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黒龍の娘  作者: レクフル


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統べる力


 今日はリオの誕生日だった。


 その事に気づいたのは、今日の報告をしに行った時、ゾランが仕事を早くに切り上げたと執務室にいるカルレスに聞いてからだった。


 プレゼントに何をあげて良いか全く分かんねぇし、気の聞いた物なんて思い付かねぇから、持っていたニレの木の枝を渡す事にする。多分来年辺りに自分の能力に目覚めるだろうから、それまでに魔力をコントロールできれば、すぐに魔法が上手く使えるようになる筈だ。


 迎えに行くと、リュカも一緒に祝ってもらっていたと聞いた。そうか……俺は誕生日とか何にも考えてやれて無かった。生まれてこの方、俺は誕生日を祝うという事を経験してこなかった。いつ生まれたのかってのも分かってねぇし、俺が育った孤児院じゃ生き残る事だけで必死だったからな。ってか、庶民でも誕生日は祝うもんなのか?それすらも分かってねぇ。


 けど、リュカの感情を読むと、誕生日の祝いは凄く楽しかったようだ。リュカが楽しいって思えることは何でもしてやりてぇな。来年もリオと一緒に祝うとするか。


 夜、リュカと一緒にベッドに入る。リュカが眠ってから、リュカに宿る闇の精霊テネブレを呼び出すつもりだった。けれど、その日はなかなかリュカが寝付かない。気づくと俺の方が先に寝てしまってた。


 朝方目が覚めると、リュカはまだぐっすり眠っていた。その間に夜出来なかった、テネブレを呼び出す事にする。テネブレの名を呼ぶと、黒い粒がリュカから湧き出すようにして現れ、それが一つの形となっていく。禍々しいオーラを放ち、俺の周りをグルグルと回り、目の前に来て睨み付けるようにして顔を近づける。


 やべぇ……マジで背筋が凍るような感じだ。



「お前ごときが我を呼び出すとは何事か……」


「聞きたい事がある。」


「何故お前等に述べる必要がある?」


「頼む!リュカの為なんだ!」


「ほう……リュカの命を亡きものにしようとしたお前がそれを言うのか?」


「……知ってんのかよ……」


「我はアシュリーと共にあったのだ。あの時……リュカを宿したアシュリーの中に我がいなければ、アシュリーはすぐにでも魔力と体力をリュカに奪い尽くされてただろう。」


「アシュリーを助けてくれてたのか?!」


「それが我の役目ぞ。」


「ありがとう!感謝する!」


「お前に礼を言われる事ではない。」


「頼む!教えて欲しいんだ!フレースヴェルグって魔物の事を!」


「フレースヴェルグ……不死身の魔物か……」


「やっぱそうなのか?!」


「もうかれこれ二千年程生きておるようだ。死者を喰らい、天に還る魂を我がものとする。」


「それじゃあ、喰われた魂は天に還れねぇのか?!」


「そうだ。生きる者の理である輪廻転生を、奴はそうやって奪っておる。」


「何でそんな事……!」


「そうやってあれだけ巨体となったのだ。はじめは人程も無かったのだ。」


「そうだったのか……」


「奴は不死身だ。それは奴に精霊アタナシアが宿っているからだ。」


「精霊アタナシア?それがフレースヴェルグに宿ってんのか?!」


「そうだ。だから奴は生き続ける。死する事が出来ぬのだ。」


「そうだったのか……」


「このままではリュカが生きてはいけぬ……か……」


「そうだ……だからリュカに体力を与え続ける事が必要になる。」


「その為に不死身の存在が必要なのだな。」


「有益な情報、助かった……!」


「リュカはまだ自分の力を分かっていない。しかも、その能力が開花するのはあと半年程ぞ。そうなれば一年も持たぬ。」


「なんだって?!」


「それ程強い力の持ち主だ。セームルグも調整に奮闘しておる。」


「そうなんだな……」



 リュカの事をテネブレに教えて貰って、それから精霊アタナシアの事も教えて貰った。テネブレは俺を好きではないかも知んねぇけど、リュカに関しての事だったからか、ちゃんと教えてくれた。ありがてぇ。


 テネブレが黒い光の粒になって、リュカを包むようにして身体へと戻って行った。リュカはまだぐっすり眠っている。良かった。


 今日はよく眠るなと思って、リュカの頭や顔を撫でていた。可愛くてずっと見ていられる。全然飽きねぇな。寝顔とか、たまに言う寝言とか、マジで可愛すぎんだろ……けど流石に起こさないといけない時間になったから、仕方なく優しく起こす。起き上がって抱きしめたリュカの感情を読むと、リュカの悲しい感情が伝わってきた。


 なんでだ?なんでこんな悲しい感情が……って思ってリュカの心を手繰っていくと、リュカの命を、俺がセームルグに頼んでアシュリーから取り出した事を知ったからの悲しみだと分かった。


 その事は俺が悪い。けど、リュカは俺を責めない。それでもこの事実はリュカには辛い事の筈だ。謝って許される事じゃねぇ。


 俺の為に現世に残ってくれたリュカ……その事を伝えると、リュカは「生きる意味が一つでもあれば、今はそれで良い」とポロポロ泣いた。


 愛おしい……可愛くて愛おしいてどうしようもねぇ……!


