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黒龍の娘  作者: レクフル


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知っていくこと


 部屋から出て、歩いて別の場所へと向かう。


 時々知らない人とすれ違う。その時、ミーシャに皆が「その子はもしかして、エリアスさんの子供?」と聞く。ミーシャは微笑んで、「そうなんですよ!ソックリでしょう?!」と答える。

 私はアシュリーと似ていると言われてたけど、エリアスにも似てるのかな?よく分からないけど……

 

 暫く歩くと、ある扉の前でミーシャが立ち止まる。



「ここが私達の住む部屋なんですよ。どうぞ。」



 にこやかに微笑んで、ミーシャは扉を開けてくれた。ゆっくりと中へと入っていく。ミーシャの案内で、奥の部屋へと向かって行く。そこには机に向かって何かしている子供が一人いた。ミーシャを見つけて、その子は嬉しそうに笑う。



「あ、お母様!今やっとこの方程式が解けたんです!誉めて下さい!」


「ふふ……凄いのね!リオはもうこんなに勉強が進んでいるのね!頼もしいわ!」


「ありがとうございます!……お母様、その子は……?」


「紹介するわね。エリアスさんのお子様で、リュカって言うのよ。」


「君がエリアスさんの!やっぱりよく似ていると思った!初めまして!僕はリオディルスと申します!よろしくね、リュカ!」


「りおでぃるす、よろしくね」


「リオでいいよ!」


「リオ、リュカちゃんはね、訳あって今まで遠くに住んでいて、この国の言葉をまだ全部分かっていないの。だから私がこれから読み書きを教えるの。ここで一緒にお勉強しても良いかしら?」


「勿論です!僕も教えられる事があればなんでも教えます!」


「ふふ……ありがとう、リオ。お願いね?」


「はい!」



 リオはゾランやミーシャと同じで、言葉も表情も感情も全部が一緒だった。良かった。これで安心してここにいられる。


 机に座って、文字の練習をする。ペンと言うのを持って、一つ一つ丁寧に文字を書いていく。ミーシャは微笑みながら、私に優しく文字を教えてくれた。それが凄く嬉しかった。時々リオがその様子を覗きに来て、字が上手いねって誉めてくれる。なんだか勉強って楽しいな。知らない事ができていくのが嬉しいし、知っていけるのが楽しい。


 つい夢中になって、時間が経つのも忘れて文字を書き続ける。ミーシャに「少し休憩しましょう」って言われるまで、ペンを持つ手が止まらなかった。


 ミーシャがお茶を入れてくれて、それを飲むと、口の中から良い香りが鼻へと抜けていった。ビックリした顔をしていると、ミーシャはニッコリ笑う。



「これはカモミールティーなのよ。疲れに効くの。クッキーも食べてね。」


「これはお母様が作ったんじゃないから安心して良いよ。」


「ちょっ……リオ!リュカちゃんはなにも知らないんだから、余計な事は言っちゃダメよ!」


「ハハ!そうですね、お母様!」


「もう……」


「くっきー?」


「あ、そうね、初めてなのね。えっと、これはお菓子と言ってね。甘くて美味しいのよ?食べてみて!」



 言われて、茶色の丸くて薄い形の物を手に取る。それを口に入れると、パンと同じ香りと、でもそれよりも甘さが口に広がって、サクサクとした食感も初めてで、その美味しさにまた驚いた……!



