エリアスの家
空間移動で、俺の家の前まで来た。
リュカはこうやって正面から入った事がないから、辺りをマジマジと見渡してから、俺の顔をじっと見た。
「リュカは俺の部屋しか知らなかったからな。ここが入口で、一階に食堂……食事をする所があるんだ。風呂もあるぞ?」
「おふろ?!」
「あぁ。なんだリュカは風呂が好きなのか?」
「おふろ、あたたかい、きもちいい」
「そうだな。アシュリーも好きだったんだ。やっぱ親子なんだなぁ……あ、あとで一緒に入るか?」
「うん!はいる!」
「そうしような。あ、それと、いっぱい人がいるけど、誰もリュカに攻撃とかしないから安心して良いからな?みんな優しいぞ。」
「やさしい?」
「そうだ、みんな優しいんだ。じゃあ行くか?」
「うん……」
リュカと手を繋いで中へと入っていく。少し緊張した感じだな。可愛いな……
みんな良い子達だし、働いて貰ってる職員達も優しいから、きっとリュカも落ち着いていける筈だ。
「あ、エリアス、おかえりなさい!今日はもう仕事終わったの?……って……その子……」
「あぁ、うん、そうなんだ。ルーナ、この子は俺の……俺とアシュリーの子供なんだ。訳あって離れて暮らしてたんだけどな?」
「そう、だった……んだ……」
「でな、これから一緒に暮らす事になったから、よろしく頼むな。リュカって言うんだ。」
「分かった……」
「リュカ、このお姉ちゃんはルーナって言うんだ。」
「るーな」
「ここで食事の用意をしてくれるんだ。あ、それと、今、子供達はみんな勉強してるんだ。字を書いたり、計算したり……まぁ、リュカは少しずつかな。」
「すこしずつ?」
「あぁ。じゃあ部屋に行くか。今日は色々あって疲れたろ?」
「つかれ、た?」
「ハハ、ゆっくりしようって事だ。」
「ゆっくり、する」
リュカと手を繋いだまま、俺の部屋まで歩いていく。またあとで他の職員達にもちゃんと紹介しねぇとな。
俺の部屋に着くと、リュカはまたキョロキョロと周りを見て、それから少し安心したように表情を緩めた。やっぱ緊張してたんだな。
ソファーに座ると、リュカも俺の横にちゃんと座って、それから俺にギュッて横から抱きついてくる。可愛すぎる……
膝上にのせて、リュカを抱き包むようにすると、安心したように微笑む。この笑顔を見ると、俺もすっげぇ安心する。
しばらくの間そうしてから、リュカを抱き上げて窓へと向かう。窓から見える畑を指差して、あそこで野菜を育ててるんだ、って教えたり、皆が勉強している場所はあそこだって教えたりする。リュカも、珍しいものでも見るみてぇに、俺が指差す方向をじっと見て説明を聞いていた。
そうしていると扉がノックされて、ルーナがやって来た。
「エリアス、休んでるとこ悪いんだけど……もう今日は用事とかない?」
「あぁ、今日は仕事はもう終わりだ。」
「あ、じゃあさ、買い物に付き合って欲しいんだ!色々買い足したい物が多くってさ!」
「あぁ、良いぜ。リュカは……」
「いっしょ、いく!」
「リュカ、すぐに帰って来るよ?疲れてるんなら、部屋で休んで方が良いんじゃない?」
「リュカも!いっしょ!エリアスといっしょ!」
「そうだな。うん、一緒に行くか。良いだろ?」
「えっ?あ、うん、それは別に良いけど……」
「あ、ついでにリュカに必要な物とかも買いてぇな!服とかもいるしな!ルーナも選んでやってくれるか?!」
「え!あたしがっ!?」
「男の俺が選ぶより、女目線で選んで貰った方が良いと思うしな!」
「あ、うん……それはまぁ良いんだけどさ……」
「ん?どうした?」
「……その……それならさ、他の子達のもって思っちゃって……あ、そりゃあさ、リュカはエリアスの子供なんだし、親が子供に何かを買うってのは普通の事なんだろうけどさ……」
「そ、うか……そうだな……」
「あ、ごめん!なんか嫌な言い方しちゃったね!ごめん!」
「いや、謝らなくていい。俺がちょっと浮かれてたのかもな。今まで親らしいこと何もしてやれてねぇから……」
「そうだよね、ホントごめん!」
「良いって。じゃあ皆にも買ってやるか!な!」
「え、いいの?」
「こう見えて、俺は結構稼いでいる。」
「ふふ、分かってるよ、そんなの!でも、皆すっごい喜ぶよ!」
ルーナに言われて、そうかって気づいた。ここは親のいない子供達が殆どで、親からの愛情に飢えている子達ばっかりで、そんな中でリュカを特別扱いしたら、それは気になるか……
リュカは俺たちのやり取りを見て、どうしたんだろう?って感じで俺とルーナを交互に見てる。何でもないって感じで、ニッコリ笑ってリュカの頭を撫でる。そうされてリュカもニッコリと笑い返してくれた。
