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黒龍の娘  作者: レクフル


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一年に一度


 リュカが俺の元へ帰って来てから、数ヶ月の月日が流れた。


 俺は相変わらず魔物が出たと言う場所へ赴き討伐していく、という日々を送っている。


 魔物に襲われた街や村の修復に駆り出される事も日々多くなってきている。日に日に魔物が活発になってきているようだ。


 これはラミティノ国だけじゃなくて、アーテノワ国、オルギアン帝国、ベリナリス国に渡っていて、少しずつその範囲が広がってきているようにも思える。


 ただ、ベリナリス国やオルギアン帝国には、魔物を討伐できる対策がすでになされていて、これは然程大きな問題とはなっていない。


 とは言え、この状況は楽観視できる事ではなく、その原因を探る調査隊が各国から誕生している。その中で、オルギアン帝国のみがその調査には乗り気じゃなかった。


 なぜなら、その原因のおおよその見当はついている為だからだ。


 だから俺が率先して動く。


 魔物の被害があった場所へは、俺がすぐに行って修復させる。それでも亡くなった人もいるのが現状で、それには申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


 不死身の魔物の情報はさっぱり無い状態だ。


 行く先々で、噂でもなんでも、伝説なんかでも良いから聞いて回るんだけど、なかなか情報は得られなかった。


 そんな風に忙しく日々を送っていた中で、今日は特別に休みを貰った。


 

「エリアス、今日は休み?」


「あぁ、そうだ。」


「ふふ……嬉しい!一緒にいれる!」


「そうだな。リュカと一緒に行きたい場所があるんだ。」


「行きたい場所?どこ?」


「今日はアシュリーの命日でな……」


「めいにち?」


「この世を去った日の事を命日って言うんだ。」


「アシュリーの命日……」


「一緒に行きたい場所があるんだ。いいか?」


「うん!」



 空間移動でベリナリス国へやって来た。ここで魔物を討伐していくが、本当はリュカにそんなところを見せたくは無かったんだけどな。


 木が鬱蒼と茂っている森を歩いていると、魔物の気配がした。

 リュカを抱え上げて、急いで魔物がいる場所まで駆けて行く。そこにはコカトリスがいた。この魔物は石化してくるが、俺はある程度の状態異常を防ぐ事はできる。けど、リュカはどうか分かんねぇから、これは早く倒しておかなきゃな……


 と思っていたら、リュカはコカトリスとしっかり目を合わせた。するとコカトリスは急に大人しくなり、ゆっくりと頭を垂れた。それを見たリュカは俺の方を向いて、ニッコリと微笑む。



「もう大丈夫。何もしない。けど、この辺りは魔物が多いね。」


「あ、あぁ……そうみてぇだな……」



 リュカはそう言うと、目を閉じて大きく息を吸って、それから空に向かって両手を上げる。大気中にある魔素が集められてるのが分かる。やっぱりリュカは魔素を操れるんだな……!俺も操る事はできる。けど、これは精霊の石の力だ。自分の力じゃねぇ。ってなると、リュカはすげぇ力の持ち主って事になる。


 暫くそうして魔素を集めてから、一旦自分の中にそれを受け入れて、それからまた放出していく。リュカから出たそれは、取り入れた状態の魔素とは異なった感じがする。


 それを広範囲に行き渡らせるように放っていく。徐々にその範囲は広がっていき、そうしていると魔物の気配が無くなっていった。



「リュカ……何をした……?」


「魔物達に人間を襲わないように、私の意思を乗せて伝えた。これで大丈夫。」


「すげぇ……すげぇな!」


「それが役目だったから……」


「それは……リュカはそんな事は気にしなくて良い。けど……ありがとな。」


「ううん……でも……私が勉強している間、魔物達はこうも活発になっていたんだね……」


「それが魔物ってヤツだろ?リュカが気にしなくても良いことだ。」


「でも……」


「大丈夫だって!あ、ここに来たらニレの木まで行こうぜ!あそこは俺とリュカが出会えた場所だからな!」


「うん!行く!」



 空間移動でニレの木まで行って、魔力を取り入れながらゆっくりと過ごす。ここはリュカとの思い出もあるけど、アシュリーとの思い出の場所でもあるんだ。やっぱりここにいるとすげぇ癒されるな。


 暫くリュカと二人でそこにいて、俺とアシュリーが出会った頃の話とかをしていた。リュカは嬉しそうに、興味深そうに聞いてくれている。それがすげぇ楽しかった。


 それから一旦オルギアン帝国に戻り、ディルクとアシュリーの眠る墓地へと行った。そこに花を添えて祈っていると、ミーシャとゾランと、それと現皇帝の王妃である、エルフのウルリーカも花を持ってやって来た。


 ウルリーカ王妃……俺はウルって呼んでるけど、俺とアシュリーの三人で旅をしていた事もあって、ウルはアシュリーを自分の姉の様に慕っていた。俺の事も「兄ちゃ」って呼んでくれる。そして俺とアシュリーが夫婦だと知る、帝城では数少ない人物の一人だ。



「この子が姉ちゃと兄ちゃの……?」


「あぁ。今は幻術で顔を変えてないから分かるだろ?アシュリーにソックリなのが。」


「うん……!ホンマに……!姉ちゃが小さくなってここにおるみたい……!」


「ねえちゃ?」


「この人はウルリーカって言って王妃でな。でも、アシュリーの事をお姉さんって慕ってたんだ。俺たちは皆仲良しだったんだぞ?」


「うるりーかおうひ?」


「ウルでええで?可愛いなぁ!ホンマにめっちゃ可愛いなぁ!」


「だろ?!俺の自慢の娘だ!」


「ウル、ありがとう。」


「たまらんわー!マジで可愛い!なんかあったらあたしに言うてな?今の立場やったら、ある程度の事はしてあげられるしな!」


「大丈夫、みんな優しいから。エリアスも、ゾランもミーシャも。でも、ありがとう。」



 皆でそうやって話をして、ウルの一声でその場所で昼食を摂ることになった。瞬く間にテーブルやら椅子やら食事やらが用意されて、皆で思い出話をしながら楽しく食事をした。


 それからインタラス国のギルドへ向かい、ギルド長とか職員にリュカを紹介する。俺はアシュリーと出会うまではここでずっと冒険者として仕事をしていた。だからここには俺の知り合いがいっぱいいる。