 アシュリーを想う感情とはまた違うけど、俺はリュカの為なら何でも出来る……!なんだってしてやる!改めてそんな思いが胸に宿る。

 喧嘩した訳じゃねぇけど、リュカとそうやって思いをぶつけ合って分かり合っていく。こういう事はやっぱすげぇ大事なんだな。


 今日は午前中、リュカを連れてベリナリス国へ行く事にする。その前に、装備を揃える必要がある。俺が守るのは当然だけど、自分の身を守る術を施しておくことも必要だし、簡単な剣術くらいは教えてやらなきゃな。本当は一緒に連れて行かずに、リオと一緒に勉強してて貰いたい。けど、それじゃリュカが納得しねぇ。アシュリーに似て強情だからな。


 武器として短剣も購入して、いざベリナリス国へ。


 先日リュカはベリナリス国の魔物を従わせていた。その力を広範囲に広げ、これで大丈夫だと言った。まずはそれが本当なのか、リュカと共に確認していく。そして、それがどの範囲まで効果が表れているのかも確認しなきゃいけねぇしな。


 確認しながら移動していく。前に比べて魔物の気配は殆どない。すげぇな。これがリュカの能力か……!リュカもあちらこちらへと視線を移しながら、魔物の気配を辿っているようだ。この魔物の気配を感じる、ということでさえ、かなり鍛練を重ねないと習得できない。冒険者クラスでいえば、Bランク位か。だから、こんな小さなリュカがそれを難なく出来ているという事は、本当は凄い事なんだ。


 リュカと手を繋いで、森を歩いて行く。全く気配がない訳じゃない。けど、こちらに危害を加えようとしてないのが感じられて、そうであればワザワザそこまで行って倒す意味はない。それをリュカは嫌がって従わせているんだろうからな。


 森の奥、ベリナリス国の北西の方へ行く。さっきまでしなかった気配が、一気に押し寄せるように漂っている……!ここが境界線か……リュカが魔素を変換して放った場所よりもかなり離れていた。こんだけ広範囲に行き渡らせていたんだな!すげぇとしか言いようがねぇ!


 リュカを庇うように抱き寄せて歩いて行く。


 この辺りは少し離れた場所に村がある。


 先日魔物に襲われてしまって俺が修復に行ったけど、その有り様も酷いもんだった。人があちこちに食い散らかされている様子は、まさに地獄絵図としか表現できなかった。家は壊され畑は踏み荒らされ、至るところに一部となった亡骸があって、地面は血の色で赤黒く染まっていて、漂う強烈な血のにおいと死臭……

 俺はその様子を見た瞬間、暫くは涙が出て動けなかった。こんな事をこれ以上増やしちゃいけねぇ……その思いもあって、渋々だけどリュカの同行を許したんだ。


 ゆっくり進むと、北の方から高ランクの魔物の気配がこちらに向かってやってくるのが分かる。リュカを後ろにして、幻夢境刀を抜く。

 

 この幻夢境刀はすげぇんだ。流石国宝と言われていただけある代物で、刃を向けた相手に戦力を失わせる、という作用がある。どうやら、向けた相手が望む、夢のような世界が目の前に表れるらしい。まぁ、俺は魔眼が使えるから、しようと思えば出来ない事はないだろうが、幻夢境刀はそれだけじゃねぇ。魔力を這わせてやるだけで、刀剣が強化されるだけじゃなく、俺自身も強化される。それはこちらが望むように強化させる事ができる。腕を強化させたり、防御力を上げたりする事が出来る、すげぇ刀剣だ。これを使いこなして英雄になった、と言うのが分かるな。まぁ、使いこなすにはこの刀剣が放つ『気』をこっちが先に乗っ取る必要があるけどな。


 茂みの奥からやって来た魔物はアーク・アスモネラ。でっけぇ蜘蛛の魔物だ。

 刀剣に魔力を這わせて刃を向けると同時に魔眼で魅了を発動させる。するとアーク・アスモネラはピタリと止まった。



「リュカ……コイツは強力な魔物だ。が、俺でこうやって抑える事ができるくれぇの奴だ。コイツは抑えられるか?」


「うん」


「じゃあ、魅了を解くな。大丈夫だ。俺もコイツくれぇなら問題ねぇ。」


「うん。分かった。」



 リュカが少し前に出る。俺はアーク・アスモネラへの魅了を解き、刀剣を鞘に戻す。すると、いきり立ったアーク・アスムモラがこちらに襲い掛かろうと、鎌のようになった前足を振り上げてきた。



『控えよ』



 リュカが手を前につき出して静止させるようにして一言告げると、アーク・アスモネラはピタリと止まり、その場に改まるようにして佇み、頭を下にさげた。



『人間に危害を加えてはならぬ。下がるが良い。』




 分からない言葉でそう告げると、アーク・アスモネラはゆっくりと後退りをして、そして後ろを向いてから、即座に走り去って行った。



「やっぱすげぇな……」


「ここにいる魔物は、あの蜘蛛の魔物程の者か、もう少し強いくらいの者ばかり。だから私で抑える事が出来る。」


「そうか。じゃあリュカ、頼めるか?この界隈……いや、なるべく範囲を広げて、前にしたみてぇに魔物を抑えて欲しいんだ。けど絶対に無理はしないでくれ。」


「うん、分かった。」



 リュカは俺を見て微笑むと、前にしたように、大気中に漂う魔素を自分に取り込んで、それからまた自分の中から変換させた魔力を広範囲に広げて行った。すると、さっきまであった魔物の気配は無くなっていって、静寂な森へと姿を変えた。


 やっぱりリュカはすげぇ。


 あのアーク・アスモネラも、決して弱い魔物じゃねぇ。Bランク冒険者がパーティーを組んで挑んでやっと倒せるかどうか、といったくらいの魔物だ。


 その魔物くらいであれば抑えられるって言った。それ以上に強い魔物は滅多に現れねぇ。これでこの国は、魔物からの脅威に恐れる心配が無くなったと言える。


 俺の娘はマジすげぇ。


 負けてらんねぇな。


 

 


 


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