奪った光
俺がフレースヴェルグに襲われてから数日が経った。
思ったより体にダメージがあったみたいで、なかなか自由に体を動かす事ができなかった。リュカにもラリサ王妃にも回復魔法を使ってもらって自分でも治癒させられるのに、それでも俺は未だベッドから出れねぇ状態だ。と言うことは、襲われた事で受けた傷だけが原因ではなく、フレースヴェルグから奪った力に体が馴染めてないからなんだと予測できる。
と言うか、セームルグもそう言ってたしな。
リュカはすげぇ心配して、ずっと俺のそばにいる。何度、「もう大丈夫だぞ?」って言っても、不安そうな顔をして俺から離れようとしない。
家の者にはゾランに頼んで事情を話して、体調が戻るまで帰れない事を伝えて貰っている。俺は今、帝城にある俺の部屋で療養している。
一緒にいても何もしてやれねぇのに、リュカは俺から離れねぇ。俺のそばで読み書きをしたり計算したりして勉強している。そんなに心配しなくても何処にも行けないのにな。けど、リュカの不安がる気持ちも分かる。逆の立場だったら、俺だって同じ事をしてると胸を張って言える。まぁ胸を張って言う事じゃねぇけどな。
俺に宿った、フレースヴェルグから奪った光で得た能力。それは奪う力だ。
実際使ってみねぇと何を何処まで奪えるか、とかは分かんねぇ。けど、その力はすげぇ大きいように感じる。ずっと目が疼く。目だけじゃなくて、身体中痛む。まだ瞳に力が馴染んでねぇからなんだろうけど、朝の優しい陽射しや、暮れていく物悲しい夕焼けの光でさえも目に沁みるし、体を動かすと全身が痛む。迂闊に何でも奪えば良いってもんじゃねぇんだな。
ゾランに頼んで、黒い両目用の眼帯みたいなのを作って貰った。日中はそうして目を休めて、ベッドに横たわっている。けど、そうしててもリュカが何処にいて何をしているのかは分かる。今何を考えていて、どんな表情をしているのかも。マジで目が見えなくなったとしても、俺は問題なく生きていけそうだな。
段々体が人間離れしてくるな。ったく、これじゃまるでバケモンだな。だからなるべく力を使わねぇようにしてんのに。思う通りにできるってなったら、人としての心を無くしてしまいそうだからな。
奪う力って、なんだよこれ。俺はこれ以上欲しいもんなんて何も無いんだよ。欲しいのは愛しい人達との平和で安心できる生活だけだ。
まぁ、それを守る為に動かなきゃなんねぇし、その為にも強い力が必要なんだけどな。ったく、これじゃ堂々巡りだな。
「エリアス……」
「ん?どうした?リュカ?」
「目、痛い?」
「え?……あぁ。ちょっとだけな?心配してくれてんのか?」
「だって……ずっと目に眼帯?してるから……」
「光が目に入るのを防いでるだけだから。大丈夫だ。リュカは勉強は一段落ついたのか?」
「うん……」
「そっか。リュカは賢いってミーシャもゾランも言ってたからな。大きくなったら学者とかになれっかもな。」
「がくしゃ?」
「あぁ。専門的な事を調べたり考えたりして、人の生活を楽にしたりする物を発明をしたりもする職業だな。」
「そうなんだ……」
「リュカには安全な場所で、平和に過ごして欲しいからな。」
「でも……私は魔物を……」
「今は考えなくていい。そんな役目はいずれ俺が引き受けてやる。」
「え?」
「なんでもねぇよ。リュカ、ここにいるの退屈だろ?リオの所で勉強してきたらどうだ?」
「嫌……ここにいる。ダメ?」
「いや、ダメじゃねぇぞ?リュカといれんのは、俺も嬉しいからな。」
「良かった。……あの、ね、エリアスの……」
「ん?」
「腕輪に抑えられてる力って、どんな力?」
「俺のか?……俺の左手は触った奴から光を奪う。光って言うのは視る力って事だ。で、その奪った光が何らかの形で俺に宿る。右手は触った奴を操る事ができる。」
「光を奪って力を宿す……」
「そうだ。この目にな。」
「魔眼……」
「よく覚えてたな。俺は目に表れやすいんだ。リュカの魅了の魔眼も、俺の遺伝なのかもな。あ、でもアシュリーも魅了が使えてたな。」
