呪いの力
遺跡の中へと入っていく。
入る前に一応、自分自身に結界を張っておく。
足を踏み入れると辺りは禍々しい空気が漂っていて、すっげぇ居心地が悪い。
しかし、その場所は目を見張る程に心を奪うに相応しいと感じられる空間だった。
天井は高く、火山灰にまみれていたからか、全ての物が茶色くくすんでいたが、それがなければここは凄く煌びやかで重厚であるんだろうと感じられる。
壁や柱一つにしても造りが凝っていて、美しい彫刻がそこここに施されている。
絵画や調度品等も素晴らしく、どれひとつ取っても一流と言われる職人達が手を掛けて作り上げた物だと、何も分からない素人の俺でも分かる程に、ここにある全ての物が美しかった。
呪いさえ無くなれば、ここはダンジョンとしなくとも観光名所として使える程に、全てが美しく荘厳で、その時代の象徴となる場所だったんだろうと思われる物で溢れていた。
思わずその壮大さに心を奪われるように立ち竦んでしまったが、下に目をやると至るところに黒くなって横たわるしか出来なかった人達がいる。
皆、苦しそうに、悲しそうに、そして断末魔を叫ぶような表情で絶命していて、それを見るのはすげぇ辛くて思わず目を逸らしそうになる。
けど、目を逸らさずにしっかり見てやんねぇといけない。と思う。
仕事を全うして、その結果こうなってしまった。ここにいる人達は殉職したんだ。それには敬意を払う必要がある。俺はそう思う。
だから最後の時がどんなだったのかを知ってあげたい。
涙が溢れて仕方ねぇ。けど、それを拭っている暇もない位に遺体はあちこちにある。
それでもここでめげてる場合じゃねぇ。
感覚を研ぎ澄ませ、呪いを手繰るようにして進んでいく。段々その濃度が濃くなっているように感じる。
大広間を抜けていく。厨房があり、食堂もある。全ての造りが美しくて大きい。中庭があって、その横の方には音楽を奏でるに相応しい造りの部屋があった。ここで演奏家や歌人が美しい音楽を王や貴族に聴かせていたのだろう。
なかなかに広いこの城は、どこを取っても素晴らしいの声しかでないくらいに荘厳であり、ずっとここにいたいとさえ思わせる程の場所だった。
そうやって歩いてると目を奪われて、つい呪いの事を忘れそうになる。
ダメだ、気を引き締めねぇと!
辺りを見渡し、それから呪いを探っていくと、階段を見つけた。
地下へ続く階段を下りていくと、更に呪いの濃度は高くなっていく。
地下には術が掛かってあるってオルヴァーは言っていた。
階段を下りきって、そこに足をつけた途端に目の前が目まぐるしくその様相を変えていく。
ここに来たのは初めてだけど、慣れた人が踏み込んでも迷ってしまうと思われる程、数歩歩く毎に目の前の景色が変わる。マジで厄介だな。
目に頼らずに感覚を研ぎ澄ませる。歩いて行くと、術が作用したのが分かる。動いた形跡をなぞるように確認していく。それからまた数歩進んでいく。術が発動して行く先が別の場所へと変わっていく。
まるでパズルみてぇだな。歩く度に違う場所へ組重なっていき、どの方向に向かえば正解になるのか試されているみたいだ。
オルヴァーはよくここを通り抜けられたな。
賢いのか運が良かったのか。
とにかく俺も惑わされねぇで進む必要がある。この惑わしているのも、恐らく呪いの元凶である水晶の仕業なんだろう。じゃなければ、ここに来た調査隊が呪いの水晶がある場所まですぐにたどり着けることもなかったろうからな。
張り巡らされている術を解くように、その術式を探っていく。この術も脳に直接働きかけるようにして惑わせようとする。
マジ面倒!けど仕方ねぇ。何とかしなきゃな。
ここにも黒の遺体がいっぱいあった。けど、それは人の形を成していなくて、ボロボロと崩れ落ちているモノが殆どだった。
呪いが強力だとそうなるのか?それとも、黒くなって長く時間が経つとそうなるのか?
