表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒龍の娘  作者: レクフル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/116

父親は


 俺の腕の中にリュカがいる。


 やっとだ……


 やっとこの手で抱きしめられた……


 リュカの顔をマジマジと見る。その顔はアシュリーそのものって感じで、すっげぇ可愛くて、けど瞳と髪は俺と一緒で黒くって、もうすっげぇ可愛く感じて、ずっと見ていられるって思って、何度も頬を撫でて頭を撫でて、その存在を確認する。



「エリアス?なみだ?」


「泣いてねぇ……すまねぇ、リュカが可愛くてな。ずっと見てしまってた。どこか痛い所とかないか?」


「だいじょうぶ」


「そっか。良かった。リュカが無事で。」


「ほかのにんげん……」


「……そう、だな……」



 辺りを見渡すと、あちこちで泣き叫ぶ声が聞こえてくる。建物も壊されて、街中がボロボロな状態だった。


 

「魔物がまだ人を襲ってるかも知んねぇ。俺、ちょっと行ってくるけど……」


「だいじょうぶ」


「え?」


「もうだいじょうぶ」


「もう大丈夫って……魔物がか?」


「もう、なにもしない」


「リュカ……それは本当か?」


「ほんとう」


「マジか……」


「まじ、だ」



 さっきリュカは広範囲に威圧を放っていた。それが街中に広がって、魔物共に届いたって言うのか……?!


 それが本当ならすげぇ事だ。


 これが黒龍の力……か?


 魔物が人に危害を加えねぇなら、今は討伐よりも先にすることがあるな。


 身体中の魔力を集めて、それから大気中にある魔素をかき集める。周りに漂う魔素を、これでもかってくらい集めて、その魔素を魔力に変換して、回復魔法を広範囲に施していく。


 回復魔法は俺から波紋を広げていくようにして広がっていく。


 傷を負って倒れた人々に、崩壊した建物に、その緑の淡い光は徐々に行き届いてゆき、魔物に襲われる前の街の状態へと戻っていった。


 けれど、回復魔法じゃ亡くなった人を蘇らせる事はできない。


 ハッと気づいてリュカを見る。リュカは俺の回復魔法を見て、驚いて街の様子をキョロキョロ見ていた。



「リュカ、リュカに精霊が宿っているの、分かるか?」


「せいれい?」


「やっぱ分かってなかったか……セームルグ!」



 俺が名前を呼ぶと、リュカの体の中から光が出てくる感じで、生命を司る精霊セームルグが姿を現した。

 リュカは自分から何かが出てきたって感じで、すげぇビックリしていた。



「エリアスさん、お久しぶりですね。」


「俺の事を覚えてくれてたのか?」


「当然です。私はリュカに宿る精霊です。貴方を忘れる訳はありません。」


「ずっとリュカを守ってくれてたんだな。」


「とてつもない力をその身に宿してしまいましたからね。私がいなければ、とうに体は耐えきれなくなっていましたよ。」


「……感謝する……!」


「いえ。それが私の役割ですから。」


「……頼みてぇ事がある。魔物に襲われた人達を生き返らせる事は出来ねぇか?」


「……出来なくはありません。ただ……魔物によってその体を失った者には無理です。帰る体が無い状態ですからね……」


「そうか……いや、それでも頼めねぇかな?」


「リュカ、それは貴女も望む事ですか?」


「いき、かえら、せる?」


「そうだ。魔物に襲われて死んじゃった人を、また生きるようにするんだ。」


「いきかえら、せる、したい」


「分かりました。ではリュカの体を使いましょう。」



 言うなり、セームルグはリュカの体に重なった。それから両手を広げて、俺が広範囲に魔力を行き渡らせたみたいに、その波動を広げていく。


 あちこちから人形(ひとがた)の白い影のようなのがさ迷いだして、倒れている体にスゥーっと入っていく。

 そうすると、絶命したと思われた人達が、ゆっくりと起き上がってくる。


 それは何とも不思議な光景だった。


 自分の体に魂が帰っていったって感じではあったけれど、その体が既に無い人もいる。自分の体に帰りたくても帰れない、そんな魂がそこら辺に多く漂っていた。


 

