義父
シアレパス国に行き、ムスティス・クレメンツ公爵に会えるよう漕ぎ着けた。
もう一度、不死身の魔物『フレースヴェルグ』の事を聞いてみたかったからだ。
「エリアス殿!今日も私に何か用でもおありかな?」
「昨日の今日ですまねぇな。もうちょっと詳しく聞きたくてな。」
「昨日言ってた、フレースヴェルグの事なのか?」
「あぁ。不死身の魔物って奴だよな?」
「まぁ、そういう伝説があるだけで、実際はどうかは分からんが……」
「それでも良いんだ。どんな魔物なんだ?」
「昨日も言ったが、大きな鷲のような魔物でな。風を操る術を持っている、とされている。」
「風、か……」
「主に好んで死体を喰らうとされていてな。今は東の方の地域から報告が挙がっているが、ここより北の方の地域に馴染みがある魔物でもある。」
「そうなのか?」
「フレースヴェルグは、こちらから何もしなければ危害を加えるような事はしないとされている。北の方では、埋葬方法がフレースヴェルグへの供物となっている地域もあるくらいでな。神聖化されてもいるな。まぁ、知らん者からすれば、魔物に死体を喰わせている、と思われても仕方がない事なんだがな。」
「そんな扱いなんだな……」
「その姿を見た、と言う報告は今まで全く無かった。本当にいるのかどうかも分からなかった、まさに伝説の生き物だったのだ。容貌だけ語り継がれていてな。だから、その報告のあった魔物が本当にフレースヴェルグなのかどうかも、今のところ不明だ。」
「そうなのか……もし、な?」
「ん?」
「もし、その伝説の魔物を……フレースヴェルグを討伐した、とかなったら、なんか困る事とかはあんのか?」
「いや……困る、とかではないが……死体を供物とする事を埋葬方法としている地域からすれば、困る事もあるかも知れんが……そんな場所はそんなにないし、本当にフレースヴェルグがその死体を喰らっているのかも分からん状態だしな。……倒すつもりでいるのか?」
「……まぁ……そのつもりだ。」
「害はない魔物だぞ?」
「らしいな……」
「何か事情でもありそうだな。」
「まぁ、な……理由は言えねぇけどな……」
「エリアス殿が興味本意でそのような事を言い出すとは思えん。余程の事情があると推測するが……討伐するとなったら、あのレベルの魔物であれば小隊では足りんかも知れん位の戦力が必要だぞ?」
「小隊なんて動かせねぇ。これは俺の私情で動く事なんだ。だから俺一人で討伐に向かう。」
「いや、それはいくらなんでも無謀だろう?!オルギアン帝国のSランク冒険者とは言え、巨大な魔物を一人で等……!しかも不死身とさえ言われておる魔物だぞ?!」
「そうだな……倒せずとも、従わせられりゃ良い……いや、その方が厄介か……」
「悪いことは言わん!フレースヴェルグを討伐する等、止めておくんだ!」
「こっちにも引き下がれねぇ事情があるんだよ……心配しねぇでくれ。この国には迷惑はかけねぇよ。」
「そんな事を心配しているんじゃない!……いや……もし討伐に失敗して、フレースヴェルグを怒らせでもしたらどうなる?!村や街を襲う可能性も出てくるんだぞ?!」
「それは俺の命にかえても止めてみせる……!」
「エリアス殿には守る者がいるだろう?!命無くして、我が子をどう守ると言うのか!」
「そのリュカを守る為に必要な事なんだよ!!」
「……そうなのか……?」
「あ、いや……!」
「……どうなってそんな事になっているのかは分からんが……しかし……」
「頼む!この国には迷惑はかけねぇ!何としても被害が及ばねぇようにする!だから俺がフレースヴェルグを討伐にするのを静観しててくれねぇか?!」
「静観等……出来るわけがない……」
「頼むっ!!」
「とにかく、フレースヴェルグが本当に存在するのか確認するのが先決だ。それから、もし居どころが確認できたら即座に報告してもらう。戦闘となる場所は事前に聞いておく必要もある。その近隣の住民を避難させなければならんかも知れんのでな。」
「え……それじゃあ……」
「まだ仮定の話の段階だ。被害を加える魔物であれば頭を下げて願うところだが、触らぬ神に祟りなしの状態だからな。賛成はしない。だが……娘の為と言われれば……最善を尽くすのが親というものだからな。」
「……すまねぇ……!」
「私にも仮であったが娘がいた。実際に生活を共にしたわけではないが、娘という存在は別格だな。一瞬でも娘と名乗って貰えた事を、私は嬉しく思っていたんだよ。」
「ムスティス公爵……」
「先立たれてしまったがね。娘を持てた親として、幸せを感じたのは事実だ。それが我が子ならば尚更だろう。」
「……すまねぇ……」
「まだ何も分かって等いないだろう?すぐに調査すると良い。私も情報を得るように協力しよう。」
