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黒龍の娘  作者: レクフル


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分かり合うこと


 夜が更けて、エリアスの寝息が聞こえる。


 ゆっくりと目を覚まして、エリアスの顔を覗き込む。


 前に感情の読み方を教えてから、エリアスは私の感情を常に読むようになったみたい。けれど、私はエリアスの感情を読むことができなくなった。多分、エリアスは感情を読まれないようにブロックしてるとかなんだと思う。


 なんでブロックしてるのか。


 それは私に感情を、心を読まれたくないからなんだと思う。


 エリアスは私がなぜ龍から生まれる事になったのかを知っているみたい。でもそれを言う事はしない、できないと思っているようだ。


 エリアスが隠そうとするのは何故だろう……


 私は知りたい。自分がなぜそうやって生まれたのか。なぜアシュリーから生まれる事ができなかったのか。


 エリアスの額に自分の額をくっつけて、エリアスの心の中を手繰っていく。

 眠っている時じゃないとそうはできないからだ。


 深く心に入り込んで、自分の魔力とエリアスの魔力を同調させていくと、頭に映像が流れ込んできた……




 これは……アシュリー……だ……


 アシュリーがこちらに向かって笑ってる。私の視点がエリアスの視点になっている。


 様々な映像が流れ込んでくる。


 一緒に魔物を倒したり、旅?をしてる感じのもあって……あれは……王妃のウルだ。まだ幼くて可愛い。


 これは……アシュリーが綺麗な白いドレスを着て、知らない男の人と一緒に赤い絨毯の上を歩いてこっちに向かってきてる……

 近くまで来て、男の人はその手を離して……それからアシュリーがエリアスの元まで来て……


 誓いの言葉?を言って、周りが皆拍手をしておめでとうって言ってる。エリアスはアシュリーを抱き上げて、私にしたみたいに頬に口づけをして……アシュリーは幸せそうに笑って、エリアスからも凄く嬉しい感情が伝わってくる。この時、エリアスは凄く幸せを感じてた。


 それから……子供が出来たって……アシュリーがエリアスに伝えてる。でも、体力と魔力を奪うから体調は崩すけど、大丈夫だから守ってって……この子を守ってってエリアスに言ってる。エリアスも凄く嬉しそうにしてる。


 けど……それからアシュリーがずっと眠っている場面が続く。そしてだんだん痩せていく。心配しているエリアスの気持ちがすごく伝わってくる。もう一人の男の人は白いドレスの時のアシュリーと一緒にいた……アシュリーのお兄さん?ディルクって人と、セームルグが見える。子供を諦めるようにディルクがエリアスに言って……

 エリアスが泣いてる。すっごく泣いてる。守るって約束したって、でもこのままじゃアシュリーの命が危ないから……


 アシュリーが子供の名前はリュカが良いって。前に自分がそう名乗ってた事があって、その名前を気に入ってたからって。少し意識が戻ってそう言ったけどまた眠った。エリアスは迷って……凄く迷って……迷って迷って……


 そしてセームルグに頼んで私の魂をアシュリーから取り出すことにした。


 ごめんなって……こんな父親でごめんなって、無茶苦茶に泣いて何度も私に謝って、それからセームルグがアシュリーのお腹から私を取り出した。


 そうか……


 そうだったんだ……


 私は黒龍のお母さんだけじゃなく、アシュリーの命も奪うところだったんだ……


 それをエリアスが止めた。エリアスはアシュリーの事が大好きだから。


 気づくと自分の目からも涙が溢れていた。


 分かっている。エリアスのしたことは正しい。あのままだったら、私が生まれる前にアシュリーは生きる事が出来なくなったかも知れない。きっと、セームルグがいても難しい事だったんだろうな……


 だからエリアスは私に負い目があるのかも知れない。あの時、あんなに辛そうな顔をしたのは、私にこの事を言えないからで、そして自分のしたことを今も許せてないからだ。


 でも私は生まれてきた。あの時命が無くなった筈なのに。セームルグが私の魂をアシュリーから取り出したのに、どうして私は生まれてきたんだろう?


 アシュリーから体力と魔力を奪って成長したけど、それでは足りなかった。だから奪っても大丈夫な龍に……黒龍のお母さんの元へ行ったの……?でもお母さんもお父さんも、私がその命を奪った。そうじゃないと私は生きられなかったから……?


 でも、そうまでして私が生きる意味があったの?


 色んなものを犠牲にして、なんで私が生きてるの?


 そう思うと、涙がポロポロ溢れてどうしようもなくなってくる……


 エリアス……


 エリアス……


 私、このままで良いのかなぁ……?


 考えてもどうしようもないのに、エリアスのそばを離れる事もできない癖に、そんな虚しい思いだけが胸を埋め尽くす……


 不意にエリアスが私をギュッて抱きしめる。そのまま私はエリアスの胸に顔を埋める。



「リュカ……」


「え……」


「ごめ……な……ごめん……」


「エリアス……」



 見上げると、エリアスの閉じた瞼から涙が零れ落ちた。夢を見てるの?私を手離した、あの時の夢……?私があんな事を聞いたから?


