想定外
午前中はリュカに魔物を抑えるように動いて貰った。
これでベリナリス国は暫くは安泰だ。この効果がいつまで続くかは分かんねぇけど、それは定期的に確認しに来る事でどうにかできるだろう。
そうしてから、ニレの木の元へ行って、そこで持たせて貰ったサンドイッチやらを二人で食べる。このニレの木は、深い森の奥の小高い丘の上にあって、一際大きく一本だけそこに佇んでいる。俺もリュカも、この場所が気に入っている。
リュカの魔力を供給すんのに、この場所を買い取って家でも建てるか……ってか、誰が売ってくれんだ?勝手にここに住んでも問題なさそうな感じはするな。今は帝城に暮らしてる感じだけど、仮住まいみたいなもんだ。ここなら滅多な事では誰も近寄れねぇし、勿論魔物もそうだ。よし、そうしよう!二人で住む家を、リュカが気に入る家を建てよう!ならもっと頑張って働いて稼がなきゃな!
食い終わってからリュカを帝城に送り届ける。別れる時に、リュカにピンクの石のついた首飾りを手渡された。昨日ゾランにプレゼントとして貰ったらしい。これは希少でなかなか手に入らない魔道具だ。ゾラン、奮発してくれたんだな。後で礼でも言っておくか。
リュカにも礼を言って、使い方を教える。話したい人を思って石を握ると、相手の石が光るようになっている。光った石を相手も握れば、それで会話ができるようになる。声に出さなくても会話ができるから、聞かれたくない話でも大丈夫だ。そう言ってリュカの首につけてあげると、リュカも俺の首につけてくれた。これで俺も安心するし、リュカの気持ちも落ち着いてくれるかな。
午後からは一人でシアレパス国へ行って、フレースヴェルグの事を聞きまわる。行商人の男は今別の街へ行ってるらしいので、その街まで走って行く。街に着いて、行商人を見つけて話を聞く。ついでにその街でもフレースヴェルグの事を聞いてまわる。やはり、土砂災害のあった場所にフレースヴェルグは現れたみたいで、被害者の死体を貪り喰らっていたとの情報を得た。やっぱりそうだったんだな。
その後、北の方へ飛んで行ったとの話を聞き、元は北の方に住む魔物だと聞いていた事もあって、俺も北にある街へと行くことにした。行ったことのない場所だから、そこまで行かなきゃなんねぇけど、まず移動だけで時間がかかる。場所さえ分かれば、空間移動でやってくる事ができるけどな。転送陣は大きな街なんかに設置されてる事が多いから、辺境の地に行くにはこうやって地道に進んで行くしかねぇ。急ぎたい時なんかはこういう事が歯痒く感じるけど、それでも俺は空間移動できるだけマシなんだろうな。
北へと進んで行って、陽が暮れてきたから帝城へ戻ることにする。旅をしていた頃ならここで野宿とかしてたな。けど今は俺を待っててくれてる人がいる。そう思えるだけで心が温かくなる。いいよな、こういうのって。
リュカと一緒に野宿すんのもいいな。今度体験させてやるか。アシュリーと旅をしていた頃は二人でよく野宿をした。アシュリーの作る料理はすげぇ旨かったな。リュカにも料理を教えてやろうか。
そんな事を考えていると、胸元が淡く光った感じがした。見ると、ピンクの石が光ってる。すぐに握ってリュカを思う。
『エリアス?』
「リュカ、どうした?」
『わぁ!本当にエリアスの声が頭に響く!』
「ハハハ、そうだな。リュカの声も俺の頭に響いてるぞ?」
『ふふ……ねぇ、エリアス、まだ帰ってこない?』
「いや、もう帰ろうかと思ってたところだ。なんでだ?」
『ううん。ちょっとお話ししたくて。』
「そっか。じゃあ、今からすぐに帰……」
そう話してる最中に、いきなり胸に激痛が走る……なんだ……?何が……
胸元を見ると、何かが胸から生えている……
違う……貫かれてるんだ……
やべぇ……
動けねぇ……
喉から鉄の味が込み上げてくる……
血が逆流してんのか?
俺、何をされたんだ?
目の前が影に覆われる。見上げると、俺を見ている大きな……鷲みてぇな……コイツが……
気配とか何も感じなかった。
なんでいきなり……
やべぇ……このままじゃ……
リュカ……
リュカの、元へ……
『エリアス?エリアス?どうしたの?』
頭にリュカの声が響く。けどそれに答えられずに石から手を離し、貫かれてるモノを掴む。
胸にあるのは爪、か?何とかそれを引き抜くようにして地面を蹴る。そのまま転げるように地面に倒れ込む。
体を起こそうとするけど、体が言うこと聞かねぇな。
やべぇ、立ち上がれねぇ…!
鷲みてぇな大きな魔物……これがフレースヴェルグか……?ソイツが大きく口を開けて勢いよく迫ってきた……
俺を喰うのか?
まだ死んじゃいねぇぞ……!
襲ったりする魔物じゃねぇって聞いてたけど、そうじゃなかったのか?
ダメだ、思考が定まんねぇ……
リュカ……
俺がいなくなったら、リュカはどうなる?
ゾランが面倒を見てくれるんだろうけど、能力が覚醒したら一年もリュカは生きらんねぇ。
だからコイツをやっつけねぇといけないのに……!
俺はまだ死ぬわけにはいかねぇんだよ……!
そう思ってるのに……
目の前が暗くなって歪んでいって
俺はそのまま暗闇の中に落ちていった