 皆リュカを見て、アシュリーにソックリだと言って涙ぐんだ。皆、アシュリーの事を思ってくれてたんだな。


 ギルドを出て俺が贔屓にしている武器屋へ行き、そこでもリュカを紹介する。おやっさんは嬉しそうにリュカを抱き上げてた。突然そうされたリュカはビックリしてた。


 その後、俺とリュカはシアレパス国へ行く。そこで、アシュリーの仮の父親であるムスティス・クレメンツ公爵に会う。この国の王族は(まつりごと)には関わっておらず、各貴族にその統治は任されている状態の中で、一番の権力と実力を持つのがこのムスティス・クレメンツ公爵だ。 


 そこで挨拶をしてから、この国の情勢を確認する。そう言えば最近はこの国には来ていなかったな。魔物の被害が多いのはアーテノワ国の周りの国で、遠く離れるこの国からの被害報告はほぼ無い状態だったからな。


 

「いやぁ、エリアス殿にこんな可愛らしい娘さんがおったとは……エリアス殿によく似ているんだな!」


「まぁ、な。で、最近はどうだ?この国から魔物の被害報告は上がってねぇけど、実際どんな感じだ?」


「そうだな……全く無いわけではない。が、その土地を統治する貴族が抱えている冒険者や兵で賄えてるようだ。今のところは問題はない。」


「そうか。なら良かった。」


「ただ一つ気になる事はある。」


「それはなんだ?」


「最近、ある魔物を見た、と言う情報が相次いでな。」


「ある魔物……それは?」


「この辺りじゃ伝説と言われている魔物でな。被害にあったとか、そういう訳ではないんだが、皆恐れていてな。」


「それはどんな魔物なんだ?」


「フレースヴェルグと言ってな。大きな鷲の様な魔物だ。ソイツは死体を喰らうと言われていてな。その事もあってか、不死身の魔物とも言われている。」


「なにっ?!不死身の魔物だって?!」


「そう言われているだけで、本当にそうかどうかは分からんがな。」


「ソイツは何処で目撃されたんだ?!」


「なんだ?!いきなりっ!」


「あ、いや、ちょっと気になってな……で、どの辺りでの報告が多いんだ?!」


「ここから東の方へ行った場所でな。国境沿いに山脈があるんだが、その麓にある村や街からの報告が多いな。」


「そうか……!そうか!ありがとう!マジでありがとうっ!!」


「いや……なんでお礼とか……」


「あ、いや、こっちの問題だ!気にしねぇでくれ!あ、でも、その魔物の事はまた後日聞きに来る!今日はまだ行くところとかあるからな!」


「あぁ……それは構わんが……」



 すげぇ……!すげぇ!ここでこんな情報が得られるなんて……!これはもう、アシュリーのお陰だとしか言いようがねぇっ!


 不思議そうに俺を見ているリュカを抱き上げて、思わず頬に口づけしてしまう!

 ソイツがどうとかはまだ分かんねぇけど、ちょっとは望みを持っても良いだろ?!


 ムスティスも急にテンションの高くなった俺を変な感じで見ていたけど、そんな事は気にせずに礼を言ってその場を後にする。

 

 その後、崖から海を眺める。シアレパス国は海沿いにある国だからこうやってすぐに海を眺める事はできるけど、リュカは海を見たのが初めてだったようで、凄く驚いた顔で「水がいっぱいで広い……」と感動したように言葉を詰まらせながら言っていた。


 次に温泉街にある孤児院に行き挨拶をして、知り合いの家の前を通り、それから秘湯と言われる温泉にリュカと一緒に入った。リュカは「外にあるお風呂!」って言って凄く喜んでいた。


 それからまたインタラス国に行きイルナミの街を訪れる。そこの孤児院に挨拶をして、そこでもリュカを紹介して、軽くシスターと話をしてから、イルナミの街から出て暫く行った所にある、トネリコの木までやって来た。


 そこにリュカと二人で座って空を見上げると既に陽は落ちていて、満天の星が輝いていた。



「綺麗……お空が明るい……ここには星がいっぱいあるね……」


「そうなんだ。今日行った所はな?アシュリーと最後の日に行った場所なんだ。俺は毎年命日に、同じようにして過ごす事にしてるんだ。」


「そうなんだ……」


「ここで一緒に満天の星空を眺めてな。それからアシュリーは旅立ったんだ……」


「うん……」


「なんか、ごめんな?こんな事に付き合わせて……けど、リュカと一緒に来たかったんだ。」


「ううん、嬉しい。私もここにいれるのが、いて良いのが嬉しい。」


「リュカ……ありがとな……」



 アシュリーがこの世を去ってから三年。未だ俺はアシュリーを想い続けている。多分この気持ちは一生続くんだろう。


 今はリュカがそばにいてくれてる。そのリュカもこのままじゃ、あと数年の命かも知んねぇ。それは俺が何がなんでも防いでみせる。


 やっと不死身の魔物の情報が得られた。明日は早速シアレパス国の東にある山脈に行ってみるか。


 けど今はこれ以上考えないようにして、満天の星空を眺めがから、この幸せなひとときに身を委ねることにした……





 

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