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黒龍の娘  作者: レクフル


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人が好き


 リュカが傷つけられた。


 その事にすっげぇ腹が立った。こんな小せぇ子供の龍なのに、なんでよってたかって傷つけんだ?!


 昨日初めて会った時、リュカは俺を見て震えていた。多分リュカは人に危害を加えてねぇ。いきなり龍が現れたら、慣れてない人からすりゃあ、こんな小っちぇ龍でも怖いと思うんだろうけど……


 だとしても、あんなに傷つけなくてもいいんじゃねぇか?腹と翼に矢が刺さってた。って事は、飛んでる所を攻撃されたんだ。それから、至るところに切り傷もあった。また剣で切りつけられたんだな。痛くて、すっげぇ怖かった筈だ。


 俺の膝上に座って、サンドイッチをバクバク食べてるリュカを見てると、なんか切なくなってきた……


 多分、リュカは黒龍の子だ。加護が無くなったって事は、親の黒龍が亡くなったって事かも知んねぇ。だから、リュカはひとりでやって来たんだろうか。黒龍はアーテノワ国の北側にある、ひときわ高く大きな山に住んでいた、とされていたが、そこで親子だけで暮らしてたんだろう。なのに親がいなくなって、どうしていいか分かんなかったんだろうな……


 黒龍は人を守っていた。だから、神龍のように、崇め奉られていた。もしそう聞いてリュカは育ったんだとしたら、人に傷つけられた事はすっげぇショックだった筈だ。


 思わず頭を撫でちまう。それに気づいて、リュカは顔を上げて俺を見る。それから嬉しそうに笑う。ちょっと分かり辛いけど、目を細めて口角を上げる。その表情がすっげぇ可愛いって思っちまう。



「口の横、パンがついてるぞ?ったく……アシュリーみてぇだな……」


「あしゅりーみてぇ」


「あぁ、アシュリーは俺の奥さんな。もう天国に行っちまったけど、最高に可愛いかったんだ。ってか、すっげぇ綺麗な顔してたんだよ。けど、よくそうやってパンとか頬につけてたな。ちょっと天然なところがあってな?俺はアシュリーの全てが好きだったんだ……」


「あしゅりー、すき」


「ハハ、そうだ。会えねぇけどな……」


「あえねぇけどな」


「会いてぇな……」


「あいてぇな」


「そうそう、会いたい。」


「あいたい」


「会いたいって事は、好きってことだな。」


「あいたい、すき、エリアス、あいたい」


「俺がいねぇ時、ずっとそう思って待ってたのか?」


「まってた、エリアス、あいたい」


「そっか……寂しかったんだな。ごめんな?」


「さみしかった」



 思わずギュッって抱きしめちまう。リュカの寂しい気持ちと、アシュリーに先立たれた俺の気持ちがリンクしてんのか、リュカの寂しさがすっげぇ伝わってくる感じがする。



「リュカ……俺また仕事に戻んなきゃいけねぇんだけど……」


「エリアス……」


「……一緒に行くか?」


「いっしょ!」


「そっか。そうだな。村とか街に行かなけりゃ、人に会うこともねぇ。ある程度、被害を受けた場所には行ったからな。今日はあと、魔物討伐に専念すっか。」


「まもの、とーばつ」


「大丈夫だ。リュカは俺が守る。絶対に傷つけねぇからな!」


「からな」


「もうパンは全部食ったか?じゃ、行くか!」


「いくか!」



 リュカをまたひとりで置いて行けなくて、一緒に魔物討伐に行くことにした。空間移動で、高ランクの魔物が出没したと聞いた場所までやって来た。


 その場所に着いた途端、リュカの様子が一変した。五感を研ぎ澄ませ、辺りにある魔物の気配を感じ取ってるようだ。


 すげぇ……やっぱ最高ランクに位置付けられてる黒龍なんだな……


 魔物の気配がする……これは結構な高ランクだ。ゆっくりと気配のする方へと歩いていく。リュカは俺の肩に乗って、その気配を辿るようにしている。


 現れた……マンティコアだ。


 攻撃体制に入ろうとしたその時、リュカがいきなり勢いよく飛んで、マンティコアに攻撃しだした!驚いて俺も走ってのそばまで行くけれど、その前にリュカが掌底を食らわしていた。



「なんだ?!どうしたんだ?!」



 戸惑いながら様子を見ていると、リュカがマンティコアから離れて俺の元まで帰ってくる。そのすぐ後に、マンティコアはグラリと崩れ落ちるようにして倒れ込んだ。



「リュカが……やったんだ……な?」


「リュカ、やった」


「すげぇ……」


「リュカ、すげぇ」


「すっげぇ!リュカ、あんな高ランクの魔物を一撃で!すげぇじゃねぇか!」



 やっぱ龍はすげぇ!小さな体で一発でやっつけられるなんて、すげぇとしか言いようがねぇ!