不意に首にかけてあるピンクの石が光りだす。リュカから連絡が入った。どうしたんだ? 何かあったのか? すぐに石を握って会話する。
「リュカ、どうした?」
『エリアス、まだ帰って来ないの? 今日は遅くなるの?』
「まだって、今はまだ昼頃だろ?」
『え?! 違うよ! もう夜だよ! 寝る時間だよ!』
「なにっ?! マジか?!」
『帰って来ないから心配だったんだよ! 今どこにいるの?!』
「今は……ちょっと遠いかな……待っててくれ、すぐに帰る……」
リュカに言われて驚いた。もうそんなに時間が経ってんのか?! ここは時間の感覚も狂わせるのか?!
すぐに空間移動で帰ろうとする。けれど、何かに阻まれて、ここから出ることが出来ねぇ……! これも呪いか?!
これはやべぇ……リュカを一人にしてしまう……早くここを攻略しねぇと……!
「リュカ、仕事でな、今遺跡にいるんだ。けど、そこは空間移動が使えねぇみたいなんだ。すまねぇ。すぐに帰れそうにない……」
『そうなの? エリアス、大丈夫なの?』
「あぁ、俺は大丈夫だ。リュカは今、家か?」
『うん。帰ってきたよ。夕食はリオ達と帝城で食べたんだけど、なかなか帰って来ないからどうしたのと思って……』
「そっか……ごめんな? ちょっと厄介な仕事でな。すぐに帰れるように頑張るからな!」
『うん……早く帰って来て欲しいよ……』
「あぁ、俺も早く帰りてぇ。帰ってリュカに会いてぇ……」
『私もだよ……』
「とにかく、この遺跡を攻略しねぇと帰れねぇ。大丈夫だ、すぐに帰れるようにすっから、」
『うん……待ってる……』
「あぁ。待っててくれな」
この場所はマジで厄介だ。時間軸も変えられてるし、場所も変えられてるし、呪い満載だ。
すぐにゾランに連絡して、俺が帰れない事情を話す。それから、リュカの事も合わせて頼む。
リュカは俺が毎日体力と生命力を補充している。魔力は家にいれば自然と補充されているから必要ねぇけど、そうしないと黒龍の力を使いきって生きていけなくなるからだ。
すぐにどうにかなる訳じゃねぇ。能力制御の腕輪を二つも着けているし、だから数日俺がいなくても問題ない筈だ。
けど、それも心配だけど、単純にリュカに会えないのが嫌だ。すっげぇ嫌だ!
リュカも俺に帰って来て欲しいって言ってくれた。ならすぐ帰らなきゃいけねぇよな?
だから一刻も早くここを攻略しねぇといけない。
ゾランにリュカの事を頼んで、何かあればすぐに連絡するように言っておく。
ゾランもこの状況に凄く驚いてたし、すげぇ心配してくれている。ゾランからゲルヴァイン王国にこの事を伝えて貰うように言っておく。じゃねぇと、姿を見せない俺の事を、逃げ出したとか思うかも知んねぇからな。
ここまで厄介な遺跡だとは、ゾランも思っていなかっただろう。いや、俺も思ってなかったけど。けど、こうなったらどうにかするしか方法はねぇ。
こんな所でずっと一人で、オルヴァーはすげぇ怖くて悲しくて寂しかったんだろうな。
長くリュカを待たせる訳にはいかねぇ。
よし! やる気出てきた!
この呪い、必ず絶ってやっからな!
リュカ、それまで少しの間待っててくれ!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
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今回で100話です。やっとたどり着けました!
とは言え、それを気にして書いていた訳ではないのですが……(´Д`)
あ、因みに黒の石のモデルはオニキスです。
邪気を払ってくれる石なのですよ。
物語は終盤に向けて進んでおります。
今後もエリアスとリュカを見守って欲しいです。
どうぞよろしくお願い致します<(_ _*)>




