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黒龍の娘  作者: レクフル


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力不足


 貴族やら王族に囲まれて、歌えや騒げの大宴会。街が魔物に襲われた後だってのに、こんなことしてて良いのか?!まぁ、これはみんな俺の為にしてくれてる事なんだろうけどな。


 国王に、今後の対策をどう考えてるのかを聞くと、兵や戦士の強化、街や村の外壁の強化、魔術師の育成に力を入れる、等の答えが帰ってきた。



「この国の冒険者とかはどうなんだ?」


「少なくはない。が、多くもない。それに、ランクが高い者が少ないのも現状でな。今まで街が魔物に襲われる事もなかったが、出没する魔物のランクも高くはなかったのだ。だから、強さを求めて冒険者達は、ある程度の力を身に付けると他国へと行ってしまう。」


「成る程な……俺でもそうしてたかも知んねぇな。」


「昨日から魔物の被害の報告が上がってきている。まだ然程多い訳ではないが、今までこんなことはほぼ無かったのでな。早急に対策せねばならぬ状況にきていると考えられる。」


「ならこんな事してらんねぇだろ?」


「それはそれだ!英雄をもてなす事もせんで、誰が英雄になりたいと思うのか!貴殿は憧れであり、目標となる存在なのだ!それを見せつけないといけないのだ!」


「分かったよ……とにかく、魔物の被害が出て、それに対応出来なかった時はまた呼んでくれ。俺で出来る事なら何でもする。あと、育成の方も頼むな?それから、魔物討伐の依頼金を高めにしてやってくれ。冒険者はそれで一気にやる気になるからよ。」


「我が国を気遣って頂けて感謝する!何か褒美を……」


「いや、だからもうこれで充分だ!これ以上なにもいらねぇから!」


「では我が娘と縁談を結んで頂く事は……」


「それも断らせて貰う!俺は一人の女しか愛せねぇから!そんな器用じゃねぇんだよ!」


「なんと……惜しい男よ……何とか縁談を結び、自国に取り入れたいと考えておったのだが……」


「ハハハ、アンタ変わった王様だなぁ。考えを全部口に出すって!気に入ったぜ!……けど、俺はオルギアン帝国を離れるつもりはねぇよ。あの国には恩義があるし、……約束したんでな。」


「恩義と約束か……そんなどうとでも出来るモノを大切にするのだな。余も貴殿を気に入ったぞ!またこうして酒を酌み交わしたいものだ!」


「だな!また来るからよ、今日はもう帰らせてくんねぇか?娘が待ってんだよ。」


「そうか。それは仕方がない。では今日はこれにて終了としよう。」



 やっと解放された!魔物の被害にあった場所にも行こうとしたけど、今日はもう無理だな。


 すぐに空間移動でリュカの元へと帰る。


 俺を見たリュカは嬉しそうに笑って、俺に飛び付くように抱きついてきた。マジで可愛すぎる……!



