ……
俺のリュカに何してくれてんだ!
簡単に捕まえるだけとか思うなよ?!
お前等にはこれから味わった事のない恐怖を与えてやるからな……!




