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黒龍の娘  作者: レクフル


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いいのかな


 エリアスに会えた。


 やっと会えた。


 でも私が人間の住む街に来たことで、魔物が街にやって来た。それはきっと、フェンリルが皆を率いて来たに違いない。


 嫌いだった。


 すごく憎んだ。


 逃げ出したかった。


 だからここに来れた時はすごく嬉しかった。


 私を追ってきただろうフェンリルがエリアスと戦って火に包まれて……そうなってもエリアスを狙うフェンリルに私は威圧を放ち、ひれ伏させた。


 熱い炎に包まれて痛くて苦しい筈なのに、私が控えるように言ったから、フェンリルはそのままひれ伏して動く事なく、その炎に燃え尽くされて朽ちていった。


 エリアスと離れ離れになってからずっと、フェンリルはどこに行くにもついてきたし、いつも私からは離れずにいた。


 威圧する方法を教えてくれた。


 魔力操作を教えてくれた。


 魔法の使い方を教えてくれた。


 食べ物に困らないようにしてくれた。


 ずっと一緒にいてくれた……


 大嫌いだったのに、やっと離れる事が出来て嬉しい筈なのに、黒くなっていくフェンリルを見て、胸がギュッて握られるような感じになって苦しくて、なぜか涙が出てきた……


 辺りを見渡すと、地に伏した魔物達が至るところに……


 あれはガルムの母親だ……


 急いで走って行く。私の足元に横たわったガルムがいた。まだ幼い、生まれたばかりの子供がいるのに……それでもフェンリルに逆らえずにここまで来たんだ……


 魔物も、人間も、あちこちに横たわって絶命している。


 泣き叫ぶ声


 恐怖が過ぎ去っても抑えられない恐怖の声


 大好きな人の名前を呼ぶ声


 その全ては、私がここに来たから起こった悲しみの声なんだ……


 私があの場所で過ごすことに我慢出来なかったからこうなってしまって、その事が申し訳なくて仕方がなくて、人間にも、あちこちに倒れている見知った魔物達にも申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまって、涙が溢れて止まらない……


 あの魔物達を倒したのは、殆どがきっとエリアスだろう。それは仕方がない。人間達を守るためだから。私も魔物は嫌いだったし、全部やっつけてやるって思っていたこともあったから。


 けれど、今は魔物の命も、人間の命も、私には等しく思えてしまう。


 弱いモノは生き残ることはできない。強いモノに従い、己を守り生きていく。それが魔物。だからここでその命を全うしても、それは魔物のあるべき姿。強いモノに負けただけ。ただそれだけ。


 分かっている。


 分かってはいるけれど、気持ちが納得できてなくって、どうにもならない気持ちだけが胸を締め付ける。


 そんな私を、エリアスが優しく慰めてくれる。


 エリアスは優しい……


 何にも悪くないのに、私に何度も「ごめん!」って謝る。

 エリアスは何も悪くないのに。私が全部悪いのに。


 エリアスは私のお父さんって言った。


 それは前に、フェンリルにも言われた事がある。


 エリアスは、私の人間のお父さんだって。でも、私のせいで死んでしまった黒龍のお父さんに、私は人間の子供だったって、エリアスがそうだったって、胸を張ってなんか言える訳がない。


 私がいなければ、お父さんは今でもずっと生きていたはずで、それはお母さんもそうだったはずで……


 黒龍のお父さんとお母さんがいなければ、私は生き抜く事なんか出来なかったのに、実は親じゃなかった、なんて言える訳がない。


 エリアスが私の本当のお父さんだということを知った時は、驚きもあったけど、本当は嬉しい気持ちも大きかった。


 けれど、それを受け入れてはいけないように思う。


 違う、と言った時のエリアスの顔は悲しそうで、そんな顔をさせた私は酷い子なんだとも思う。


 結局私はどう思いたいんだろう……チグハグな気持ちが混在していて、自分でもどうして良いかなんて分からない。


 エリアスは私に優しい。そんなエリアスのそばにいられる事が嬉しい。


 ……本当に私はエリアスと一緒にいていいのかな……


 そう思っても、エリアスと離れたくない気持ちが強くって、目の前から見えなくなるのが怖くって、離れたらまた会えなくなりそうで怖くって、ずっと触れていたくて仕方がなかった。


 エリアスには触れても大丈夫だった。けど、他の人間や魔物に触れると、私は知らずに奪ってしまう。


 だから気兼ねなく触れるのは、私にはエリアスだけ。今、私が一番安心できるのは、エリアスのそばにいられる時だけだ。


 昼食を食べ終わって、ミーシャがお茶を入れてくれて、それを三人で飲んでる時にミーシャが話しかけてきた。



「リュカちゃんは今まで何処にいたの?」


「どこに……」


「何処にいたとか、分かるか?」


「……わからない……」


「分からないの?」


「……うん……」


「まぁ、気にしなくて良いよ、そんなことは!それよか、これからの事を考えていこうな!」


「これからのこと?」


「あぁ。リュカは俺の家で暮らすって事にしたい。それで良いか?」


「エリアスのいえ?」


「そうだ。一緒に寝てた所だ。あそこは俺の家なんだ。他にも住んでる子供達がいっぱいいてて、すっげぇ楽しいぞ!」


「いっぱい、こども……」


「リュカくらいの年の子も多いし、友達いっぱいできると思うぞ!」


「ともだち?」


「それはいいですね!エリアスさんの所であれば、字の練習や算数も教えて貰えるし、色んな人がいるから言葉ももっと覚えられますね!」


「そうだな!マナーとか必要であれば、またミーシャが教えてくれるだろうし、とりあえずは俺の所で生活して慣れて行こうな?」


「うん、でも……」


「どうした?」


「リュカ、さわる、うばう」


「そっか……そうだったな。あ、でも心配いらねぇぞ?俺、能力制御の腕輪持ってるんだ。それをリュカがつけたら、きっと誰でも気にせずに触れるようになる!」


「のうりょく、せーぎょ、うでわ」


「……リュカ……その腕輪……」



 朝、レオの家で着替えた服は袖が隠れていて見えなかったけど、私は前にエリアスから貰った腕輪をしたまんまだった。

 それを見たエリアスは申し訳なさそうな顔をした。


 エリアスはこの腕輪は従魔の証だから、それはもうリュカには必要ないから外そうって言うけれど、エリアスと離れて魔物達に囲まれて生活していた日々の中で、残してくれたこの腕輪だけが、私の心の拠り所だった。だから、これを外すのが凄く嫌だった。

 

 エリアスに外したくないって言うと、複雑な顔をしながらも、エリアスは分かってくれた。それから別の腕輪を私の左手首につけて、これで誰にでも触れるから、と微笑んで言った。


 

「じゃあリュカ、帰ろうか。」


「かえる……」


「そうだ。俺たちの家に。」


「おれ、たち」


「俺とリュカの家だ。」


「エリアスとリュカのいえ……」



 その言葉の響きが嬉しくて、気持ちが温かくなっていく……


 いいのかな……


 色んなモノを奪ってきて、私のせいで死んじゃった人間や魔物がいっぱいいるのに、私が楽しく過ごしていいのかな……


 そうは思っても、エリアスの優しい言葉に抗う事ができなくて、私の家だと言ってくれた事が嬉しくて、そんな気持ちなのに抵抗なんかできる訳もなく、微笑んで私を見るエリアスに、私も笑顔で頷いた。


 いいのかな……


 私、人間として過ごしてもいいのかな……


 離れる勇気なんかないけれど、ずっと心の中で問いかける。


 私はエリアスと一緒にいていいのかな……


 本当に一緒にいていいのかな……






 

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