「体のある者には命を返す事ができました。けれど、帰れない者達が今ここに多くいます。エリアスさん、お願いします。」


「あぁ、分かってる。ありがとな、セームルグ。」



 セームルグは微笑んで、リュカの中へと入って消えた。リュカはまた不思議そうな顔をして、自分の体を確かめるように触っていた。


 魔道具に貯めておいた魔力を補って、自分の体に魔力を補充し、また広範囲に光魔法、魂の浄化を行き渡らせる。

 そうすると、体に帰れずに漂った魂が浄化されて、皆が天へと還っていける。こうしておかないと、中途半端な体に無理に戻ろうとしたり、思いだけが強く残ったりして、不死者(アンテッド)になっちまうからな。


 リュカはまた驚いた顔をして、その様子を見ていた。



「エリアス、すごい……」


「そうか?俺にはリュカの方が凄いって思うぞ?」


「リュカ、すごい?」


「あぁ。魔物を操られるなんてな。すげぇとしか言いようがねぇ。」


「まもの……」


「どうした?」



 リュカは辺りをぐるりと見渡し、俺が倒した魔物の元へ駆けて行った。急いで俺もリュカの後を追いかけて行く。


 狼の魔物が横たわっている所に来て、リュカは足を止めた。ゆっくり屈んで、その魔物をそっと撫でる。



「……リュカの知ってる魔物だったのか?」


「こども、うんだ、たすけた」


「そっか……」



 リュカは静かに泣いていた。俺と離れ離れになってから、リュカはどんなふうに生きてきたのか……

 もしかしたら、魔物と共に、あのフェンリルと共にいたのかも知んねぇ。


 魔物を操れるリュカ……それは、黒龍の代わりになったって事なのか?


 

「リュカ……帰ろう。俺の家に……一緒に帰ろう。」


「リュカ……いっしょ、いいの?」


「当たり前だろ?リュカは……俺の子なんだ。俺がリュカの父親なんだ。」


「エリアス……ちちおや?」


「あぁ。俺がリュカのおとうさんだ。」


「おとうさん……ちがう、おとうさん、りゅう」


「リュカ……」


「リュカはりゅう……リュカは……まもの……」


「違う!リュカは魔物じゃねぇ!リュカは人間だ!俺の……俺とアシュリーの子なんだよ!」


「リュカ……おとうさん……やっつけた……」


「リュカ……それは……!」


「おとうさん、おかあさん、うばった、リュカ、うばう、ぜんぶ、うばう……みんな……リュカが……」


「リュカのせいじゃ……!」


「まもの、ほかのにんげん、やっつけた、リュカがきた、から……」


「……っ!」



 リュカはボロボロ涙を流した。


 全部知ってたんだ……


 全部分かってたんだ……


 前は知らなかった筈だ。お父さんは魔物がやっつけたって言ってたからな。けど、今は自分が命を奪ったと言っている。その事実を、この小さなリュカが受け止めようとしている……


 それにリュカがここに来たから、この街が魔物に襲われたって思ってる。それはあながち間違ってねぇかも知んねぇ……


 けどこんな辛い事、こんな小さなリュカに背負わせんの、ひでぇだろ?!

 知らなかったんだ……そうしようとして奪った訳じゃねぇんだよ……俺が命を奪ったから、その命を守るためにリュカは……!


 俺が悪い!リュカは何も悪くねぇ……!


 それに、魔物だらけの場所から逃げ出して来て、そのせいでこの街が襲われたって……誰だってそんな状況に身をおかれたら、逃げ出したいって思うに決まってるじゃねぇか!


 俺が見つけられなかったから!この結果になったのは、俺の力が足りなかったからなんだ!


 ボロボロに泣き続けるリュカをしっかり抱きしめて、何度も何度も「ごめん!リュカ、ごめん!」って謝り続ける。


 あのフェンリルにそう言われたか……それで黒龍の父親の代わりに、魔物を操れとでも言われたか……!


 なんでこんな小さな女の子一人に、そんな事をさせなきゃなんねぇんだよ?!


 リュカが可哀想すぎんだろ?!


 俺の事を父親だと思わなくていい……俺はリュカに何もしてやれてねぇからな。けど、俺はリュカの為ならなんでもする!ずっと一人で寂しい思いをしていたリュカに、人間としてのあり方を、楽しみを、全部ちゃんと教えてやる!


 涙が止まらないリュカを抱きしめて、これからは俺がしっかりリュカを守るって、そう心に誓ったんだ。




 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