「エリアス!エリアス!おそかった!」


「ごめんな、リュカ。」


「リュカちゃん、エリアスさんが帰ってくるまでずっと寂しがってたんですよ。不安そうにして……」


「そっか……ありがとな、ミーシャ。リュカ、良い子にしてたか?」


「リュカ、いっぱいべんきょう、した!たのし、かった!」


「そうか!すごいな!」


「リュカちゃん、集中力が凄いんですよ!それに、物覚えも良くて!頭の良い子です!」


「そうなのか?!アシュリーの血を受け継いだのか?!良かったなぁ!」


「エリアス、おなかすいた……」


「え?まだ食べてなかったのか?!」


「エリアスさんと一緒に食べるって言って、リュカちゃんは夜の食事を摂らなかったんですよ。私達は子供の寝かしつけとかがあるので、先に摂らせて頂きましたが……」


「そうか……ごめんな?待たせて……じゃあ一緒に食べような。」


「うん!」


「ではすぐに用意しますね!」


「ありがとな、ミーシャ。」



 リュカはずっと俺を待っててくれてたんだな。申し訳ねぇな……思わずリュカをギュッて抱きしめちまう。



「エリアス、なんか、ちがう」


「ん?なにがだ?」


「ちがう、におい、する」


「違う匂い……」


「おんな、の、ひとの、におい」


「えっ?!」


「なんか、いっぱい……」


「あ、それはな、えっと、ちょっと会合があってな、あ、会合ってな、皆で集まって話しとかすんだけど、そこにいてた人、とかじゃねぇ、かなっ?!」


「……いや……」


「え……?」


「エリアス、おんなの、ひと、いや!エリアスはリュカの……!」


「リュカの……?」


「……リュカ、の……」



 何かを言おうとして俺を見るけれど、でもそれを口に出来ずにリュカは下を向いて、口をキュッて(つぐ)む。


 リュカの心を手繰ると、お父さんと呼びたいしそう感じてはいるけれど、そう言ってはいけない、自分にはそんな資格はない、と思っているようだ。それに……リュカが感じた匂いは、女性のフェロモンってやつらしい。魔物の中で育ったから、そういうのが分かんのかも知んねぇな。香水とか、そういう事を言ってんのかと思ってたけど、そうじゃなかったんだな。


 リュカを抱き上げて、優しく頭を撫でる。



「俺は他の女の人には興味ねぇよ。今はリュカに一番興味がある。それ以外で言えば……アシュリーだな。」


「ほんとう?エリアス、リュカだけ?」


「あぁ。本当だ。俺にはリュカだけだ。」


「エリアス、だいすき」


「リュカ……!俺も大好きだぞ!」



 その時、リュカのお腹がグゥーって鳴った。龍の時のリュカを思い出して、思わず顔を見合わせて笑っちまう。


 給仕が持って来てくれた食事を、リュカと一緒に食べる。ミーシャは横で今日あった事を報告してくれる。宴会で俺は食べて飲んできたけど、待っててくれたリュカにそんなこと言えねぇ。


 ナイフとフォークを上手く使って、リュカはちゃんと食事をする。ミーシャが、物覚えが良いって言ってくれてたけど、本当にそうなんだろうな。人間の言葉を覚えんのは大変な筈なのに、リュカはすぐに吸収するように覚えていく。まだ知らない言葉もあると思うけど、大体のことは把握してる。すげぇ賢い。


 俺と目が合うと、リュカはニッコリ微笑む。その表情がそのままアシュリーって感じで、嬉しくて仕方がなくてずっと見ていられる。

 ずっとこうやって笑っていて欲しい。もう悲しい思いはさせたくねぇ。幸せにしてやりてぇ。


 だから不死身の魔物を見つけ出さねぇとな。それは必ずだ。何がなんでも、見つけ出さなきゃなんねぇ……!


 食事が終わって、それからミーシャには礼を言って俺の部屋に戻る。お腹がいっぱいになったリュカはなんだか眠そうだ。

 寝室に連れていって、それからベッドに寝かすと、すぐに目を閉じて眠った。そうだな。もう子供が寝る時間を過ぎてんだもんな。それでも、リュカは飯も食わずにずっと俺を待っててくれてたんだな……


 リュカが眠ったのを確認して、俺は空間移動で家に帰った。



「あ、エリアス!おかえりなさい!……あれ?リュカは……?」



 俺が一人で帰ってきたのを不思議がるルーナの瞳をじっと見つめる。瞳の奥底まで探っていき、ルーナにあったリュカの記憶を消していく。



「あ、れ……なんか、頭がボーってしちゃった……あ、そうだエリアス、ご飯は……」


「あぁ、食って来たから大丈夫だ。いつもありがとな。」


「ううん!そんなの全然だよ!」


「疲れたから風呂に入ってもう休むな?」


「あ、うん。おやすみ!」



 ルーナに微笑んで、それから風呂に入って自室に戻る。前に高ランクの魔物から奪った光で、俺の瞳には忘却眼が宿った。今まで使うことは無かったが、今回は役立ってくれそうだ。