子供達には後日服屋に連れていく事にして、ひとまずルーナの買い出しに付き合うことにした。
もちろんリュカも一緒で、野菜や肉類なんかを大量に購入しているのを、終始マジマジとその様子を見ていた。
そっか……こうやって金銭のやり取りを見るのも、リュカには今まで無かったことなんだな……こういう人としての営みを、これからキチンと教えていってやらないといけないな。
俺と手を繋いで歩いていたリュカが突然、「エリアス!」って言って指を差した。差された指の先を見るとそこには露店があって、飲み物が売ってあった。俺の手をグイグイ引っ張って、その前まで連れていく。
「なんだリュカ、喉乾いたのか?」
「じうす!エリアス!じうす!」
「じうす……あぁ、ジュースな。ルーナも飲むか?」
「え?……あたしはいいよ。」
「そっか。じゃあリュカ、ジュースは何味が良い?」
「なに、あじ?」
「分かんねぇか。あ、すまねぇ、ここで一番人気のあるジュースくれ。」
「じゃあミックスジュースだね!はいよ!」
ジュースを受け取る時に、小銅貨を2枚をリュカに手渡し、リュカ自身に買わせるようにする。リュカは言われた通りにして小銅貨を2枚渡して、木のコップに入ったジュースを受け取っていた。
因みに
小銅貨1枚は、パンを1つ買える程の価値。
小銅貨10枚で銅貨1枚。
銅貨5枚で大銅貨1枚。
銅貨10枚で銀貨1枚。
大銅貨2枚でも銀貨1枚。
銀貨5枚で大銀貨1枚。
銀貨10枚で金貨1枚。
大銀貨2枚でも金貨1枚。
金貨10枚で白金貨1枚。
大金貨2枚でも白金貨1枚。
となっている。
リュカも使っていくうちに分かっていくだろう。
受け取ったジュースを、リュカはゆっくり口に含んで、ビックリした顔で俺を見て、それからすっげぇ嬉しそうに笑った。うん、可愛い!
けど、そんなに旨かったのか?
いや、そうか……魔物と一緒にいたんなら、まともな料理とか食べてたわけじゃねぇんだろうな。それは、黒龍と一緒の時もそうだったんだろう。甘さを感じる食べ物とか飲み物を口にしたことが無かったのかも知んねぇ。
せつねぇな……
よっぽど旨かったのか、あっという間に飲み干して、コップの中は既に空になったみたいだった。「もう一杯飲むか?」って聞くと、少し考えてから、首を横に振った。でも、名残惜しそうに、また売られてるジュースを見つめている。遠慮なんかしなくて良いのにな。
龍のリュカが、パンを嬉しそうに食べてたのを思い出す。あん時俺はリュカにパンを渡して一人で仕事に向かって……って考えると、こんな小さな子一人、パンを餌に置き去りにして、俺は何をしてたんだって、なんかすげぇ悪いことした感じがして、思わず胸に込み上げてくるもんがあって……
「どうしたの?エリアス、なんか涙ぐんでない?」
「え?いや……泣いてねぇ……あ、ルーナは他になんか欲しいものとかはねぇか?」
「うん、もう大丈夫!エリアスがいると大きな買い物が出来るから助かるよ!こんだけの量一人じゃ運べないからさ!」
「そうだな。いつも助かってる。ありがとな。またこうやって、俺が必要な時はいつでも言ってくれ。できるだけ協力すっから。」
「本当?!それは嬉しい!ありがとう!」
嬉しそうにそう言いながら、ルーナが俺の腕に抱きつくようにして腕を絡ませてきた。ちょっと驚いたけど、ルーナなりのコミュニケーションの一環なんだろうと思ってたら、リュカがいきなりルーナを突き飛ばした。
「ちょっ……!?何すんの?!」
「リュカ?どうした?」
「エリアス、だめ!エリアスは……!」
「リュカ?」
その先を言えずにか、リュカがポロポロ涙を溢す。なんだ?どうしたんだ?
「え、なんで泣くの?なんかあたしが悪いみたいじゃん……」
「あ、すまねぇ、ルーナ、まだリュカは慣れてねぇから……」
「あ、ううん、良いんだけどさ……全然良いんだけどさ……」
まだ自分の気持ちとかを、リュカは俺たちの言葉では上手く伝えられないんだろう。言いたい事が伝えられねぇって、凄くもどかしくて苦しいんだろうな……
俺がちゃんと見ていてやらねぇとダメだ。
けど、なぜか皆に俺は鈍感だとか言われちまう。なんでそう言われてるのかも分かんねぇけど。
リュカの気持ちを、ちゃんと汲み取ってやらないといけない。
リュカを抱き上げて、俺の胸に顔をうずめるリュカの頭を優しく撫でる。
複雑な顔のルーナに、口パクで「ごめんな」って言う。ルーナは首を横に振るけど、なんか納得してない感じだった。
大丈夫か……?
大丈夫だよな?
慣れてないだけだ、きっと。
いきなりは誰でも戸惑う。だから少ししたら、皆で仲良くできる筈だ。
それまでは俺がフォローしてやらねぇとな。




