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黒龍の娘  作者: レクフル


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愛しい人


 暗闇だ


 周りは闇に覆われていて、自分以外何も見えねぇ


 どうなった?俺は今どこにいる?


 わけも分からずに、何を求めているのかも分からずに、その場から一歩二歩と歩き出す


 すると、少し離れた場所から淡い光が上から下りるように降り注いできた


 その光を求めるように近づく


 光が降り注いでいき、それは形を成していく


 そこには俺が求めてやまない存在がいた



「アシュリー……?」


「エリアス!」


「アシュリーっ!」



 アシュリーだ!俺のアシュリーがここにいる!思わず抱きしめて、その存在を確認する……!


 頬を撫で、瞳をしっかり見て、その唇を優しく指でなぞる


 やべぇ……!嬉しすぎる!



「アシュリーだ!マジか?!アシュリーが俺の腕の中にいるっ!」


「エリアス……会いたかった……」


「俺も会いたかった!すっげぇ会いたかった!もう嫌だ!離れたくねぇ!ずっとアシュリーと一緒にいてぇ!」


「それはダメだよ……まだ今は一緒にいられない……」


「嫌だ!もう離れんのとか嫌なんだよ!アシュリーのそばにいたいんだよ!」


「じゃあリュカはどうするの?」


「えっ?!」


「リュカをまた一人にするの?」


「リュカ……は……!」


「まだあの子は幼い。やっとエリアスと会えてリュカの心は安定してきている。だけど、まだ一人にしちゃいけないよ……」


「そう、だけど……っ!」


「このままだとリュカの命はあと僅か……まだここに来るのは早いよ……」


「分かってる……分かってる、けどっ!」


「エリアス……泣かないで……?」


「泣いてねぇ……」


 

 アシュリーが俺の目を拭ってくれる。こんな事一つが嬉しくてどうしようもねぇ……!



「お願い。リュカを助けてあげて?今リュカが心から望んでいるのは、エリアスが生きる事なの。リュカにはエリアスしかいないの……」


「アシュリーっ!」



 嫌だ……アシュリーを手離したくねぇ……!今ここにいるのに!なんでこんなに想ってるのに一緒にいる事ができねぇんだよ!


 しっかり抱きしめて、アシュリーを離さないように、繋ぎ止めるようにする。アシュリーが困った顔をして俺を見る。そんな顔も可愛くて、全てが可愛くて愛おしくて仕方ねぇ……!


 存在を確認するように、また頬に触れて、それからそっと唇を重ねる。


 アシュリーの柔らかな唇は、俺の頭の中をアシュリー一色に染めていく。


 やべぇ……止めらんねぇ……


 何度も何度もそうやって、アシュリーを求めるように唇を重ねていく。



「待っ……エリアス……っ!」


「アシュリー……俺……っ!」


「落ち着いてっ!エリアス!」


「落ち着けるかよ!アシュリーがここにいんのに!」


「エリ、アス……っ!」



 何も言わさないように、アシュリーの唇を奪い続ける。今は何も考えたくねぇ。アシュリーの事しか考えたくねぇ……!


 とか思ってたら、思いっきりアシュリーに両頬を叩かれた!



「いってぇ!」


「私たちは今魂だけの存在だけど、エリアスはまだ肉体を持った時の感覚を魂が覚えてるから痛いでしょ?……って言うか、落ち着いてって言ってるでしょ!」


「あ、はい、すみません……」


「そうやって暴走するの、悪い癖だよ?!」


「それはアシュリーにだけだから……!」


「だとしても!」


「そう、ですね……」


「時間がないんだから!言いたい事くらい言わせてくれないと!」


「え?!時間がないって!もう行っちまうのか?!」


「私だって離れたくないよ……ずっとエリアスと一緒にいたいって思ってるんだよ?」


「アシュリー……じゃあ……!」


「だからリュカはどうするの!」


「あ、そうですね、すみません……」


「エリアスの為にリュカは現世に残ってくれたんだよ?そんなリュカを残して、エリアスは私と一緒にいれるの?」


「それは……」


「落ち着いて考えてね?エリアスは分かってる筈だよ?」


「あぁ……そうだな。分かってる……」


「フレースヴェルグに宿る精霊アタナシア……それがあの魔物に不死身の体を与えてる。」


「そうらしいな。」


「エリアスが襲われたのはね、その刀剣を持っていたからだよ。」


「え?この幻夢境刀をか?」


「そう。精霊アタナシアが、その刀剣を求めてる。」


「なんでだ?これがなんで……!」


「その刀剣にある『気』は、ある精霊が宿っているからなんだ。」


「この刀剣に精霊が宿ってんのか?!」


「うん。その精霊をアタナシアが求めてる。だからエリアスの元までやって来たの。」


「えっ……けど気配も何もなかったし、なんで俺の所まで……」


「エリアスじゃなくて、その刀剣の精霊を求めてだって。鞘を抜いたでしょ?その時に刀剣に宿った精霊が目を覚ましたの。アタナシアはそれでその刀剣が放つ『気』を感じとったみたい。それが近くまで来たから、『気』を辿ってやって来たんだよ。」


