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黒龍の娘  作者: レクフル


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胸の鼓動


 夜の静けさと暗闇が部屋の中にまで迫っている。その闇は洞窟での生活を思い出させる。


 けれど、エリアスと一緒に眠るようになってからは、寂しかったあの時の自分を思い出す事がなくなった。いつもエリアスのそばは安心できて、温かく包み込んでくれるような優しさが心地よかった。


 でも今はこの暗闇が怖い。


 エリアスをどこかに連れて行きそうで、寄り添ってしっかりと両手で手を繋ぐんだけど、気づくといなくなってそうで、またこの温かさがなくなってしまうんじゃないかって思ったら不安で不安で、どうしようもなくってしまう……


 どうしてこうなったんだろう?何があったの?エリアスと話しをしていた時に、急に声が聞こえなくなった。その時に何かに襲われたの?エリアスは強いのに。すっごく強いのに!


 両手で握りしめたエリアスの手を、どこにも行かないようにしっかり胸に抱きしめる。



 置いていかないで……


 私の生きる意味を無くさないで……


 エリアス……


 また「リュカ!」って呼んで笑ってね?


 元気になったらニレの木の元でまた食事しようね。


 魔物を抑えに行くの、エリアスと一緒じゃなきゃ行けないよ?


 だから早く目を覚ましてね?


 お願いだから……



 眠ってしまうと、次に目を開けた時にいなくなっていそうで、怖くてなかなか眠る事が出来なかった。それでも気づくと眠ってしまってて、何度もハッて気づいて慌てて起きて、エリアスの存在を確認して安堵する。


 大切な誰かがいなくなりそうだって思うだけで、こんなに不安な気持ちになるんだ……


 エリアスもアシュリーを失った時はこんな気持ちだったの?どうやって一人になった時に耐えれたの?私は怖くて耐えられそうにない。

 

 そんなふうに何度も暗闇の中で目が覚めて、エリアスの呼吸を確認して安心する。そうやって気がつくと朝が来た。やっと暗闇が去って行った。けれど私の心は晴れないままだ。


 どうしてこうなったのか、昨日の夜から何度かエリアスの心を手繰ろうと試みているんだけど、そうしても真っ暗でなにも見えなかった。なんで何も見えないの?

 不安な気持ちがなかなか拭えなくて、明るく射し込む爽やかな陽射しでさえも、私の心まで明るくすることは出来なかった。

 

 扉がノックされて、ミーシャが顔をそっと覗かせる。ミーシャも心配してくれてたみたい。



「おはようリュカちゃん、エリアスさんはどうかな?」


「まだ寝てるけど……温かいし息もちゃんとあるから、きっともうすぐ起きると思う。」


「うん、そうだね。あまり眠れなかったんじゃない?リュカちゃんは大丈夫?」


「うん……」


「大丈夫じゃないよね……お目々が真っ赤で浮腫(むく)んでる。一晩中泣いてたんだね。」


「だって……怖くってっ!エリアスがいなくなったら!私どうしていいか分かんないんだもんっ!」


「リュカちゃん!」



 ミーシャが私を抱き寄せる。それから頭を撫でて慰めてくれる。



「エリアスさんはこんな事でどうにかなる人じゃないよ!凄く強いんだから!それに、リュカちゃんを置いて行くはずがないよ!ずっとね、ずーっとリュカちゃんを一人で探していたんだよ?やっと一緒にいられるようになったのに!」


「うん……!うん!」


「だから大丈夫!絶対大丈夫だから!」


「うんっ!ありがとう、ミーシャ……!」



 ミーシャの優しい言葉に、また涙が溢れ落ちる。泣いてどうにかなる事じゃない。涙は何の役にも立たない。分かっているけど、次から次へと涙が溢れて仕方がなかった。


 ミーシャの胸で泣いてると、扉がノックされてゾランがやって来た。ゾランの後ろに女の人がいる。この人は……アシュリーに似てる……?



「リュカ、大丈夫かい?」


「貴女がリュカ……」


「え……」


「リュカ、この人はアシュリーさんのお母さんだよ。リュカのお祖母ちゃんになる人で、ラリサ王妃って言うんだよ。」


「アシュリーによく似てるのね……会いたかったわ……!」


「アシュリーのお母さん……?」


「そうよ。貴女のお祖母ちゃんなのよ。」


「ラリサ王妃、まずはエリアスさんに……」


「あ、そうね。」



 ラリサ王妃と呼ばれた人は、エリアスのそば

に行って胸に手を翳す。すると、淡い緑の光が優しくエリアスを包み込んでいく。この人は回復魔法が使えるんだ……エリアスを助けに来てくれたの?


 その様子をじっと見ている私に、ゾランが話してくれた。昨日私が倒れた時に私を支えてくれたのはゾランで、私を別室で寝かせてからすぐにラリサ王妃を呼んで、回復魔法を施して貰ったって。傷はなくなっていったけど、体が治癒されていく前に出血が多すぎて、エリアスが息絶えてしまったって……


 それでもセームルグの存在を知っていたゾランとラリサ王妃は、エリアスの傷を無くす為に、魔力切れになって倒れてしまうまで回復魔法を施したって。リュカと同じことをしてたんだよって。


 淡い緑の光が消えていって、フラリとラリサ王妃が立ち眩みのような感じで揺れるのを、さっとゾランが支える。また倒れそうになるまでエリアスを治癒させてくれたんだ……


 エリアスの周りは、エリアスを思ってくれる人がいっぱいいる。良かった。本当に良かった!

 私もエリアスに回復魔法を放ち、治癒を促す。


 早く目覚めて欲しい。笑いかけて欲しい。リュカって呼んで欲しい。


 そう思って魔力が底をつくまで、エリアスの胸に両手を当てるようにして魔法を放つ。また頭がクラクラしてきて、でもギリギリまでそうしたくて、なんとか倒れないようにして魔法を絞り出すようにして放っていると、その魔法を遮るように私の手を握る手が……


 

「もう……大丈夫、だ……」


「エリアスっ?!」


「エリアスさんっ!」


「リュカ……」


「良かった!良かったぁっ!!エリアス!!」


「あぁ……ありがとな……リュカ……」


「もう!心配させないで下さいよっ!」


「泣くなよ……ゾラン……」


「泣きますよ!こんな姿を見せられたら!」


「ラリサ王妃も……すまねぇ……」


「貴方が無事で……良かったわ……」


「ラリサ王妃!ありがとうございます!お部屋にお送り致します!」



 今にも倒れそうなラリサ王妃を、ゾランが支えるようにして部屋から出て行った。


 私はエリアスから目が離せなくて、私の手を握っているエリアスのそばから離れられなくて、涙をポロポロ流しながらずっとエリアスを見つめていた。


 そんな私をエリアスが抱き寄せる。温かいエリアスの胸に顔を埋めると、心臓がトクントクンって聴こえた。その音を聴いてると安心する。良かった……本当に良かったぁっ!


 その安心感からか、私はまた眠ってしまったようだった。


 温かいエリアスの腕の中で、優しいエリアスの胸の鼓動を子守唄にして……



   



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