 ……けどこんだけ強いのに、リュカは人間には攻撃しなかったのか?傷つけられて怖いって言ってたけど、リュカが本気になれば人間なんて一溜まりもねぇ。



「リュカ、人間はすきか?」


「にんげん……」


「えっとな、リュカは龍、で、俺は人間だ。好きの反対は嫌い。分かるかな……」



 自分に指を差したり、リュカに指を差したりして説明する。



「にんげん、すき、にんげん、リュカきらい」


「リュカ……」



 リュカは人に危害を与えねぇ。それは、リュカが人を好きだからだ。けど、リュカは自分が嫌われてると思っている。そうじゃねぇんだ。リュカを怖いと思ってるだけなんだ。けどこれ、どうやって伝えたらいいんだ?


 

「エリアス、すき、リュカ、すき?」


「あぁ、もちろんだ!俺はリュカが好きだぞ!」


「りゅう、エリアス、すき?」


「リュカみてぇな龍だと好きだな!」



 リュカが笑う。嬉しいんだな。ずっと不安だったんだろうな。マジでリュカが人間みてぇに思えてきた。……やべぇな、俺……


 それからも、リュカは魔物を倒していった。ある程度の魔物であれば、リュカは倒せる。リュカと目が合っただけで、その魔物は動きを止める。その後、ドンって掌底を食らわすと、そのまま魔物は崩れ落ちる。すげぇ……俺の出る幕がねぇ。いや、俺もちゃんと倒してっけどな。


 解体は俺がする。リュカも爪で器用に解体してたけど、希少部位とか分かってねぇから、仕上がりがあまりキレイじゃなかった。だから、俺が説明しながら解体していった。リュカはそれを、まじまじと見ていた。可愛いなぁ。


 人に危害を与えねぇで、魔物に滅法強い。これ、一家に一台……いや、街に一体いりゃ、怖いもん知らずだな。こういうとこ、分かってくれりゃあ良いんだけどな……


 高ランクの魔物の出現場所を巡って行って、即座に俺とリュカで倒していく。すっげぇ早くに片がつく。リュカも魔眼持ちなんだろうな。見ただけで魔物が動かねぇ。俺も真似してやってみる。魅了の魔眼を発動させて、魔物をしっかり睨み付ける。すると、魔物は動かなくなった。



「そっか。魅了の効果はこういう事にも使えんだな。リュカのお陰だ。ありがとな!」


「み、りょう」


「リュカの魔眼もそうかもな。」


「まがん」


「リュカの目がな。」


「め?」


「そうだ、俺と一緒だ。……もう夜だな。そろそろ帰るか。」


「かえる」


「そうだ。その前に、ちょっと寄る所がある。」


「よるところ」


「あぁ。」



 リュカを抱き上げて、空間移動でオルギアン帝国の俺の部屋へやって来た。昨日と違う場所だからか、リュカは辺りをキョロキョロ見ていた。



「リュカ、ここでちょっと待っててくれな?」


「まってて?」


「そうだ。すぐに戻ってくる。」


「もどってくる」


「大丈夫だから。」


「だいじょうぶ」



 リュカをソファーに座らせて頭を撫でて、その後すぐゾランの元へ行く。まずはアーテノワ国の状態と、今日の仕事の報告をする。


 それから……



「ちょっと相談があるんだけど……」


「そういえば、朝もそう言われてましたね。なんですか?エリアスさんが僕に相談なんて。」


「えっと、その、黒龍っていただろ?」


「え?……あぁ、はい、黒龍。その存在は確認されていませんが。」


「まぁ、そうだけどな。……で、その黒龍の

には子供がいたみてぇなんだ。」


「え?子供?黒龍の?」


「あぁ。」


「そうなんですか?そんな情報、どこで?」


「いや、情報っつぅより、今いるんだ。」


「え?なにがですか?」


「だから、その黒龍の子供が。」


「は?黒龍の子供が?いる?どこに?」


「俺の部屋に。」


「俺の部屋って……エリアスさんの部屋に?!って、帝城の?!黒龍の子供が?!どういう事ですか?!」


「あ、いや、ちょっと落ち着いてくれ!大丈夫だ!危険はねぇ!」


「いやいやいや、黒龍って、最高ランクの龍ですよ?!子供とはいえ、それがこの帝城にいるなんて、ただ事ではありませんよ!」


「そう、だけど、ちょっと、マジで落ち着いてくれ!頼む!」


「落ち着いてくれと言われましても……!一大事ですよ?!これは!」


「けど、マジで大丈夫なんだ!ちょっと来てくんねぇか?!俺の部屋まで!」


「本当に大丈夫なんですか?!だって、龍ですよ?!」


「そうなんだけど、安全は保証する!俺が嘘を言ったことはねぇだろ?!」


「……そうですけど……!」


「頼むよ、ゾラン!」


「……分かりました。そこまでエリアスさんが言われるのなら……」



 何とかゾランを説得して、空間移動で俺の部屋まで飛んでいく。


 ゾランは慎重だが、決して堅物じゃねぇ。この城では、俺が一番信用している男だ。だから、決して俺の不利になるような事はしねぇはずだ。


 分かっちゃいるがドキドキするな……


 ゾランにも俺のリュカに対する気持ちが伝われば良いんだけどな。









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