「ありがとう!この恩は必ず……!」
「私はまだ何もしていないぞ?それに、オルギアン帝国に少しでも恩が売れるのであれば、この機会を逃す訳がないだろう?」
「ハハハ……流石だな……いや……感謝する!」
流石はアシュリーの義父だ。ディルクと友情関係を築き、シアレパス国と友好を結んだが、ディルクはそうやって近隣国を友好的に属国としていった。だからオルギアン帝国のSランク冒険者の俺の事を信用してくれてんだろう。今回はディルクの功績が大きかったのかも知んねぇ。
ムスティスに深々と礼をして、すぐにシアレパス国から東にある場所へと向かう。行ったことはねぇ場所だから、知ってる近くの場所から向かうことにする。
風の精霊ストラスを呼び出す。足に風邪を纏い、ストラスと一緒に颯爽と駆けて行く。走りながらストラスに聞いてみる。
「ストラス……フレースヴェルグって魔物、知ってっか?」
「うん、知ってるよ?」
「そうか……!その魔物は不死身なのか?!」
「うーん……それはどうか分かんない。けど、私が生まれるより前から存在するのは知ってるよ。」
「ストラスは生まれてどのくらいなんだ?」
「女性にそんな事は聞くもんじゃないんだぞ?!」
「そうだろうけど……!」
「ふふ……冗談だよ!……そうだなぁ……三百年程かな……」
「三百年……!そんなに、か……」
「年増だとか思ったのー?!」
「いや、そんな事は……!けど、フレースヴェルグはそんな前から存在すんだな。」
「そうだね。もっと昔からいる精霊なら知ってるかもね?」
「もっと昔からいる精霊……?」
「テネブレとか。」
「そうなのか?!」
「うん。あれはかなり昔から存在する精霊だからね。」
「そうか……あ、それと、フレースヴェルグは風を操る術を持っている、と聞いたが、それはどんな感じなんだ?」
「えーっとねー。羽ばたく時に風が起こるって言われてるよ。大きな竜巻なんかも楽に作り出せんじゃない?実際に見た事ないから分かんないけど。」
「そっか……分かった。ありがとな。」
三百年前からいる魔物……いや、三百年以上生きてるかどうかは分かんねぇ。けど、期待はできる。
さっきよりも気が急いて、更に速く走って行く。ストラスも嬉しそうについてきてくれる。
暫く走って、教えて貰った山脈の麓にある村へやって来た。
そこは小さな村で、山に行く者達の為の宿舎や山登りの為の用具を置いてる店が多く、食堂なんかも多かった。俺が生まれた村に似ている。そこで色々聞いて回ることにした。
丁度昼頃だったから、食堂に入って昼食を摂る事にする。おすすめの定食を頼んで、辺りを見渡す。山に行くような格好をしている者が多く、鉱山で働いてるような奴等も見掛ける。そんな大きな村じゃねぇけど、賑わってるみてぇだな。
隣に座っている男二人組に話し掛ける。
「なぁ、聞きてぇんだけど。」
「ん?なんだ?」
「アンタ達はここら辺の人か?」
「あぁ。鉱山で働いてるもんだが。」
「最近ここら辺でフレースヴェルグって大きな鷲みてぇな魔物を見たって噂を聞いたんだけど、知らねぇか?」
「そういや前に見たって奴がいたな……」
「そいつは何処にいるんだ?!」
「ここにはいねぇよ。行商で来た奴だったからな。村から村へ馬車を走らせてる時に、凄い風が起きて、馬車も吹き飛ばされそうになったらしいんだ。で、竜巻でも起きたのかって思って馬車から外を見たら、大きな鷲みたいな魔物が飛んでたって言ってたよ。」
「その魔物は何処へいったんだ?!」
「それは知らねぇよ。ただ……」
「ただ……なんだ?」
「前日に土砂災害があってな?何人も犠牲になったらしいんだよ。もしかしたら、その犠牲者の亡骸を求めて飛んできたんじゃねぇかって話をしてる奴もいてたな。」
「死体を喰らうから……か?」
「俺が見た訳じゃねぇし、どこまで真実味があるとかは分かんねぇけどな?」
「そうか……いや、参考になった。ありがとな!」
なるほどな。死体を求めてやって来た可能性があるのか……この辺りに来る行商人も探すか。
食堂を出てからも、フレースヴェルグの事を聞いて回る。が、最初に聞いた情報以上の事は聞けなかった。行商人についても聞いてみると、それは割りと早くに何処の誰、というのが判明した。
ソイツにも会って話を聞かねぇとな。
それと、テネブレにもだ。
闇の精霊テネブレ……
神にも匹敵する程の力を持つと言われている、すげぇ強力な精霊だ。その精霊が今、リュカの中にいる。リュカが眠ってからでも聞いてみようか。
けど、テネブレは好き嫌いが激しそうだからなぁー……
俺は好かれてなさそうだからなぁー……
とか言ってらんねぇ事態だ。聞き出すしかねぇ。リュカを守る為にテネブレも協力してくれるはず……と信じる事にしよう……!