 エリアスは私よりアシュリーを選んだ。それは仕方のない事だった。それを責めるつもりはない。けど、矛盾した思いも胸に残る。私は一番じゃなかった。エリアスの一番じゃない。それはそうだ。分かってる。分かってた。分かってたのに……


 悲しい気持ちが止まらなくて、同じように涙も止まらなくて、声が出ないように、エリアスに気づかれないように両手で口を抑えながら、愛を乞うようにエリアスの胸に顔を埋め、その体温を感じる。


 これ以上何を求めるって言うの?私には過ぎるくらいに、エリアスは私に愛情を注いでくれている。それはすごく伝わってくる。なのに、一番じゃなかったという事実が私を苦しくさせる。


 いつの間に私はこんなに我儘になったんだろう?今こうしているだけで、充分幸せなのに……


 自分でもどうすれば良いか分からない感情を胸にしながら、その夜はなかなか寝つけなかった。


 朝、いつもは私の方が早く起きることが殆どなんだけど、遅くまで起きてしまったせいでなかなか起きれなかったのを、エリアスが優しく起こしてくれる。



「リュカ……リュカ?」


「ん……」


「どうした?まだ眠いか?」


「え……うん……眠いけど……起きる……」


「珍しいな。いつもは俺より早いのに。」


「うん……おはよう、エリアス……」


「おはよう、リュカ。」



 起き上がると、エリアスが私を抱きよせてギュッてする。けど少しして、エリアスは私を離して驚いた感じで、それから悲しそうな顔をして私を見た。



「リュカ……俺の記憶……見たのか?」


「うん……ごめんなさい……」


「いや……謝るのはリュカじゃねぇ。謝るのは……」


「ううん!いい!エリアスのした事は間違ってない!だから謝るとかはしなくていい!」


「けど……」


「分かってるもん……仕方のなかった事って。エリアスのした事は正しい。あのままだったら、きっと私はアシュリーの命も奪ってた。だからこれで良かったと思う。だからもう気にしないで……」


「いや、これは俺が悪いんだ。アシュリーもリュカも、何も悪くない。俺が決めた。俺がリュカの命を奪った……謝って済む問題じゃねぇ……我が子の命を……父親である俺が守ってやれねぇで……!」


「エリアス……」


「昨日リュカは「生まれて良かったの?」って聞いたけど、俺がリュカを引き留めたんだ。天国へ還ろうとするリュカの魂を、俺が引き留めた。だからリュカはこの世に留まってくれたんだ。でもそのせいでリュカは龍から生まれる事になって……」


「エリアスの為に……?」


「あぁ……俺、アシュリーに先立たれて、暫くは何をする気にもならねぇで自暴自棄に陥りそうだったんだ。けど、リュカの魂が現世にあるって天へ還る前にアシュリーに教えて貰って、リュカがどこかで生きてくれてるって思えたから、俺は正常でいられたんだ。」


「そうなの?」


「リュカがいなかったら、俺もアシュリーの所に行きたいとさえ思ってた。リュカは俺の生きる糧となったんだ。だから……リュカがいねぇと俺が困るんだよ……」


「一番じゃない……」


「え?」


「リュカはエリアスの一番じゃない。一番はアシュリー。」


「……それは……けどっ!」


「うん。分かってる。でも良い。アシュリーだったら……良い。」


「リュカ……」


「エリアスが望んでくれたんだったら、それで良い。私が生きる意味が一つでもあれば、今はそれで良い。」


「うん……生まれてきてくれて、俺の子になってくれてありがとな。今リュカがここにいてくれる事が、俺はすげぇ嬉しい。」


「私も……他の人間じゃなくて、エリアスが親で……お父さんで良かった。」


「……っ!」



 知らずにポロポロ涙が溢れて、そしたらエリアスもボロボロ泣いてて、二人でそうやって泣いてるのが逆におかしく思えて、顔を見合わせて思わず笑っちゃった。

 それから二人で抱きしめ合って、お互いの涙を拭き合った。


 そうやって二人で泣いたら、何だか少し気が晴れたようでスッキリした。


 うん。こうやって、思ってる事は言い合った方が良いんだな。きっと。感情を読むだけじゃなくて、言葉で繋ぐ事も大切だっていうのが今分かった。だって、人間には言葉という伝える方法があるんだから。


 その後朝食を摂って、いつものようにエリアスは一旦家に帰る。暫く経ってから帰ってきて、ゾランに午前中はリュカと行動するって伝えてから、空間移動でインタラス国へやって来た。

 そこで、私の防具を一式買って貰った。肩当てと胸当てを装着して、外套も羽織る。エリアスはそんな私を見て、「ちっちぇアシュリーだ!」って言って喜んだ。


 それから武器屋へ行って、護身用に短剣を買って貰った。「使い方もちゃんと教えるからな」って言われて、私も同行する者としてちゃんと扱って貰えてる感じがして、それが凄く嬉しくなった。


 今日はベリナリス国へ行くって。そこで魔物の気配を感じ取って、それから私が抑えられるかどうかを試すんだって。けど、「決して無理はするな」って、何度も念を押される。心配してくれる気持ちが、心を読まなくても分かってきて、その事が嬉しく感じる。


 うん。無理はしないよ。だって、私がいなくなるとエリアスが困るんだもんね。だから自分を大切にする。


今はそう思うことにする。







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