「リュカ、どうしたんだい?」


「くっきー、すごい……」


「え?すごい?」


「かむ、くちのなかで、ほろほろ、なる、あまい、おいしい!」


「そうでしょう?美味しいでしょう?いっぱい食べてね。」


「うん、おいしい!でも、のど、かわく」


「ふふ、そうね。」


「リュカ、面白いなぁ。」


「おもしろい?」


「うん。なんでも素直に言うところとか。良いよね。」


「そうね。ここにはそういう人は少ないからね。」


「リオもミーシャもゾランも、かおときもち、いっしょ」


「え?」


「あんしんする」


「そう……?なら良かったわ。」



 ここはいいな。この場所って言うより、人なんだろうな。この部屋には優しい気持ちが溢れてる。それは、ミーシャとゾランと、それとリオの感情が優しいからだ。それとあと、小さな存在もいる。

 とにかくこの場所は、人を思う気持ちと優しさが溢れていて、凄く過ごしやすい。


 休憩が終わってから、次は読む事を教えて貰う。ミーシャが字を指でたどりながら、ゆっくりと声を出して読んでくれる。前にロレーナにも読んで貰った時もそうだったけど、読んでくれた物語に凄く引き込まれてしまって、何度も「もっとよんで!」ってミーシャにせがんでしまう。

 でも、ミーシャは嫌な顔一つせずに、ニコニコ笑いながら色んな物語を読んでくれた。それが凄く楽しくて、あっという間に時間は過ぎていた。



「リュカちゃん、もうお昼だから昼食にしましょうね。」


「すごい集中力だね、リュカ。楽しかったのかい?」


「うん、たのしかった!」


「知るって事は楽しいよね。僕も勉強は嫌いじゃないんだ。答えが出るのも嬉しいし。」


「うん、もっとしりたい、べんきょう、したい」


「そうだね!午後からも頑張ろうね。」


「ごご?」


「お昼からも頑張ろうってことさ!」


「うん!がんばる!」



 リオとニッコリ笑い合う。良いな、こういうの。楽しいな。リオと友達になれるかな。なりたいな。でも、友達ってどうやってなったら良いんだろう?あ、そう言えば、前にエリアスがやってた!私と初めて会った時!


 えっと、どうしてたっけ……?両手を繋いで、手を上下にブンブンするんだっけ……?

 

 椅子から下りてリオの所まで行って、リオの両手を握る。その手を取って椅子から強引に下ろして立たせて、それから交互に上下に手をブンブンさせる。



「な、なに?リュカ、どうしたの?いきなり……」


「えっと、これで、ともだち」


「え?友達?」


「リオとリュカ、ともだち、これでともだち」


「ハハハ!そうだね!友達だね!僕たちは友達だ!」


「うん!リオ、ともだち!」



 リオも笑ってる。良かった!私はリオと友達になれた!嬉しい!


 それからゾランもやって来て、皆で昼食を摂った。ミーシャは凄く小さな子供を抱きかかえてた。小さい子供って、可愛いな。思わずニコニコして見てしまう。この空間は暖かくて、好きっていう感情がいっぱいだ。その中にいられるのは、凄く心地良い。


 食事が終わって、午後からも勉強をした。次は数字を教えて貰った。知らなかった事がいっぱいだ。だからもっともっといっぱい知りたい。

 時々ミーシャは用事があるからと席を外したりしてたけど、そんな時はリオが教えてくれたりもした。リオも優しい。凄く優しい。


 ペンで書いたり、本を読んで貰ったり、自分でも何とか読んだりしていたら、気づいたら日が暮れていた。


 窓から見える景色は暗闇に覆われていて、でも外には街を照らす灯りがある。部屋の中は暗くないし、だから日が落ちても怖くないし寂しくない。けれど、エリアスがまだ帰って来なくって、その事が急に不安になってきた……


 窓から外を見るけれど、見慣れない風景がそこにはあるだけで、エリアスの姿は確認できそうになかった。思わずミーシャに聞いてしまう。



「エリアス、いない、まだ、こない?」


「まだ帰って来れないのかしら……もう少し待ってみましょう?」


「エリアス……くる?かえってくる?」


「えぇ。帰って来ますよ。だからもう少し待ちましょうね。」


「そうだよ、リュカ!ここで待っていたら良いよ!」


「うん……」



 暗いのは嫌だ……


 ここは明るいけど、なんだか気持ちが沈みそうになる。


 エリアス、早く帰ってくれば良いのに……

 

 




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