「そう……だったのか……」


「気をつけてね、エリアス。アタナシアは空間移動が使えるの。けどその範囲は狭い。だから今いる場所までやって来る事はないけど、シアレパスの北の方へ行くと、その『気』を察知してすぐにやって来るからね?」


「そうなんだな。分かった。ありがとな。これでリュカを救ってやれる!」


「けど……」


「ん?どうした?」


「もしかしたら……エリアスが……」



 アシュリーが俺を心配する。そんなふうに思ってくれんの、すげぇ嬉しいな。


 アシュリーは言いながら悲しそうな顔をする。俺も離れたくねぇ。リュカが現世にいなかったら、俺はこのままアシュリーと共にありたかったんだ。


 けどそれを叶える訳にはいかねぇ。それは仕方がない事だ。俺は今度こそリュカを守るって決めたんだ。ずっとリュカのそばにいる。リュカが俺を必要としなくなるまで、俺がずっとリュカのそばにいる。そう決めたんだ。

 

 アシュリーに怒られるまで、俺はアシュリーに(ほう)けたままだったけどな……マジで俺は情けねぇ。まだまだだよな……


 

「エリアス……私はいつか、またエリアスの元へ行くよ。エリアスを助けに行く。だから……」


「アシュリー……本当にか?」


「うん。絶対だよ。約束する。」


「分かった……信じてる。ありがとな。アシュリー……愛してる……」


「うん……エリアス、私も……愛してるよ……」



 アシュリーをしっかり抱きしめて、それから何度も口づけを交わす。アシュリーの気持ちが伝わってくる。俺を愛してくれている気持ちが、すっげぇ伝わってくる。それが嬉しくてどうしようもないくらい、俺の心は満たされていく。けどやっぱりまだアシュリーと一緒にいてぇ……!


 胸に温かさを感じる。気づくと俺はまた暗闇に一人だった。アシュリーの姿かたちはどこにもなくなっていた。

 いきなり消えるとか、そうなふうにされると急に虚しくなってくるじゃねぇか……

 けど、そうでもされねぇと、俺はいつまでもアシュリーを引き留めてたかも知んねぇな。


 暗闇の中で目を閉じて、胸に感じた温かさを求めるようにゆっくり目を開けると、リュカの手が胸に当てられた状態だった。


 ここは……どこだ……?


 リュカが泣きながら、俺に回復魔法を当てている。その手を取って、「もう大丈夫だ」って言うと、更に涙をボロボロ溢して、「良かった!」と言って泣き崩れる。


 そうだな……俺はリュカを守ってやらねぇとな……


 ゾランも俺を見て泣いてる。男の癖にそんなに泣くなよ。って、人の事言えねぇか。


 ラリサ王妃が俺に回復魔法で治癒させてくれたみてぇだな。有難てぇ……


 まだ体が万全じゃねぇな……心臓を貫いたからか……?けど、貫かれた時に触れた爪から、俺は能力を解放してフレースヴェルグの光を奪ってやった。殺されかけたのに、いや、殺されたのに、誰がただで起きてやるかってんだ。


 その能力が瞳に宿る。


 やべぇな……流石は大物だ。得た能力は半端なかった。その能力が体に定着するのに時間がかかりそうだな。


 けどこれで、いつでもフレースヴェルグを倒しに行ける。手筈は整った。

 

 心配そうに泣きながら俺を見るリュカを抱き寄せる。すると暫くして、安心したのかリュカは寝息をたてて眠りだした。心配してくれて、夜なかなか寝付けなかったのかも知んねぇな。


 今日はゆっくり休ませて貰うか。


 起きたらリュカに教えてやりてぇな。


 アシュリーは今もリュカを心配しているって。リュカを愛しているって。


 リュカは愛されて生まれたんだって。


 起きたらそう教えてやろう。


 俺も今はリュカの温もりを感じて、アシュリーとリュカの愛を感じながら眠ることにしようか。 


 




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