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黒龍の娘  作者: レクフル


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決意


 エリアスからはまだ何の連絡もない。


 帝都から戻ってきて、怖くて怖くて、ソファーに膝を抱えるようにして座り込んで、一人私は震えていた。


 自分のしてしまった事の重大さが重くのし掛かってきて、それに抗う術は何もなくて、けれど誰にも助けを求められなくて……


 迂闊に手を出して良い事では無かった。


 無知で無力な私が、何か出来ると高をくくって行動した結果がこれだ。


 帝都には多くの人がいる。そこに住む人もそうだけど、行商でやって来ている人達も多いし、帝都は観光の場としても栄えている。

 大きな劇場もあるし美術館もある。大神殿もあるし、そこに集う人達も多い。

 こう言っちゃなんだけど、あの村とは比べものにならない程人口は多いし、人の出入りも多い。


 もしこのままにしちゃったら、呪いにかかった人を媒体にして、また別の人へ呪いを移してしまう。そうやってあの村の人達にも呪いは広がっていったんだ……


 知らなかった、分からなかったでは済まされない。それで黒くなって亡くなってしまう人が増えたら……それは私が殺したも同然なんだ……


 自分の認識の甘さに、今頃になって身に染みて思い知る。他の人より力があるだけで、何をそんなに意気がっていたのだろうか。

 こうなってから、怖くなって助けを求めようとしてしまう自分が許せない。


 よくエリアスは言っていた。

 

 力を持つ者は、その力が大きければ大きい程、その責任も大きくなるんだって。


 エリアスは自分に言い聞かせるようにそう言っていたけれど、その時は言っている事の意味が分からなくて、ただ呆然と聞いていただけだった。


 エリアスが言っていた事は、こういう事だったんだ……今になってその意味が分かるなんて……本当に私は馬鹿だ。


 大きな力には大きな責任が伴う……


 うん……そうだよね……


 これは私の責任だよね……


 してしまった事の責任は、自分で取らないといけないよね……


 そういう事なんだよね? エリアス?


 気づくと溢れ出ていた涙を拭って、顔を上げる。外はもう暗くなっていた。どうすれば良いのか分からずに、怖くてずっとここにいて、時間が経つのも分からずにいた。


 まだ勝手に涙が溢れる。


 エリアス、今日も帰って来てくれないの? 助けて欲しいのに助けてくれないの? どこにいるの? 会いたいよ……会いたい……


 けれど、これはきっと隠してした事の代償なんだ。嘘をついた事の代償なんだ。


 だからエリアスを私から奪ったんだ。


 ちゃんとするから、してしまった事の責任はちゃんと取るから、どうかお願いします。

 

 エリアスを私に返してください……


 誰に言えばいいの?


 神様? 大精霊様? 黒龍のお父さん? お母さん? それともアシュリーに言ったらいいの?


 外に出て満天の星が煌めく大きな空に向かって、大きな声で叫ぶように、皆に届くように思いを告げる。



「お願いします! エリアスを返してください! 何でもしますからっ! お、おねが……エリアスを……返してぇ……っ! おね……しま……す……」



 涙で上手く言えなくなって、そのまま大声で泣いてしまった……


 泣いても叫んでも、誰も何も言ってくれない。エリアスは帰って来ない。

 

