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黒龍の娘  作者: レクフル


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人拐い


 エリアスが全快した。


 瞳も黒に戻ったし、元気になって本当に良かった。


 だから今日はエリアスの全快祝いをするんだって。ミーシャがそうしようって言ってくれたんだ。

 私も出来ることをしたいって言うと、じゃあメイドのマドリーネが買い物に付き合って欲しいと言う。久し振りの帝都での買い物に嬉しくなった。


 エリアスは今、久し振りに家に帰ってる。それから街や村に行って、魔物に襲われた後の状況がどう変わっているのかを確認するんだって。

 ゾランが、「当分は危険な場所へは行かないで下さい!」って言ってたけど、「分かった分かった」って笑いながらエリアスは答えてた。去っていくエリアスに向かって「二回続けて言ってはいけません!」ってゾランは怒ってたな。二人のやり取りが可笑しくて、でもゾランの心配してる気持ちが嬉しくて、その様子をニコニコ笑いながら見送る。


 それからマドリーネと帝都へ行った。手を繋いで一緒に帝都を歩く。雑貨屋に行って、クラッカーってのを買った。「これ、誕生日の時に皆が私たちに向けて打ったヤツだ!」って言うと、マドリーネはニコニコ笑って、「これは中身が色々あって、今回購入したのは打つと天使が何人も出てきて祝福するんですよ」って教えてくれた。これも魔道具なんだって。色々あるんだなぁ。やっぱり人間って凄い!って思っちゃう。


 他にも色んなお店に行って、色んな物を購入している。買い物って楽しいな。見てるだけでもワクワクする。露店で売っていた、串に刺さって冷やされたパイナポーって果物を買って貰った。パイナポーもすごく美味しかった!歩きながら食べるのも楽しい。お天気も良くて、空気も温かくて、行き交う人々には活気があるし、感情は様々だけど穏やかだし、ここはすごく良い街なんだなって思う。


 マドリーネが店に忘れ物をしたから取りに戻るって言って、私は噴水のある広場のベンチに座って待つことにした。

 この噴水ってのもいいな。水が吹き上げられると、空気がそこから澄んでいって、体が癒されるような感じがする。


 そんな心地よさの中、ゆっくり辺りを眺めていたら、不意にゾワってした感覚に襲われる……!


 何だろう?なんか嫌な感じがする……


 辺りを見渡して、嫌な感じは何処からなのかを探る。キョロキョロとあちらこちらを見て、一見普通に見えて何も違和感なく歩いている一組の親子を見つけた。父親と私よりも小さな子供と手を繋いで歩いてるのは……親子じゃない……?


 気になってその方向へと近づいていく。


 近づくとより感じる……子供は何も分かっていない。手を繋いでいる男はこの子供を拐おうとしている。拐った子供を……売る……?人間って売れるの?なんで売るの?売られた子供はどうなるの?

 考えても分からない。分からないけど、あの男からは悪しき感情しか感じない。って事は、良いことにはならないって事だ。


 男と子供は路地に入っていく。私もその後をついて行く。優しそうに笑う男の表情からは思いもよらない感情が漂っている。もう少し近寄ればもっと考えてる事とか分かる。触れればその映像を読み取る事ができる。けどあまり近寄り過ぎちゃダメだ。


 路地裏の、とある建物に男と子供は入って行こうとする。そこに入ったらダメだ!きっと抜け出せない!確証はないけど、そんなふうに感じる……!

 

 走ってその子供の腕をぐいって掴む。子供は驚いて私の方を見る。そうか……そう言われてここに来たのか……



「なに?誰?」


「なんだお前?」


「ダメだよ!入っちゃダメ!」


「なんで?だってここにお母さんがいるんだよ?」


「そうだよ。俺はこの子とお母さんを会わせる為にここに連れてきたんだよ。」


「違う!ここにはいない!ここは危ない!」


「え?ここにはいない?」


「チッ!面倒くせぇなぁ!」



 男は私の左手首を掴んで、一緒に建物の中へ入ろうとする。ダメだ!ここに入っちゃ!グーにした右手で、思いっきり男の脇腹を殴り付ける。すると男は「うっ!」って言って、その場に屈みこんだ。その隙に子供の手を取って、急いで走って大通りへと向かって路地を走っていく。


 男が叫んで、それで建物の中からも数人出てきて、殴られて屈みこむ男を見てから逃げていく私たちを見て、すぐに一斉に追いかけてくる。速く……もっと速く走らなきゃ!けど、私たち子供の足ではすぐに追い付かれてしまいそうになる!


 手を繋いで走っていると、子供の足が何かに(つまず)いたようで勢いよく転んでしまった。急いで立たせようとするけれど、足を挫いたみたいでなかなか立てなくて、でも追っ手はすぐそばまでやって来ている。早く、早くここから逃げないと……!


 と思ってたら、子供が倒れた格好のまま、いきなり泣き出した。え?今は泣いてる場合じゃないよ?!泣いてても良いから、すぐに立って走らないとダメなんだよ!立たせようと腕を引っ張ってると、後ろから頭を鷲掴みにされて投げ飛ばされて、壁に頭を打ち付けてしまう……!

 

 そのまま私は意識を失ったみたいだった……

 

 


 

 ガタガタと揺られる感じがして目が覚めた。なんだろう?何かに乗せられてる?どうなってるんだろう?って思って、体を起こして見ると、周りには何人も子供がいた。


 

「なに……?なんで……」


「目が覚めたの?大丈夫?」


「うん……でも、なんでこんな……」


「俺たちは捕まって連れて来られたんだ。」


「ここはどこ?」


「どこかは分からない。転送陣ってので遠くまで移動したみたいだし。」


「え?転送陣って、ちゃんと管理されてるんじゃないの?」


「そうなんだろうけどさ。裏組織的な奴らが独自に使ってるヤツとかあるんじゃねぇの?」


「そんなのって……!」


「もちろん違法だよ。けど、そんなの関係ねぇんじゃねぇの?」


「でも……じゃあ、私たちはどうなるの?」


「さぁ?売られて奴隷にでもされんじゃねぇの?」


「奴隷?!そんなの、オルギアン帝国の周りの国じゃ廃止されてるって……!」


「まぁそうだけどな。奴隷制度が残ってる所に連れて行かれるか、表立って奴隷とは言えないにしても、同等の扱いを受けるか……とかじゃねぇの?」

 

「そんなことって……」



 習った事がある。奴隷って、人間として扱わないんだって。過酷な労働を強いられて、モノのように扱われるって。


 そんな事が今も行われているなんて……


 人間って、キレイな物や美味しい物を作れたり、勉強して賢くなったり出来るのに、どうしてそんな酷い事をするの?!


 ここには連れて来られた子供が私を含めて十三人。あちこちで涙声が聞こえる。よく見ると、私たちは大きな檻の中に入れられていて、馬車で移動している最中だったみたい。馬車の中に檻を設置してるなんて、こういう事専用の馬車として使ってるとしか思えない。


 レオンの事を思い出す。

 あの時もそうだったのか……


 ここがどこで、これからどこに連れていかれるのか分からない。けど、ここにいる子供以外にも、もっと多くの子供がいるのかも知れない。


 こんなことは阻止すべき事だ。


 絶対に阻止すべき事だ!





 

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