「今エリアスの目が痛いのは、何かから光を奪ったから?」
「そう、だな。ちょっと馴染むのに時間がかかってるかな。ハハハ……んな心配そうな顔すんな?大丈夫だから。」
「私の顔、見えるの?眼帯してるのに?」
「見える……と言うより感じるな。リュカの可愛い顔も分かるぞ?」
「私はエリアスの顔が見れない。目が隠れてるのが、なんか気になる……」
「そうか?見たいか?」
「うん。ずっと見れてないから……でも大丈夫?」
「カーテンを閉めてくれたら大丈夫だぞ?」
「あ、うん、ちょっと待って!」
リュカは急いで部屋中のカーテンを閉めた。そんなに急がなくて良いのに。それからすぐに俺の元まで戻ってくる。ゆっくりと上体を起こして眼帯を取って、そっと目を開ける。
リュカは眼帯を取った俺の目を見て、すっげぇ驚いた顔をする。
「エリアス……!その目……っ!」
「え?どうした?なんか変か?」
「瞳が……赤くなってる……!」
「え?そうなのか?」
リュカがあちこちキョロキョロ見渡して、小物を入れる引き出しを見つけて何かを探すように引き出しを開け、そこで手鏡を見つけたようでそれを持って急いで俺の元まで戻ってきた。
「見て!エリアスの目!ほら!」
「なんだこれ……」
手鏡に自分の顔を映す。そこにはリュカが言った通り、真っ赤な瞳をした自分の目が映し出されていた。
「本当だな。真っ赤になっちまったな。」
「大丈夫なの?!エリアス、そんな目になって!」
「え?あぁ、大丈夫なんじゃねぇか?まぁでも、赤い目ってあまり見ねぇから気味悪がられるかもな。リュカはこの目は怖くないか?」
「そんなのっ!怖いとかはないよ!だってエリアスだもん!どんな姿になったって、私はエリアスを怖いなんて思わないもん!」
「そっか。リュカが怖がらないんならいいよ。」
「けど……」
「けど?どうした?」
「私の黒い瞳はエリアスと一緒だったのに……」
「そうだな……ごめんな……?」
「あ、ううん!エリアスは悪くないよ!どうしようもないもん!それに、体が元に戻ったら、瞳も黒に戻るかも知れないしね!」
「そうかもな。」
泣きそうな顔をして俺の瞳を見続けるリュカの感情は悲しさで溢れている。なんか、悪い事してしまったみたいな気持ちになるな。不意にリュカが俺に抱きついてきた。優しく俺の頭を撫でてくれる。俺を労ってくれてんだな。俺もリュカの頭を優しく撫でる。
「リュカ、ありがとな。でも、俺は大丈夫だから。」
「うん……」
あんまりリュカを心配させちゃいけねぇな。元に戻らなかったら、幻術で黒く見えるようにするか。けど瞳の色が変わるって、どんな現象なんだ?俺の目に何が起きてんだ?
また目に眼帯をしてカーテンを開ける。部屋中が暗いと気が滅入りそうだからな。リュカには明るい場所で笑っていて貰いたいんだ。
また横になって、ゆっくり休ませて貰う。早く体を治さないとな。リュカを安心させてやりてぇ。それに家の方も心配だ。問題なく過ごしてくれてるとは思うけど、こんなに家を空けることはなかったからな。
俺がいなくても問題ないことは多いけど、俺じゃなきゃ無理な事もある。だから早く体を治して復帰しねぇとな。
けどその後、俺が仕事に復帰出来たのはフレースヴェルグに襲われてから三週間程経ってからだった。かなり時間が掛かっちまったな。
俺の目はどうなったかと言うと、元通りに黒く戻った。それを見てリュカはすげぇ喜んだ。けど、これはまた何かの時に変わる気がする。まだそれがどうなるとか分かんねぇけど。
目の疼きも全身の痛みも漸く無くなって、普通に歩けるようになるまでこんなに日が掛かったのは初めてだな。それだけ大きい力だったのかもな。今はその力が馴染んで体に定着してんのが分かる。
大きい力を得たからといって、むやみやたらと使う事は考えてねぇ。マジでこれ以上は何もいらねぇからな。
さぁ、長く休んだ分、しっかり働くとするか。
体調を整えて準備も整えたら、アイツを倒しに行かないといけねぇしな。