 悲しくて虚しくて、誰かに何か言って欲しくって、思わずセームルグを呼び出した。

 体が光り出して、セームルグがゆっくりと姿を現す。



「リュカ、大丈夫ですか?」


「セームルグ……エ、エリアスが、帰って……こな、い……セームルグっ! エリアスがーーっ!」


「リュカ、落ち着きなさい。エリアスさんはきっと大丈夫ですよ」


「でも、ね、お話、もね、ずっと……ずっと出来ないの……! セームルグ、お願い……エリアスを……エリアスを連れて帰ってきて……!」


「リュカ……」


「お願い……」



 セームルグが困った顔をして私を見てから、フッと消える。


 まだ流れる涙を両手を握り締めて目に当ててグリグリして出ないようにするけれど、それでも涙が後から後から出てきて止まらない。


 それから私はテネブレを呼び出した。闇の精霊テネブレに、セームルグと同じようにエリアスを連れて帰ってくれるように頼んだけれど、それはアッサリ断られてしまった。



「どうして? どうして行ってくれないの?」


「今リュカの体の中には呪いがある。この呪いに侵食されないように、我はリュカの体の中にいる必要があるのだ」


「テネブレはそうしてくれていたの?」


「そうしなければ、あの量の呪いを一身に受けて生きていられる筈等ない。あまり無理をするでないぞ」


「でも! 私のせいで死んじゃう人達がいるんだよ!」


「我の知った事ではない。良いか。忠告したぞ? もうあの呪いを奪ってはならぬ。我でもこれ以上は手に負えぬぞ」



 そう言い残して、テネブレは私の体に帰って行った。


 でもね、テネブレ。そういう訳にはいかないんだよ。

 してしまった事の責任は取らないといけないんだよ。

 そうしないときっと、エリアスは帰って来てくれないんだよ。


 セームルグの帰りを、ニレの木にもたれ掛かって待っていて、気づくとそのまま眠ってしまったようだった。


 朝陽が目にしみて目覚める。


 あれからセームルグは帰ってきたんだろうか。気になって呼び出すけれど、セームルグもまた帰っては来てくれなった。


 フラリと立ち上がり、家に戻る。


 外で寝てしまったから体が冷えている。これから帝都に行くのに、体調を崩している場合じゃない。

 お風呂にお湯を張って温まることにする。

 しっかり温まってから着替えて、朝食を簡単に済ませてから、いつものように片付けをして浄化させてから家を出る。

 畑の種蒔きは当分しなくても大丈夫。もう充分野菜のストックはあるし、一人だとそんなに量は減らない。

 こうなって初めて、エリアスの食事量が私とは比べものにならない程多かった事が分かる。

 大人の男の人って凄く食べるんだね。一人だと気づく事が多い。私はエリアスに頼りっきりだったんだね。

 

 今日帰って来たら……帰って来れたら、エゾヒツジのクリームスープに挑戦してみよう。エゾヒツジは買えなかったけどまだ少しあるし、他の材料もあるし、作り方は何回も見てるから大体分かる。きっと大丈夫。

 うん、そうしよう。だからちゃんと帰って来ないと。


 家を出て深呼吸して、意を決して帝都に向かう。


 まだ朝の早い時間だから、こんな時間は野菜売場とその近くのカフェくらいしか開いてませんよ、と、前にマドリーネが言っていた。

 その野菜売場もカフェも開いてなくて、静まり返った状態だった。


 いつもこうなのかな……


 辺りを見渡しながら歩いて行く。行き交う人もあまりいなくて、朝の早い時間だからそうなのかも知れないと思いながら、様子を見ながら歩いて行く。


 住宅街近くへ足を運ぶ。


 ここはどうだろうか……


 何も無ければそれで良い。だけど何も無い筈がない。あの呪いは強力なんだ。なんで呪いが溢れ出る事になったのかは分からないけれど、これ以上被害を出してはいけないんだ。


 そう思い直して、気持ちをしっかり持って歩いて行く。昨日行かなかった場所へもどんどん歩いて行く。


 角を曲がった先に、人だかりを見つける。嫌な予感が胸を襲う……


 恐る恐る近づくと、そこは薬屋と治療所と診療所が連なっている場所で、その前に人が多くいた。

 

 あぁ……あの村と同じ状態だ……


 まだ開いていないのに、それでも薬を求め、医者を求め、人々が集まっている。


 苦しむ子供を抱きかかえる母親や父親の姿。支えられるようにして歩く人。足を引き摺るようにしてやって来る人。みんな体の一部に黒くなった箇所があって、後から後から人が増えていっている。


 そこには鮮魚店のおじさんもいたし、パイナポーを売っていたおばさんもいた。


 私が関わったからだよね。


 ごめんなさい。私のせいなんだ。


 だからね、私がその黒いの、取るからね。


 もう安心して良いんだよ。


 だから泣かないで?


 元気になったらまたお店にいくよ。


 その時は笑顔で迎えてね。


 こうやって助けていったらね、きっとエリアスは帰ってきてくれるんだ。


 だから私、頑張るの。


 怖いけど頑張る。


 頑張る……

 


 


 

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