 自室に戻ってからすぐに空間移動で帝城の俺の部屋に戻ってきた。寝室で眠るリュカを優しく抱きしめて一緒に眠る。


 朝、柔らかな陽射しに目覚める。自分以外の温もりを感じて、思わずリュカを抱き寄せる。



「んー……べり、いちご……」


「え?ベリーイチゴ?が、どうした?」


「あまいのー、もっと……」


「もっと食べたいのか?」


「あまい、おいしい、あげる」


「誰にあげるんだ?」


「ガルムのこども……まだちいさい……」


「リュカ……」


「くっきーもおいしい」


「そうだな……」


「でも、のど、かわくー」


「ハハハ、そうだな!」


「あれ……エリアス……?」


「おはよう、リュカ。」


「おはよう、エリアス……」


「ん?どうした?」


「えっと……べりいちごは……」


「ハハ……夢を見てたんだな。」


「ゆめ……」


「ガルムの子供にあげたかったのか?」


「……ううん……」


「俺には気を使わなくても良いから。俺が母親のガルムを倒してしまったからな……」


「しかたない、わかってる」


「そうか……さ、もう起きるか。」


「うん、エリアス、またしごと?」


「あぁ、そうなんだ。今日もここでミーシャ達と勉強して待っててくれるか?」


「うん、わかった、べんきょう、たのしい」


「リュカは凄いって、ミーシャが褒めてたな?」


「リュカ、すごい?」


「物覚えが良いって。何でもすぐに覚えるって。」


「しりたい、もっとにんげんのこと、いっぱいしりたい」


「そうだな。知ることは大事な事なんだ。」


「うん!でも……エリアスのいえ、かえらなくて、だいじょうぶ?」


「あぁ。あそこはリュカにはちょっと難しい場所だったかも知んねぇからな。リュカにはもう、嫌な思いとかして欲しくねぇんだ。リュカは……帰りたいと思うか?」


「それは……」


「ならいい。」


「エリアスはだいじょうぶ?」


「俺は大丈夫だぞ!ありがとな、リュカ!」



 少し早めに起きて朝食を一緒に摂る。給仕に言って、ベリーイチゴジャムを用意してもらう。リュカは嬉しそうに、パンにそれを塗って大きく口を開けて、いっぱいに含んで一生懸命口を動かして食べている。そんな姿を見られるだけでも嬉しくて、すっげぇ幸せを感じる。


 メイドを呼び出して、少しの間リュカの相手をして貰う。


 来てくれたのはメイド長のマドリーネで、彼女は口も堅いし話題も豊富だし、何でもすぐに対応してくれる。そのマドリーネにリュカを頼んで、空間移動で家に戻る。部屋から今起きて来たみてぇに出て、それから軽く朝食を摂る。


 すると子供達が「おはよう、エリアス!」って言って起きて来た。


 皆が食事する前に、すぐに出ていくからと言ってハグをしていく。その時に忘却眼で一人一人、リュカの記憶を消していく。それが何だか申し訳ねぇ気持ちでいっぱいになっちまう。それはこの子達にもリュカにも……


 けど、これは俺が招いた事なんだ。俺がちゃんとしねぇといけないんだ。


 そうやって皆からリュカの記憶を消して、それから仕事に行くからと家を出て、リュカの元へと帰る。


 リュカはマドリーネに、絵本を読んで貰っていた。俺が帰って来てもそれに気づかずに、真剣に絵本を見ながらマドリーネの言葉に耳を傾けていた。マジで集中力がすげぇな。


 物語が終わって本を閉じたら、リュカはマドリーネに「もっと!もっとよんで……」ってせがみながら、俺がいたことに気づく。


 すぐに俺の元へと駆け寄ってきて、嬉しそうに抱きついてくる。マジで子供って可愛いよな。たまんねぇよな。


 マドリーネが礼をして部屋から出て行く。それから俺たちも部屋から出て、ミーシャとゾランの部屋へ行く。この家族にも別宅はあるが、とにかくゾランが忙し過ぎてなかなか帰れねぇから、家族で帝城の部屋へと移り住んでいる。休み日には別宅へ帰り、家族水入らず的に過ごしてるようだけどな。


 今日もリュカをミーシャに頼んで、俺は仕事へと向かう。今日は魔物の被害にあった街や村へ赴く事になっている。合わせて不死身の魔物の事も調べていく。


 今度こそ俺がどうにかしなくちゃいけねぇ。


 この幸せな日々を守るために。


 それは俺のエゴかも知んねぇ。


 けど関係ない。


 今はリュカとの生活を守るために、俺は出来る限りの事をしていく。


 今回の事も踏まえ、もう力不足を理由にはしない。してはいけないんだ。







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