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黒龍の娘  作者: レクフル


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我がの儘


 エリアスと、アシュリーの命日だって言うことで、最後の日に行った場所へと赴いた。


 ベリナリス国で魔物を討伐すると言ったエリアスは、申し訳なさそうに私を見る。私を気遣ってくれてるんだな……


 森に行くと、魔物の気配があちこちから感じられる。こんなにいきり立った魔物達の気配がこんなにも多く感じられるなんて……


 この辺りの魔素を取り入れて、自分の体の中を循環させて、自分の思考を乗せて広範囲に放つ。それは私から波紋を広げて行くようにして、ベリナリス国の半分程を覆うように広がって行った。


 エリアスは魔物はそういうモノだから、この状況になっているのを気にするな、と言う。けれど、私があの場所から……魔物の巣窟と言われていた場所から逃げ出したから、今こうなっているんじゃないのだろうか……


 それで犠牲になった人間がいるのなら、それは私の責任じゃないのだろうか。そんな思いが胸を締め付けていく……


 エリアスは優しい。エリアスの周りにいる人達もみんなが私に優しい。けれど、私はそれに甘えていていいのだろうか?私は奪ってきてばかりで、誰かに何かを与えてあげる事はしてこれなかった。奪うだけ奪って、それで与えて貰ってばかりだ。


 今は過ごしやすい環境と知識を与えて貰っている。それと、エリアスからの愛情をいっぱい貰っている。けど……私は返せているのかな?私には何ができるのかな……?


 エリアスが仕事中の時は、ミーシャの部屋でリオと一緒に勉強している。今はミーシャではなく、リオについてる講師に教えて貰っている。勉強は楽しい。知らないことばかりで、知っていけるのが凄く楽しいし嬉しい。


 時々、マドリーネが帝都へ連れていってくれる。そこで物の購入の仕方や交渉の仕方を教えてくれたりする。良い物の見方や選び方なんかも一緒に学べて、そうやって帝都を歩くのが凄く楽しい。


 魔物と人間の暮らしは違う。違いすぎる。人間は知識が多く賢いから、色んな事が出来るし、それを生活に取り組んでいける。けど魔物はそうじゃない。魔物に限らず、動物もそうだ。ただ生きる為に獲物を狩り、家族を守り生きていく。勿論、強者に従う等の序列はある。けれど至極単純だ。


 私は人間だ。それはこうやって生活してきて、自分がそうだと身に染みて理解できた。だから魔物と暮らすということは、今は考えられない。例えば、もしお父さんが生きていて、私と一緒に暮らしたい、となれば私はそれを受け入れられる。けれど生まれ育っていない場所で生活するのなら、それは魔物のそばではなく人間のそばが良い。


 だけど、その人間が今魔物に脅かされている。私はそれをどうにかでにる術を持っている。私がそうすることで助かる人間がいるのであれば、その力を使う事は当然の事ではないのだろうか?


 エリアスは魔物を討伐する。そして、魔物の被害があった村や街へ行って、手助けをしている。それは私の尻拭いをしているんじゃないのだろうか。エリアスは勿論そんな事は言わない。けど、客観的に見るとそういう事なんだ。


 久しぶりにエリアスと一緒に行動して、気づく事が多くあった。エリアスはこの事を気づかせたくなくて、私を一緒に連れて行きたくはなかったんだろうな……


 トネリコの木でエリアスと二人寄り添って、夜空を見上げながらそんな事を考える。私を膝に乗せて後ろから抱きしめてくれて、アシュリーとの思い出に浸っているエリアスに、今はそんな事は言えなかったけど……




 翌朝、いつものように目覚める。こうやってエリアスと一緒に寝て、朝の光りに目覚めるのにも慣れてきていて、でもそれが当たり前の事だと思わないようにしなくちゃ、と気を引き閉める。


 まだ眠っているエリアスの頬を両手で挟んでギュウーってする。エリアスの唇が尖って、変な顔になる。私の手を取って、エリアスがゆっくりと目を開ける。



「こら……また遊んでんのか……?」


「ふふ……唇がギュッてなった!」


「お返しだ。」



 エリアスも私の頬を挟んで、ギュウーってして、親指で鼻を上に向けたりした。



「これはこれで可愛いな……」


「うー……やーめーてー」


「ハハハ……リュカ、おはよう。」


「エリアス、おはよう。」



 二人目を合わせて、ニッコリ笑い合う。こういうのがいつまでも続けば良いなって思う。

 起き上がって、まだ微睡(まどろ)んでいるエリアスを見下ろす感じで、意を決して言ってみる。



「エリアス、あのね、お願いがあるの。」


「ん?どうした?何か欲しい物でもあんのか?」


「ううん、そうじゃなくてね、その、ね?えっと……」


「なんだ?言いにくいことか?」


「うん……でも、必要だと思うから……」



 エリアスも起きて、ベッドの上で向き合った感じで、私の目をしっかり見て話をちゃんと聞こうとしてくれる。


 

「エリアスの仕事に、私も一緒について行きたい。」


「え?なんでだ?勉強が嫌になったのか?!」


「ううん、そうじゃない……」


「じゃあ、なんか嫌な事があったのか?!」


「そういう事じゃなくて……」


「誰かに嫌な事を言われたのか?!誰だ!何を言われたんだ?!」


「ううん、そうじゃないって……」


「じゃあ何かされたのか?!なんだ!何があったんだ!」


「だからそうじゃないんだって!」


「けど……!」


「エリアス、聞いて!」


「あ、うん……分かった……」


「昨日ね……ベリナリス国で魔物の驚異があることを知って……私ならそれを止める事ができるから、そうしたいって思って……」


「いや、それは……リュカはそんな事は気にしなくていいんだ。ここで勉強してくれてたらそれで良いから……」


「でもそれで魔物の犠牲になった人もいるんでしょ?!それは私があの場所から逃げたから!」


「そうじゃねぇ!リュカは関係ねぇ!」


「関係ある!凄く関係ある!」


「リュカは何も気にしなくていいんだ!俺はリュカにそんな事はさせたくねぇ!」


「けど!それじゃ犠牲になって亡くなった人は?!エリアスは回復魔法で傷は治せるけど、亡くなった人は生き返らせない!私ならそれも出来る!魔物を従わせる事だってできる!」


「……俺が力不足なのは百も承知だ……けどリュカはまだ子供だ!そんな事を考えずに、勉強したり遊んだりしていい年齢なんだよ!今までだって人として生活してこれなかったのに、またそんな事……!」


「今までの事は仕方のなかった事だし、私は気にしてないもん!」


「俺が気にするんだよ!」


「エリアス……でも……!」


「なんで、んな事言うんだよっ……!」



 エリアスの手にそっと触れる。何かを我慢してるのか、手をギュッて握り締めて何とか堪えようとしてるみたい……私はきっとエリアスにワガママを言ってるんだ。けどこれは引き下がれない……!



「私、今こうしてエリアスと一緒にいられる事が凄く嬉しい。でも、私に出来る事……私にしか出来ない事をしなくちゃって思う。私はして貰ってるばかりで、何も返せてない……」


「俺だって……!リュカに何もしてやれてねぇよ!もっと笑わせてぇし、楽しんで貰いてぇし、幸せを感じて欲しいんだよ!」


「私は充分幸せだよ?充分過ぎるくらい……だからね、だから私も何かしたいって思うの。」


「けど……!」


「私なら魔物達を従わせる事が出来る。そうしたら、もう誰も被害に合わない。それは私にしか出来ない。」


「リュカ……」


「勉強もする!だってもっと知りたい事がいっぱいあるもん!でも、これ以上魔物の被害に合う人を増やしたくない!それはエリアスも一緒でしょ?」


「そうだけど……!」


「お願い……エリアス……」


「なんで危険なところに自ら行こうとすんだよ……俺がどんな気持ちになると思ってんだよ……」


「ごめんさい……でも……」


「リュカをあの場所に連れて行かなきゃ良かったか……」


「私は連れて行って貰えて嬉しかった!何も知らずにいる方が嫌だもん!だからエリアス……!」


「……そんな目で見るなよ……」


「無理はしないから……ね?」


「……ったく……こんなところは似なくて良かったのによ……」


「え?」


「言い出したら聞かねぇところとか……アシュリーと一緒だな。ソックリだ。」


「エリアス……」


「分かったよ……けど、危険な場所には連れて行かねぇ。無理はさせねえ。毎日は連れて行かねぇ。俺の指示には従って貰う。」


「うん……」


「俺にはリュカより大切なもんなんてねぇんだからな?!」


「うんっ……!」


「頼むからもう俺の前からいなくならないでくれ……!もう俺を一人に……」


「エリアス……」


「ハハ……結局俺は自分の事ばっかり……」


「違う!それは違うっ!」



 エリアスの気持ちが凄く伝わってくる……私を大切に思ってくれる気持ちと失いたくないって気持ちが……


 目が潤んだエリアスは下を向く。思わずエリアスに抱きついてしまう。


 私だって……もう一人になんかなりたくないよ……


 でも、自分だけ何もせずに楽しくしてる、なんてことは出来ないって思った。だって、この状況を作り出したのは私なんだから……

 

 私が出来る事をするだけなんだ。


 私を見て、エリアスは悲しそうに笑う。それから私をギュッて抱きしめる。


 ごめんなさい、エリアス……


 ワガママな娘で……ごめんなさい……


 

 




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